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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 外交戦略-対日警戒心を払拭せよ-

2013年09月09日 田中均


『日経ビジネス』2013年9月9日号P.110コラム「直言極言」から転載

外交戦略-対日警戒心を払拭せよ-

最近の国際会議で日本の「右傾化」が頻繁に言及され、時には「国粋主義」といった言葉で安倍晋三内閣の姿勢を批判する場面に出くわす。このような声に対して、「日本がまるで戦前の軍国主義に戻っていくような言い方をされるのはおかしい」と反論を試みるが、議論はなかなかやまない。

右傾化批判の対象となるのは、「歴史認識」「憲法改正など『戦後秩序からの脱却』の意味」「集団的自衛権など安全保障政策」の3点である。

歴史認識については、戦後近隣諸国との摩擦を克服して積み上げられてきた村山談話をはじめとする政府の歴史認識が、修正され後退していくという警戒心である。

「戦後秩序からの脱却」については、憲法の下での日本の平和主義が失われるのではないかという猜疑心。安全保障政策については、中国包囲網の構築にも見える防衛大綱の改定や集団的自衛権の憲法解釈の見直しにより、東アジア地域が著しく不安定になる、という危惧である。さらに、日本の民主主義が批判する力を失い、単線的な右傾化が社会の趨勢となっているのでは、という不安の声もある。

皮肉なことではあるが、このような議論の中で、これまでは国際社会、とりわけ中国や韓国であまり注目されてこなかった村山談話や河野談話、あるいは従軍慰安婦問題でのアジア女性基金などが、日本政府の努力で注目されるようになっている。さらには、戦後の日本は平和に徹した行動により国際社会に「良きモデル」を提供してきた、など日本再評価の議論も出ている。

<経済再生が最優先>

先の参院選の結果、日本の政治は安定し、今後本格的な外交が展開されていくことになった。日本に対する行き過ぎた警戒心や猜疑心は取り除く必要がある。そのためには諸外国が関心を持つ問題について、考え方を明らかにしなければならない。

まず歴史認識については、村山談話や河野談話に示された認識は政治指導者個人の認識を超えて、代々の政府により継承されてきた。それ自体が歴史となっており、尊重されねばならないと思う。また、戦後70年近くにわたり築き上げてきた平和主義の基本的な姿勢は変わることはなく、憲法改正は内外の環境の大きな変化に伴うものである。当然、透明性のある議論を、時間をかけて行うべき課題だ。

安保政策については戦略的アプローチが重要である。日本の外交目的は中国包囲網の構築や対中牽制にあるのではない。中国が覇権を目指すのではなく、「建設的な存在」に向かうことを確実にするのが真の目的なのだろう。このため、東アジア経済連携協定やエネルギー協力、ひいては信頼醸成のための枠組みの構築などを中国とともに考えていく姿勢を示す必要がある。

同時に、集団的自衛権については、集団安全保障にかかわる制約(PKO=国連平和維持活動=など)や、「日本の安全」に直接かかわる制約(北朝鮮有事の際の米軍支援など)は除外する解釈をすべきであろう。これは国家の在り方として当然のことで、近隣諸国の警戒心を解く努力が必要だ。

同時に、対外関係が経済の帰趨に大きく影響されることも認識しなければならない。そのような観点からも、成長戦略の具体化は必須だ。さらに、TPP(環太平洋経済連携協定)妥結にとっても必要な経済構造改革や消費税増税などによって国内外の信頼を獲得し、経済再生の歩みを進めることが最も重要だろう。
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