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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 「急成長する中国」と日本-「質」的な大国を目指せ-

2013年06月24日 田中均


『日経ビジネス』2013年6月24日号P.116コラム「直言極言」から転載

「急成長する中国」と日本-「質」的な大国を目指せ-

マレーシアの首都クアラルンプール。毎年この時期にアジア太平洋地域の有識者が集う「アジア太平洋ラウンドテーブル」が開催される。もう何年も参加しているが、年を追うにつれ中国人が増えている。そして、集まった人々は、中国に対して圧倒的に大きな関心を払っていることを実感する。

今年は初日に、傅瑩(ふえい)全人代外交委員会委員長が「中国の夢」について語った。「中国の夢」は習近平国家主席がこれまでも度々口にしている。傅瑩氏は「中国の夢」を、いまだ貧しい状態で、生活を楽しむことが難しい中国人が、あまねく豊かになることである、と自らの生い立ちを交えながらソフトな語り口で話した。

一方で、「日本」が議題となったパネルでは、中国の出席者が「日本が極端に右傾化している」と口を極めて批判した。最近、国際会議で中国人が「ソフトな中国」を演出しながら、日本を厳しく批判する場面に出くわすが、中国の宣伝戦略なのだろうか。私は建設的な日本を印象づけたいと思い、最後のセッションでスピーチに立った。

<排他的ナショナリズムに陥らない>

「中国の夢が拡張主義でないと聞き安心した。しかし中国の台頭について私は2つの懸念を持っている」。そう切り出して、いくつかの問題を指摘した。中国の成長は国際社会にとって歓迎すべきことだが、問題はそれが必然的に軍事力の拡大を伴い、一方的な行動に走ることである。南シナ海や尖閣諸島のケースを見れば明白だろう。

もう1つの懸念は、将来の不透明さである。所得格差や汚職、環境の劣化、食の安全など多くの重要な課題を抱え、対処がうまくいかなければナショナリズムが外に向かう可能性もある。

また、日本の右傾化への疑念には、「日本の民主主義は健全だ」と訴えた。政治家は個人としての理念や主張を持つ一方で、統治に責任を負っている首相は、現実主義にのっとり、諸外国の批判に耳を傾けている。歴史の解釈問題や憲法改正問題について、日本の民主主義は性急な行動をチェックできる強さを持っている。

しかし、東アジア地域、とりわけ中国や韓国と日本の間には「信頼の不足」という問題が横たわっていることは事実だ。信頼の不足を埋めるためには、共通の課題に対する具体的な協力を着実に深めていくことが重要だ。

幸い東アジアには、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日中韓、米国、ロシアなど18カ国が参加する東アジアサミットがある。ここで、海洋の安全や自然災害といった非伝統的な安全保障課題や、紛争の背景にあるエネルギー問題を解決する協力を進めようではないか。東アジアの成長がエネルギー不足につながることは必至であり、原子力発電の安全性の担保や、海洋やロシア極東などでのエネルギー開発に共同で取り組むべきだ。

日本がアジアにおいて圧倒的な大国である時代は終わった。中国と「量」で競争してもかなうまい。中国に対して同様の懸念を持つ国々と連携を強め、少子高齢化を克服し、経済停滞を脱する成長政策を実現していくことだ。そのためにも、各国・各地域との経済連携協定など、国際ルール作りを先導し、質的な大国を目指すべきだ。

とりわけ重要なのは、排他的ナショナリズムの罠にはまらず、国際協調主義から逸脱しないこと。中国は大国の道を進むにつれ、より傲慢になると予想される。だが、日本は中国との対比のうえでも、上質な大国としての地位を確立していかなければならない。
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