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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 先進国経済の活路-カギは自由貿易とエネルギー-

2013年04月15日 田中均


『日経ビジネス』2013年4月15日号P.112コラム「直言極言」から転載

先進国経済の活路-カギは自由貿易とエネルギー-

新興国の急速な台頭により、世界は多極化あるいは無極化時代に入っているという観察がされて久しい。先進国は欧州連合(EU)、米国、日本のいずれも経済停滞や公的債務危機からの脱出に四苦八苦している状況である。

しかし、ここにきて中長期的に先進民主主義地域の経済回復のテコになると考えられる2つの事象が出てきた。1つが先進地域間の自由貿易協定への大きなうねりであり、もう1つがシェールガス革命に象徴されるエネルギーを巡る動向である。

日本はようやくTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加意図を明確にしたが、TPPだけではなく米・EU自由貿易協定や日本・EU経済連携協定の交渉開始は、世界の経済連携やルール作りに大きな意味を持つ。世界貿易機関(WTO)のラウンドは中国やインドといった新興国との合意形成が難しく、もはや推進力を失ってしまったが、もし米・EU・日本という先進地域間で高いレベルの自由貿易協定ができれば2つの大きな意味を持つことになる。

第1に、自由貿易の一層の推進により、対象地域の需要を高め、経済成長率を押し上げる。そして第2に、政府の市場介入が強い「国家資本主義」に対して、自由市場主義の経済ルールの普遍性を高めることになる。中国など新興国との貿易交渉で、知的財産権の保護や政府調達の透明性などのルールを強化することは難しい。しかし、先進国間でまずルール作りを先行させ、将来、新興国が参加するモデルに発展させるシナリオは描ける。

TPP、米・EU、日・EUのいずれも妥結は簡単ではない。とりわけ農業政策は大きく異なる。しかし少子高齢化で国内市場拡大の余地が少ない日本にとって、TPPや日・EU経済連携協定の成立は死活的に重要である。日本再生のためには、「聖域なき関税撤廃は阻止」といった議論をするより、「関税撤廃の聖域を作る必要のない国内改革」を論じるべきである。

<日本もエネルギー戦略の再考を>

シェールガス革命に象徴されるエネルギー問題にも新しい展望が拓ける可能性がある。北米における安価なシェールガスの生産はいくつかの意味で米国の国力回復につながる。

米国がエネルギー自給を達成する可能性もあり、米国の経常収支赤字を大幅に削減するのみならず、中東へのエネルギー依存も減っていく可能性が高い。またシェールガス開発における米国の技術優位が高まり、国力の増大につながっていく。シェールガス革命による世界的なガス需給の緩和が欧州のロシアに対するガス依存度の低下につながった。そのロシアは、極東での資源開発や東アジアへの資源輸出に動き出している。

日本がこのような動きをどうとらえていくのかが重要となる。エネルギー安全保障の観点からすれば、日本だけが中東に大きく依存している状況は問題だ。まず、米国からのガス輸入を促進し、天然ガスの開発・輸入ではロシアの協力関係を強めるべきだ。

そのうえで、「原子力発電依存からの脱却」という政策を見直さなければならない。日本が優先すべきは原発の安全性担保のための投資であり、その技術を国内及び東アジアで計画されている多数の原発計画に活用することだ。東京電力福島第1原発の事故は、原子力の怖さを示したが、これだけで日本のエネルギー政策の将来が決められるようなことがあってはならないと考えている。
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