国際戦略研究所 田中均「考」 【日経ビジネスコラム】 直言極言 東アジア情勢-日本を取り巻く地政学リスク- 2013年02月25日 田中均『日経ビジネス』2013年2月25日号P.122コラム「直言極言」から転載東アジア情勢-日本を取り巻く地政学リスク-様々な研究機関の2013年リスク評価によれば、「アラブの春」の帰趨やイラン核開発問題などと並び、東アジアの地政学的リスクが高位にランクされている。主なリスクは中国、北朝鮮などであるが、中には日本を英国、イスラエルとともに高いリスク要因とする機関もある。日本、イスラエル、英国の3ヵ国(JIBs)は米国の同盟国だが、米国の力の相対的低下と相まって、これら諸国の保守政権と近隣諸国の間で摩擦が激化するとしている。確かにイスラエルのネタニヤフ政権はアラブやイランに対する強硬路線で知られ、イランの核開発を止めるための軍事的行動に出る可能性は否定できない。英国のキャメロン政権もユーロ圏の債務危機で欧州からは距離を置いた態度を取り、欧州での摩擦要因となっている。安倍晋三政権も自民党の公約や衆院選の議論からは近隣諸国との摩擦を激化させると予想されている。また、日本は思い切った成長戦略がなければ、公的債務を積み増すだけではないかという見方も海外では根強い。安倍政権は今のところ、対外関係で極端に走ることはなく、現実を見据えた姿勢を続けており、日本がリスクとなっているわけではない。しかし、尖閣諸島を巡る問題では、中国の挑発が続けば対立激化が避けられない。中国は自衛隊護衛艦などに火器管制レーダー照射を行ったとされる。中国の当面の目標は尖閣諸島に領土問題があることを日本に認めさせることと見られていた。だが、今では、航空機や艦船を尖閣諸島近辺に徘徊させることにより、中国も実効支配を競っているという姿を国際社会に見せることを企図しているようである。中国は行動をエスカレートさせて相手の反応を見るといった戦術をよく使うが、日本の現在の国民感情や政治の雰囲気を見誤らないよう切に願う。中国と日本の国民感情がぶつかり合い、抜き差しならない状況に至るのは避けなければならない。<最大のリクスは中国国内>東アジアの最大のリスク要因が中国の国内統治であることは、多くの機関が指摘する通りである。中国の経済成長と国内の情報革命は密接に結びついており、国民への情報伝播が瞬時に大衆運動に至りやすい状況が生まれている。習近平政権が国内所得格差の是正、汚職の追放など国民の不満を解消する施策をどうこなしていくのか。強権発動で統制しようという強硬派と、改革の必要性を認める柔軟派の路線対立は続く。国内の課題がうまく解決されなければ、ナショナリズムが外に向かい、矛先が日本になることは十分警戒しなければなるまい。北朝鮮問題のリスクも高まる。国際社会から糾弾されているにもかかわらず、ミサイル発射に加え核実験が繰り返された。経済制裁も中国が支援を続けるならば効果は薄い。中国を巻き込んで制裁措置の実効性を高められるかどうかがカギで、習近平政権にとって重大な試金石となる。強力な金融制裁は効き目があるだけに北朝鮮は激しく反発し、さらに緊張が高まる可能性は高い。しかし、これまで来た道を繰り返すわけにはいかない。中国を引き込み、日米韓の危機管理計画を整備し、同時に権力の中枢と強い決意で交渉することなくして道は拓けないのだろう。東アジアはかつてない構造的なリスクを抱え込んでいる。日本が的確な戦略をもってリスクの克服に大きな役割を果たせるか。あるいは日本がリスクとなってしまうのであろうか。