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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 2013年の外交課題-中国と建設的関係を築け-

2012年12月24日 田中均


『日経ビジネス』2012年12月24日号 p.166コラム「直言極言」から転載

2013年の外交課題-中国と建設的関係を築け-

2013年の外交の最優先課題は、関係が悪化した近隣諸国とどう向き合うかである。

対外的に攻勢を強め、尖閣諸島を巡り厳しい関係が続く中国の習近平体制とどう切り結んでいくのか。竹島問題で冷えた日韓関係を、双方が新体制となる中でどう舵取りするのか。北朝鮮情勢の展開にどう対処するのか。アジア部に関心を移したロシアをどう位置づけるのか。こうした近隣諸国との関係再構築を進めるうえでバラク・オバマ大統領が再選した同盟国、米国との協議がまず重要となる。

だが、日米が東アジア政策について同じ方向を向いているわけではない。むしろ日本の新政権が中国や韓国との関係についてどういう方向性を打ち出すのか、オバマ政権は懸念を持っている。米国は憲法改正論議や集団的自衛権の解釈の変更、防衛力の強化などについては歓迎するのだろう。しかし、河野談話や村山談話の見直しといったことに着手して、アジア諸国の反発を招き、米国内のアジア系の人も非難を強め、日本が孤立する結果となっては困るという意識が米国には強い。

対中政策については、尖閣諸島が日米安保条約の対象であり、日中の対立が決定的になれば、米国自身が巻き込まれざるを得ないこととなるが、これは何としても避けたいというのが米国の本音であろう。従って日本側が尖閣への施設の構築や定住者による管理の強化を図ることは問題視するだろう。

<能動的外交で重層な枠組みを>

日本が考えるべきは大きな絵を描いたうえでの能動的外交である。それは、急速に台頭してきた中国と建設的に向き合うことが基本となる。第18回中国共産党大会で明らかになった国内の路線闘争やナショナリズムの高揚は中国の将来をさらに不透明にしている。

経済成長率が鈍化していけば、共産党の求心力を維持するため、強硬なナショナリズムを外に向けることも考えられる。このような情勢に備えるうえでも、日米安保体制の重要性は増すだろう。米国の「アジアへの回帰」戦略を支えるべく日米の役割分担を見直し、自衛隊の役割を拡大し、同時に日米共同訓練・共同基地使用の拡大などを通じて沖縄基地の負担削減につなげなければならない。日米中3カ国の枠組みを早急に創設し、国防費の透明性確保や天災時の共同行動といった信頼醸成措置の強化も図るべきであろう。

また、日中韓の経済連携や東南アジア諸国連合(ASEAN)、日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インドの16カ国による地域経済連携によって、東アジアの経済統合を図ると同時に、TPP(環太平洋経済連携協定)に早期に参加し、アジア太平洋自由貿易圏に進むことを明確に示すべきであろう。

これから重要となるのはエネルギー協力である。南シナ海などでの領土紛争の背景にはエネルギー獲得競争がある。東アジアの経済成長が加速すればエネルギー消費は増す。石油天然ガスの共同開発、原子力発電の安全性担保、海上輸送の安全担保といったエネルギー安全保障は東アジア地域共通の利益であり、米国やロシアも入った東アジアサミットの場を活用して本格的な協力を立ち上げるべきである。

中国との間で尖閣問題のみを協議しても解があるとは到底考えられない。日中が将来の関係について共通の立場を作ることで、初めて尖閣問題は相対化される。韓国との間でも同様である。現実を見据えた大きな絵を示すことこそが問題を克服し、国益を担保し得る近道となるだろう。
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