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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 米大統領選と日・米・中関係-相互依存深い中国への対処-

2012年10月22日 田中均


『日経ビジネス』2012年10月22日号 p.114コラム「直言極言」から転載

米大統領選と日・米・中関係-相互依存深い中国への対処-

米国では間もなく大統領選挙である。中国でも来月開催される第18回党大会で10年ぶりに指導者が交代する。民主党のバラク・オバマ候補、共和党のミット・ロムニー候補のいずれが米国大統領に選ばれるかにより、米中関係は大きく変わるのだろうか。伝統的に共和党は同盟重視の政策を取り、中国に厳しく対処するとされる。しかし、現実の世界はそれほど単純ではない。

米国、日本、中国の過去10年にわたる経済関係の推移を見れば、3者の相対的関係が大きく変わってきたことが分かる。2000年の名目GDP(国内総生産)ベースで米・日・中の経済規模はおおよそ10:5:1であった。2010年にはそれが10:4:4となり、さらに重要なのは2025年頃には米中が逆転する可能性もあるということである。

米国の貿易総額に占める割合は、2000年には日本が11%、中国が4%だったが、2010年には日本は6%に減り、中国は12%と大きく増大した。米国の貿易赤字に占める割合を見ると、2010年時点で中国は43%にも達し、日米貿易摩擦が厳しかった1990年時点の日本と同じ割合となっている。

米財務省証券の保有残高では、90年時点ではほとんど保有がなかった中国が2010年時点で国外保有残高全体の27%に達し、20%の日本を抜き最大の債権国となっている。

<尖閣問題は大きな絵の中で判断>

米国と中国は強い相互依存関係にあり、ロムニー候補が大統領に選ばれたとしても関係を重視せざるを得ない。他方、オバマ大統領としても軍事大国化の道を歩み、南シナ海や東シナ海で攻勢を強めてきた中国に対し、日本や韓国、オーストラリアといった同盟国と協調した安全保障政策がますます重要となっている。

そういう意味では、米国の大統領選挙結果によって日米中の関係が大きく左右されることはないと言えるのではなかろうか。

尖閣諸島問題を巡る米国の態度は「尖閣諸島は日米安全保障条約の対象である。他方、尖閣諸島の領有権の問題については立場を取らない」というものである。日米の同盟関係の信頼性を守りつつ、中国と事を構えたくないという米国の意図を明確に示しているのだろう。そのような米国の基本方針は、尖閣諸島問題の推移によっては矛盾することも考えられ、米国も無関心ではいられない。日本及び中国がこの問題へどのように対処していくのかが、今後の日米中関係を規定していく大きな契機となるかもしれない。
 
尖閣諸島問題は大きな絵の中で見なければならない。中国や台湾ととことん事を構えてでも、漁業施設の構築や定住化などの方法で尖閣諸島の実効支配の強化を図るべしという考え方もあるだろう。また、関係を悪化させるよりも中国が求めるように紛争の存在を認め、領土問題として関係国で協議していくべしという立場もあるのだろう。

しかし、このような問題が一朝一夕で解決するとは到底考えられない。従って、これ以上双方が国民感情を刺激するような行動を尖閣諸島について取らないという原則の下、現状を凍結し、事態を沈静化させることが当面唯一可能な方策ではないかと思う。

日本の領土をどう守っていくのか。中国や米国などとの国際関係をどう形作り、東アジア地域の安定をどう維持していくのか。日本の経済的利益をどう担保していくのか。こういった点について政府は大きな絵を描いたうえで判断をしなければならない。
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