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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 オスプレイの日本配備-普天間基地の移設を急げ-

2012年08月27日 田中均


『日経ビジネス』2012年8月27日号 p.122コラム「直言極言」から転載

オスプレイの日本配備-普天間基地の移設を急げ-

固定翼を持つ新型輸送ヘリ、オスプレイの日本配備が大きな問題となっている。普天間基地配備の従来型ヘリに比べ、航続距離、速度、収容人員などで約2倍の能力を持つとされる。空中給油も可能で、緊急時の展開任務を担当する海兵隊にとっては極めて有用なヘリだろう。

一方、オスプレイは開発段階から事故が多く、現在でも何件かの重大事故が報告されている。これが岩国基地への持ち込みや普天間基地配備に対する強力な反対の理由になっている。今日のポピュリズム的雰囲気の中で、とにかく反対といった議論が横行しているが、日本の安全保障政策の根幹にかかわる問題である。論理的かつ冷静に考えなければならない。

まず、このような装備の変更は日米の安保体制上、日本側がイエス、ノーを言い得る事前協議の対象ではない。1960年の安保条約改定の際、事前協議制が導入された。その対象は在日米軍基地から戦闘作戦行動を行う場合、並びに在日米軍の配置及び装備の重要な変更とされている。装備の重要な変更とは核弾頭や中長距離ミサイルの配備を意味し、ヘリの機種変更がこれに当たるとは考えられない。しかし、日米間で協議し得ないというものではなく、安保条約でも第4条で随時協議を定めている。この問題もあらゆるレベルで協議を行うべき課題であろう。

<矛盾しかねない利益の調整を>

「安全性」については、事故原因の特定とそれに対する改善措置を示し、これらを含めて日本政府が見解を出すことが重要である。操縦する米軍兵士自身が危険にさらされるわけだから、米軍は当然、安全に万全の措置を取るだろう。いかなるヘリであれ100%安全と言い切ることはできないが、日米両国政府により安全性についての明確な評価がされることが必要である。そのうえで、普天間基地周辺の低空飛行を制限するなど運用の問題を考えることが重要ではないだろうか。

さらに大局から考えてみたい。在日米軍の問題は常に地元、とりわけ沖縄の過重な負担を軽減する必要性と安全保障上の必要性という2つの相矛盾しかねない利益の調整に行き当たる。朝鮮半島は北朝鮮の核・ミサイル開発や南北関係の緊張など、地域の安全を大きく損ないかねない情勢が続く。さらに中国の飛躍的台頭と軍事能力拡大が将来の不透明・不確実性を増している。

核兵器を持たず、主要国の中でGDP(国内総生産)比の防衛支出が圧倒的に少ない日本が、米国の安全保障の傘なく国民の安心を担保できるとは考えられない。日米安保体制は米国に日本防衛義務はあるが日本に米国防衛義務はないという、世界にあまり例を見ない片務的安保体制である。他方、日本は米国に基地を提供する義務を負っており、これで双務性が形作られている。

在日米軍基地は米国の前方展開戦略にとって極めて有用である。同時に、体制の異なる国々が近隣に位置する日本にとっても必要な抑止力を得ることにつながっている。だからといって沖縄に基地提供の負担が集中するという事態が放置されてよいわけがない。

オスプレイ配備により普天間基地の一刻も早い移設がさらに重要となる。当面はオスプレイの安全な運用に万全を期し、一方では普天間基地の辺野古への移設実現は極めて困難であることに向き合うべきであろう。普天間基地で大きな事故が起これば、日米安保体制の根幹を揺るがす事態に容易に発展することを両国政府は肝に銘じ、問題の早期解決を図らねばならない。
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