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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言-悪循環を断つ3つの覚悟-

2012年05月21日 田中均


 朝鮮半島情勢から目が離せない。昨年12月19日の金正日総書記死去の発表、今年2月29日の核問題の米朝合意、そして4月13日のミサイル発射失敗。その後、北朝鮮は韓国に対する敵意をむき出しにした声明を繰り返している。3回目の核実験を強行するのではないか、という報道も散見される。
 対話をしつつ、一方で強硬路線を取るという一見矛盾する行動は、金正日時代からの北朝鮮の行動様式である。彼らの行動の背景は通常の国家のような合理的な国益計算ではない。金日成、金正日、金正恩を頂点とし、彼らを支える特権階級の体制を維持するための手立てと見るべきであろう。
それも国内の秩序維持を最大の眼目としている。国内の生産は落ち込み、最低限の消費水準を維持するのも困難な国内情勢にあって、強権で不満を抑圧することに加え、核やミサイル実験により力を誇示することは国民の不満を和らげ、体制への求心力を維持していくために必要な装置と考えているのだろう。先の大戦で日本の政府・軍部がとった行動と同様である。一方で、最低限の食料やエネルギーは確保しなければならない。対話を続け先進国から支援を受ける、もしくはそれに多くを期待できなくとも結果的に中国からの支援を引き出すということを繰り返してきた。
 残念ながら、今後もこのような北朝鮮の行動は続くと考えざるを得ない。特に金正日総書記の死後、いまだ北朝鮮の権力基盤は固まっているわけではなく、軍内部には不安定要素が存在しているとも考えられる。攻撃的行動に出て、国内を引き締めるという手法を繰り返していく可能性は高い。核実験やミサイル発射、場合によっては限定的な対韓国軍事挑発などはいずれも従来使ってきた手法であり、繰り返す恐れがある。
この悪循環を断ち切り、問題の解決を図ることは困難ではあるが、不可能なことではない。しかし、それにはこれまでの経験を生かし、相当な覚悟を持って当たる必要がある。
 第1に、危機管理計画である。危機が到来した際に万全の体制で臨めるよう、日米韓で自国民保護や難民対策など非軍事的計画も含めた危機管理計画の策定作業を静かに進めておくべきである。備えがあることが危機を未然に防ぐ。1994年の第1次核危機の際は韓国の了解が得られず十分にはできなかった日米韓の協調体制が確立されることを望む。
 第2に、中国の説得である。北朝鮮が再度、核実験などを行った場合、国連は新たな制裁措置を検討しようが、中国が参加しない制裁措置は意味がない。北朝鮮を助け続けることがさらなる危機を生み、結果的には中国が最も避けたいと考える北朝鮮の体制崩壊につながることを中国自身が認識すべきである。
 第3に、制裁だけで問題が解決するわけではないので、直接交渉が必要になる。問題は交渉のやり方である。北朝鮮外交当局との交渉による合意は結果につながらず、反故にされてきた過去から教訓を得なければならない。6者協議の合意や先般の米朝合意の結末を見れば明らかであろう。核問題などは権力の中枢と交渉を行うことが、北朝鮮相手には必要である。このためには双方が首脳に直結したプロセスを作って交渉を行うしか方法はない。2002年9月の小泉純一郎首相訪朝が一定の成果を収めた背景には、首脳に直結した形での事前交渉があったことに十分留意すべきではなかろうか。
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