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国際戦略研究所

国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言-官邸に対外戦略機能を作れ-

2011年09月19日 田中均


 『日経ビジネス』2011年9月19日号p.138 コラム「直言極言」から転載

野田新政権が発足した。復興、円高、財政、税と社会保障といった課題は待ったなしである。同時に日本を取り巻く対外的な環境は大きく変化しており、日米関係、日中関係、北朝鮮問題、北方領土問題など外交でも緊急性の高い課題が山積している。

鳩山・菅政権の外交に見るべき成果はなく、むしろ停滞したという評価が与えられる場合が多い。野田新政権には、これまでの民主党政権が犯した誤りへの反省に立って外交を進めてもらいたいと思う。

まず、外交面での誤った「政治主導・脱官僚依存」は是正されるべきだ。諸外国で政府関係者から「日本の誰と話せばよいか分からない。官僚は政治家に信頼されていないようだ。他方、政治家と複雑な国際情勢について話ができるとは思わない」とよく聞かされた。

諸外国においては外務大臣も含め外交当局者は、ほぼ例外なくプロフェッショナルである。政府間の間断なき対話こそが信頼の基礎であり、外交の出発点である。それが欠けていたからこそ、日本の外交は停滞した。官僚も受動的になるのではなく、積極的に政治の信頼を得るように働いてほしい。

従来、外務次官は週1回程度、首相や官房長官に対して国際情勢ブリーフを行っていたほか、関係局長は随時、官邸でのブリーフをしていた。民主党政権になってこのシステムが崩れた。「政治家を通して首相や官房長官へブリーフする」という考え方のようだが、政治家が外交・安全保障分野の専門家たりうるのだろうか。官邸の正確な情勢判断の欠如が、的確でタイムリーな政策を生み出せない要因となった。

<地域最大の民主主義国の役割>

さらに、新興国の台頭により多極的色彩を強めている世界にあって、日本の繁栄を担保していくためには緻密な戦略が必要になる。外交は「日米関係が基軸」と言って済まされるものではなく、とりわけ東アジア地域では重層的な関係構築が求められている。

東アジアという日本の将来にとって最も重要な地域に対する戦略は、包括的なものでなくてはならない。もう外務省だけが外交戦略を考える時代ではない。官邸に対外戦略を構築していく機能を作るべきだろう。

本来、このような機能は明確な権限を定めた法律により、国家安全保障会議事務局や国家戦略局といった形で整備されるべきものだ。しかし法的な整備の前でも、国家戦略大臣や官房長官らを中心に、どのような形で包括的な対外戦略を構築していくか検討を進めるべきだろう。

野田新政権には日米首脳会談、APEC(アジア太平洋経済協力)会議や東アジアサミットなどの外交舞台が待ち受ける。「各国首脳に会って信頼関係を構築」するのも重要なことだが、2年間の停滞の後の外交再出発である。きちんとした戦略に基づく考え方の整理をしてから、重要な外交の場に臨んでほしい。

国際社会において、近年の最大の戦略課題は「台頭する中国」であり、中国が覇権を求めず、地域でルールを尊重する建設的な国となるためにどういう施策を講じるか、と言う点である。同地域で最大の民主主義国であり経済大国である日本は、まさに、この戦略課題で役割を果たさねばならない。

このためにも日米同盟が必須だが、普天間問題で現実的な解を見出すためにも、もう少し土俵を広げた日米協議が必要だ。さらに米国、中国、ロシアを含む東アジアサミットをどう活用するのか、米国や韓国などと協議するべき事項は多い。野田政権が能動的外交に舵を切ることを切に望みたい。
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