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国際戦略研究所 田中均「考」

【毎日新聞・政治プレミア】国際関係を壊す「国内政治化」する外交

2025年05月27日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問


 今日、国際場裏で目にするものの多くは「政治」であり、とても「外交」と言えるものではない。これはトランプ大統領の米国において顕著だが、日本でも同じ傾向が存在する。
 
 トランプ政権の対外施策は「トランプ政治」そのものだ。トランプ氏は自分に忠誠を誓うスタッフに囲まれ、自分でシナリオを描き、出演者は自 分のみ、広告宣伝も連日のメディアとの対話やSNS(交流サイト)で自ら行っている。通常、外交は国と国の利益の相違を埋めるものであり、利益調整のための周到な積み上げを必要とするが、トランプ氏が行っているのは米国の膨大な力を背景とした「押し付け」だ。
 
 力のない国との間では「押し付け」も奏功するが、力を有する国との間ではそうはいかない。ウクライナ戦争を止める、ガザ戦争を止める、という場合、重要であるのは米国の力を活用し、ロシア・プーチン大統領やイスラエル・ネタニヤフ首相に妥協を迫る行動であるが、周到な準備なく成功することはありえない。トランプ氏はプーチン氏との電話協議を行ったが、ウクライナ戦争の停戦という観点からの成果がなくとも「2時間話した」ことを喧伝(けんでん)するトランプ政治の意味はあったのだろう。「トランプ外交」は政治であるだけに、重要なのはトランプ氏が出演する動画だ。

トランプ政治が国際的ルールや規範を壊すことを危惧
 
 宣伝を旨とするトランプ政治は時として国際社会が長年築いてきたルールや規範を破壊する。地球温暖化についてのパリ協定や世界保健機関(WHO)からの脱退も温室効果ガスの排出削減や感染症防止のための国際協力の努力に水を差す。人道的援助の凍結の悪影響も大きい。しかし最も有害であるのは「トランプ関税」だ。
 
「トランプ関税」は戦後80年にわたって着々と築かれ世界の成長の根源と考えられてきた多国間貿易体制を損なってしまう。関税貿易一般協定(GATT)に始まり世界貿易機関(WTO)で結実していく多国間貿易体制はケネディ・ラウンドやウルグアイ・ラウンドといった多国間の交渉によって関税の削減や貿易障壁の軽減を実現し、貿易の自由化を実現してきた。その間、国ごとに差別的関税を課してはならない「最恵国待遇」は多国間貿易体制の基本原則だった。
 
「トランプ関税」は重要原則を無視した一方的行動だ。一つはWTOに定められた手続きによらず一方的に関税を上げていることだ。無論、ダンピング防止や不公正貿易慣行に対して対抗措置をとる見地から関税引き上げが認められているが、それは明確な事実調査と厳密な手続きに従わなければならない。もし自在に関税引き上げを行うことになれば、歴史が示す通り関税引き上げ競争になり、保護貿易に向けて一直線ということになってしまう。
 
 さらに「トランプ関税」は「最恵国待遇」原則にも反している。米国は英国との間でトランプ関税についての合意を発表したが、その中で25%の自動車関税の一部を10%に引き下げた。この税率は最恵国待遇原則に基づき当然他国にも適用されなければならないが、そのようなことではないようだ。
 
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https://mainichi.jp/premier/politics/田中均/
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