国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】トランプ大統領の不法な関税引き上げ 日本はどうするべきか
2025年04月09日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
トランプ米大統領の高関税政策は経済的合理性に基づくものではない。
米国の貿易赤字は2024年に約1兆2000億ドルに達しているが、急に増えたわけではなく、1970年代以降一貫して増え続けてきている。トランプ大統領は米国の雇用を増やすために、高関税をかけ、国内の製造を活発化させると主張するが、米国の失業率は4%程度と歴史的にも極めて低い水準にある。移民政策の厳格化も労働力の不足につながるだろうし、高関税が国内製造業の生産を活発化できるか甚だ疑問だ。
米国の貿易赤字は米国民の消費需要が極めて旺盛なところにあり、ドル高で輸出が振るわないことも加わり、赤字幅が拡大している。他方、サービス貿易(国際運送、知的財産権受け取りなどサービス収支)について米国は2億8000万ドルの大幅黒字に達し、世界で飛びぬけている。
要するに自由貿易の進展により国際的分業が促進され、中国やベトナムなどいまだ労賃の安い新興国の製品輸出が大幅に増え、先進国では付加価値の高い産業に移っているという経済発展の結果、生じていることだ。
1980年代の経験から見えること
80年代の経済摩擦時代に標的になったのは米国貿易赤字の60%を占めた日本だった。レーガン共和党政権だったが、日本は激しい米国の圧力に直面しいろいろな要求に応じた。
まず、第一に取り組んだのは自動車輸出などの自主規制だった。要するに日本から輸出する自動車などの数量を政府の行政指導により一定量まで自主的に規制し、輸出量を削減した。
さらに85年のプラザ合意により円高・ドル安に誘導する政策がとられた。円高は日本から米国への輸出を抑制し、ドル安は米国から日本への輸出を拡充するというわけだ。1ドル=235円から1年後には150円と大幅な円高をもたらした。
筆者が外務省の担当課長であった85年からの2年間で米国と26の協定を締結した。その中には鉄鋼や工作機械などの自主規制もあったが、大半は関税削減や非関税障壁を取り除くなどの市場開放措置だった。
当時日本が米国の要求に応じたのは米国の失業率が10%を超え、米国議会の激しい日本批判や対日差別関税引き上げ法案が連日のごとく議会に提出されるにおよび、米国政府が「自由貿易を守るため」に日本の行動を要求したからだった。
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