国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】色濃い対米追随の気配 日米関係のあり方を見直そう
2023年04月12日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
日本の米国依存は従来に増して強まり、あらゆる面で対米追随の気配が濃くなっているように見える。もっとも、ロシアのウクライナ侵略、中国の習近平体制への権力集中、台湾海峡の緊張激化、北朝鮮の度重なるミサイルの発射など日本を取り巻く安全保障環境は日々悪化しているので、日本の対米依存の高まりは当然との見方も強い。一方、アフガニスタンからの性急な撤兵や、ロシアのウクライナ侵入を許し、さらには中国の仲介によるイランとサウジアラビアの国交正常化など超大国米国の権威には疑問符がつけられるに至っている。米国内の分断と政治の混迷は目を覆うばかりで、2024年大統領選挙に向けてのトランプ元大統領とバイデン大統領のしのぎあいが国内的混迷の度合いをいっそう増すだろうと見られている。国内の分断と政治的混迷は対外政策を不安定にするだろう。国際社会では日本とは逆に、米国と距離を置こうという国も多い。果たして日本はこのままでよいのか。
日本の安保、政治、経済を貫く横軸
筆者は米国でワシントンとサンフランシスコに合計6年間勤務し、外務本省で米国との政治、経済、安全保障関係を直接担当した。局長以上の幹部になれば対米関係は日本外交の基軸として意識されるので、退官後の有識者としての活動の期間を含めれば、とても長い期間、米国との関係を見続けてきた。この大半の期間において日本にとって外交のプライオリティーは米国との関係を充実強化していくことだった。自民党政治家にとっても米国から独立色を強めることや米国に反旗を翻したととられることは国内政治でも命取りになると意識されていたと思う。例えば米国との経済摩擦が激しかった1990年代に「日本には米財務省証券を売る選択肢がある」と匂わせた自民党幹部は米国に対する脅しであるとして激しい反発を買った。
東西冷戦の時代にはソ連の脅威に対して西側の一員として米国との関係を強化することは必須であり、膨大な貿易不均衡と米国議会の厳しい対日批判が日米関係を脅かしていた。80年代、90年代において経済摩擦解消のため市場開放に努めたが、これは一方では日本が米国の圧力を利用して国内改革を進めた面もあった。さらに、政府開発援助(ODA)などを通じて国際貢献の拡大が強く求められた。冷戦終了後は安全保障面において日本の役割を強化し日米安保体制を日米両国にとってバランスの良いものとすることや、中国の急速な台頭にどう対抗するかが主要な課題となった。
中国に対峙する米国の戦略が明らかとなってきた
10年に中国が日本を国内総生産(GDP)で追い越し、世界第2の経済大国となり、12年以降、習近平総書記の下で国内的に独裁体制を固め、対外的にも攻撃的な外交(戦狼<せんろう>外交)の度を強めていくに従い、米国は中国を唯一の競争相手と位置づけ、従来のように中国を関与させ協力を進めていっても(関与政策)中国を変えることはできないと結論付けた。日米は従来のアジア太平洋協力から、座標軸を変更し「インド太平洋」概念の下でQUAD(クアッド、日米豪印)体制を組み、「一帯一路」を掲げ影響力を増す中国に相対する戦略を推進してきた。また米国は「AUKUS(オーカス)」という形で英豪との安全保障体制を創設し、豪州に原子力潜水艦技術を供与することを決めた。北朝鮮との関係での日米韓の連携も事実上、中国も念頭に置かれている。そして日米の統合的抑止力の推進だ。日本の防衛力の飛躍的拡大の下、日米の間で中国を念頭に置いた軍事的一体化は進められている。安全保障面で中国に対峙(たいじ)していく体制は固まったかに見える。
安全保障だけでない日米の対中戦略
米国の戦略の肝は、共産主義体制にある中国に覇権を渡すわけにはいかないということなのだろう。その点については日本にも同様の利益があり、日米安保条約に基づき中国に対して十分な抑止力を持つことは極めて重要だ。他方、…
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