国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】分断される世界 戦争は終わるか、新たな衝突が始まるか
2023年02月15日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
ロシアのウクライナ侵入から1年。戦争が終わる兆しはどこにもない。中国の偵察気球は米本土を横断し、サウスカロライナ沖で撃墜された。およそ六十数年前、米国の高高度偵察機U2がソ連(現ロシア)の地対空ミサイルによって撃墜されたことは米ソ冷戦を象徴する事件として歴史に刻まれている。今日の世界は求心力を欠き、国際機関を通じた国際協調やグローバリゼーションがもたらした国々の相互依存関係、さらには地域統合など平和と安定の鍵となる動きは精彩を欠く。2023年も世界は幾つかの地政学的リスクを背負って混迷するのだろう。
終わらぬ戦争
ロシアにおいてもウクライナにおいても戦争継続の流れは強まる一方だ。北大西洋条約機構(NATO)からの強力な武器を求めるウクライナのゼレンスキー大統領のキャンペーンは成功し、強く求めていた独のレオパルト2のほか米や英からも戦車の提供を受け、さらには戦闘機の提供も話し合われているようだ。ロシアはさらなる兵員の動員を行うようであり、春先の戦闘は激しさを加えるのだろう。ウクライナにしてみれば武器の支援がなくならない限り戦争継続の意思は固く、民間施設に対するロシアのミサイル攻撃が激しさを増すにつれ愛国心が高まっていくのだろう。ロシアにしてみれば戦争が続くにつれ戦死者は増えるが、大国の意地としても中途半端に戦争を終結することはできないと考えるのだろう。今後ロシア人兵士の戦死者が増えるにつれ国内の反プーチン勢力の批判は強まるだろうが、プーチン大統領が戦争継続を再考するような場合があるとすれば、それは明年3月の大統領選挙に向けて再選の可能性が脅かされる場合ぐらいだろう。
本来は米国が唯一戦争を止められる力を持った国であったはずだが、直接戦争に巻き込まれたくないというバイデン大統領の意思は強い。これまで躊躇(ちゅうちょ)を重ねてきたドイツが戦車の支援によりNATOの前面に出た。長期の戦争は対ロシア関係でもエネルギー需給との関係でもドイツの利益ではないと思われるが、欧州連合(EU)や米国の意向と離れて戦争終結に動きうるとも考えにくい。
対ロシア経済制裁もさらに強化されていくだろうし、エネルギーや食糧の価格高騰は免れえない。ただロシアの石油・ガスは欧州に代わり中国やインドに輸出先を見いだしており、エネルギー需給が極度に逼迫(ひっぱく)する事態は想定されない。
新たな衝突
米中で偶発的で限定的な衝突が起きる可能性は排除できない。しかし、中国は共産党の統治のためには高い経済成長を続けることが必須であると理解している。ゼロコロナ政策の撤回後、2022年には3%に落ち込んだ経済成長を軌道に戻せるかどうかが極めて重要だ。少なくとも今後数年は国際社会との相互依存関係を崩壊させるような米国との衝突を望むはずはない。一方で、既に人口動態や共産党の過剰な介入など経済成長の隘路(あいろ)は明らかとなっており、今後低成長が続くようであれば政権が求心力を求め対米ナショナリズムを高揚させる可能性はある。米国も国内の分断が激しい中、対中国強硬論が通りやすい情勢にある…
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