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国際戦略研究所 田中均「考」

【朝日新聞・論座】政治経済も外交も習近平という独裁の危うさ 経済は?台湾は?

2022年10月26日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長


 第20回中国共産党大会はかつて見ない独裁体制を誕生させ閉幕した。部外者から見れば中国の様な市場経済を半ば取り入れた情報化現代社会と強権体制は両立しうるのか、はなはだ疑問に思うが、それが習近平のいう「中国の特色ある社会主義」たる所以か。共産党大会の結果から見えてきた諸点について率直に論考したいと思う。日本の戦略については今後の記事の中で論じていく事としたい。

権力を求める習近平の執拗なアプローチ
 驚くべき執拗さである。習近平は総書記に就任した2012年から中華民族の復興、即ち、中華人民共和国が100周年を迎える2049年までに米国を凌駕する最強の国家になる事を「中国の夢」と掲げ、それを実現するためには毛沢東時代の様な権力の集中が必要と考えたのだろう。「反腐敗闘争」も事実上政敵を排除する道具ともなった。そして二期10年に限るとする国家主席の任期を撤廃することに始まり、今次共産党大会ではかって鄧小平が毛沢東時代の反省の上に導入した集団的指導体制や世代交代の仕組みを事実上無効にするような行動をとった。独裁的体制を防ぎ世代交代を実現することを旨として実践されてきた政治局常務委員会の68歳定年の内規は無視される結果となった。習近平は68歳を超え総書記として3期目に入ることとなり、更には4期、5期を狙えるような体制が出来つつあるようにも見える。今回の政治局常務委員会の布陣では年齢、実績等の基準で見て習近平の後継となり得るような人材が登用されているわけではない。むしろ習近平の側近グループが新たに常務委員に登用され、習近平との「距離」が重視されている。習近平との意見の違いが注目されてきた李克強首相は常務委員から外れ、将来のリーダーと目されていた胡春華に至っては常務委員に登用されなかったばかりか政治局からも外され、その一段階下の中央委員に降格となった。習近平の有力な対抗勢力と見られてきた共産主義青年団出身者は軒並み権力中枢から外される結果となっている。共青団出身の長老である胡錦涛前総書記が共産党大会閉会式の途中で追い立てられるように退席したのは、巷間伝えられる体調不良による自発的な退席ではなく、人事に不満を持つ胡錦涛前総書記をこれ見よがしに退席させたと考える方が自然なのかもしれない。
 習近平体制が格段に強化されたのは間違いがない。しかし中国特有の権力闘争が完全に封じ込められたわけではない。この間、人事等での大きな不満が蓄積され、機会を捉え権力闘争に繋がっていく可能性もないわけではない。特に来春以降の政府人事で習近平総書記の側近で常務委員会No.2に取り立てられた李強上海市党委員会書記が首相となる事が想定されている。従来は政治・外交面では習近平総書記、経済運営については李克強首相という大まかな役割分担があったが、これからは政治も経済も外交も習近平総書記が采配を振るうということになる。果たして習近平の強権を振るう姿勢が経済運営に通じるのかが最大の着目点となろう。

経済運営が曲がり角にある理由
 共産主義体制で人々の自由が束縛されても大きな政治批判に繋がっていかない最大の理由は高い経済成長であった。特に日常生活を重視する中国国民にとって明日は今日より良いとの展望を持てることが社会の安定のためには重要である。しかし中国経済は明らかに曲がり角にある。ゼロコロナ政策もあり従来のような高い経済成長は見こせないし、おそらく今年5.5%前後の政府目標も達成されないだろう。共産党大会の機会に第3四半期の経済成長率の実績が公表されなかったのは国民の不満をさらに加速させてはまずいとの考慮が働いたからなのだろう(これに関しては、党大会とその後の「1中全会」が終了した翌日の24日になって、第3四半期の成長率がプラス3.9%、これによる今年1月~9月期の成長率がプラス3%であることが発表された)。
 経済運営を巡っては共産党内部でも路線の違いが存在してきた。ゼロコロナ政策やサービス産業への更なる規制の導入、共同富裕の名の下でアリババやテンセントといった巨大企業への寄付の指示などこれまでも習近平総書記は共産党の市場への介入を強く支持してきたと言われるが、李克強首相が去った後の新体制の下、どちらかというと改革開放路線の下、自由市場を維持していく考え方が薄らいでいくのではないかと危惧される。
 さらに今後、経済安全保障の考え方の下、米国を中心にサプライチェーンの見直しや高技術輸出の見直しなどが行われていくのだろうが、これも中国貿易の重大な阻害要因となっていくのだろう。
 習近平体制が経済停滞に向き合わざるを得ない時、どういう対外姿勢をとっていくのか。王毅外相は習近平総書記に極めて忠実に習近平外交の先兵の役割を果たしてきた。大国化が進む中国の強硬な対外姿勢である「戦浪外交」の主導者として力を前面に主張を押し付ける姿勢をとってきた。王毅は年齢制限の内規を飛び越え中央委員から24名の政治局員に昇格し、来春の政府党人事では引退する楊潔篪(よう・けつち)に代わり外交の司令塔になる事が予想されている。習近平-王毅の体制は対外強硬姿勢を更に強めることになるのか。

台湾情勢は緊張の度を高めざるを得ない
 やはり今後5年の3期目の習近平体制において最大の焦点は台湾問題となる。習近平の政治報告の中では従来の主張、即ち「台湾を武力解放しないと約束することは出来ない」と繰り返されたに過ぎないが、今後、中国経済が停滞し国内の不満が高まっていったとき、対外的ナショナリズムを煽るという意味でも台湾と対峙していく可能性も出てくるのだろう。勿論、中国が突然台湾侵攻をはじめるというのではなかろうが、今後、台湾情勢は緊張の度を高めざるを得ず、各々の国内情勢の関数として制御が難しい事態となる事は考えられる。

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022102400004.html
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