国際戦略研究所 田中均「考」
【毎日新聞・政治プレミア】ウクライナ戦争の教訓を日本は今後に生かせるか
2022年05月11日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
ウクライナでの戦いは膠着(こうちゃく)状態が続いている。戦場で決着がつけられる結果となるのか、戦争が延々続くのか、停戦が図られ、政治的決着を見ることになるのか、全く不透明だ。しかし、どういう結果になろうとも、日本はこの戦争から浮かび上がる幾つかの重要な点を教訓として認識し、将来に生かしていかなければならない。
傲慢な力の行使から目を背けてはならない
ロシアのウクライナ侵攻は国連憲章はじめ国際法が禁じている侵略だが、プーチン大統領は「大ロシア」の野望をかなえるために軍事行動をとっても、これに抗する力はない、と判断したのだろう。米国も北大西洋条約機構(NATO)も軍事介入はしないし、欧州はロシアへのエネルギー依存で身動きできない。日本は北方領土問題の展望を損ねることはないだろうし、そして中国はロシアを支援するだろう、と。
プーチン大統領には、国際社会の「規範」も力で席巻できるという傲慢な意識もあるのだろうが、それは今に始まったわけではない。チェチェン、ジョージアでの仮借なき軍事行動、クリミアの併合、さらには国内政敵の排除など全て「力」の行使によって展開されてきたことだ。
プーチン大統領の行動の背景には、いつも歴史に裏打ちされた「大国主義」があり、ロシア国内ではそれが国民の強い支持を得ているという。
核を持つロシアに対して直接戦闘に入ることは第三次世界大戦を意味し、そこには踏み切れないとの認識は西側に強い。米もNATOも兵力派遣だけではなく、戦闘機の供与や飛行禁止区域の設定などはロシアとの直接の戦闘につながるとして決断できない。非同盟国であるウクライナの防衛には限界がある。
それを見たフィンランドやスウェーデンもNATO加盟に走る。これまで軍事的にはロシアを刺激することを避けるためNATO非加盟を通してきたが、もはや、中立政策には限界があると認識し方針転換を図っている。
核を持った軍事大国が専制体制の下で軍事的に行動した場合、米国と同盟関係にない限り、それを阻止するのは難しい、というのがウクライナでの戦争が示している現実なのだろう。…
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