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【次世代交通】
地域社会の「新しい足」 自動運転移動サービスの創出 No5 自動運転による「コミュニティ・モビリティ・サービス」の実現を目指して

2017年10月24日 武藤一浩


■地域コミュニティをサポートするモビリティサービス
 前号まで(No1, No2, No3, No4,)は、2016年10月に神戸市北区筑紫が丘で行った、低速モビリティによる近距離圏内移動サービスの実証について、利用状況や利用者からの期待の声をお伝えしました。具体的には、高齢化が進む数年後の有効な対策としての期待が高かったこと、サービス実証の主体となった地元交通事業者が実際に需要の手ごたえを得られたことなどをご紹介しました。また、このサービスを自動運転技術による「コミュニティ・モビリティ・サービス」と定義しそのあらましを示しました。
 今回は、連載の最後として自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの社会実装に向けた我々が考える道筋について言及します。

■社会実装に向けた道筋
 自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの社会実装においては、実現の課題を明らかにし、その課題一つ一つを解決するようなサービス実証を繰り返すことが重要となります。
 今回の課題としては、まず規制面があります。ジュネーブ条約やウイーン条約などの国際条約では、公道でのドライバー不在による自動運転車両の走行を禁止しています。条約改正についての見通しはまだ立っていませんが、欧州を中心に改正を働きかける動きは見られます。よって、条約が改正され、無人での自動運転車両の走行が解禁されたときに、速やかに無人サービスが開始できることを見据えて、有人によるサービスを先行的に開始し、知見を蓄積しておくのが有効と考えます。

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 ドライバーの配置が必須となると、コスト面と人材不足面の課題に直面します。交通サービスのドライバー人件費の高さや人材不足の要因は、二種運転免許保有者に限定されているからです。一つの突破口として期待したいのが、規制緩和です。低速で安全な運行ができる車両と認められる場合に限って、普通免許保有者でも交通サービスを提供することが許されるよう、国内法規の解釈がなされたり、一部改正されたりするアイデアがあり得ます。
 技術面での課題としては、自動運転(レベル4の技術)による走行がサービスを提供する上で十分か検証する必要があります。現在、企業や大学などが用意している様々な自動運転車両も、まだ限定エリアの自動運転(レベル4)の交通サービスに耐え得る技術を有しているのかは未知数です。実際のサービス環境における実証を重ねながら、安全性を確保していく必要があります。
 リスク面での課題もあります。技術的に未知数な自動運転は、事故などのリスクがどのような範囲にまで及ぶのかが不明です。よって、損害保険が高額になってしまう可能性もあります。このリスクコスト負担を誰の責任でどの程度まで見込むべきかを明確にしならなければなりません。
 最後に、サービスを成り立たせるための事業採算面の課題があります。ニーズがあっても、提供するサービスのイニシャルやランニングコストが高額になってしまっては、コミュニティという規模では成り立ちません。コミュニティの身の丈にあったコストで提供できるよう、自動運転技術面でも運用面でも、先進性より確実性と効率性を優先させる配慮が必要となります。
 また、コミュニティの構成主体は住民だけでなく、移動先となる店舗や商店、そして住民活動によって受益者となり得る地域の自治体や開発事業者まで広がります。これらのコミュニティの受益者が参加し、サービスを支える仕組みを構築していくことが重要です。
 その他、大手企業へのデータ提供も事業の一つとして検討するべきです。自動運転を活用したサービスで得られる画像をはじめとする大量のデータは、人工知能(AI)の開発やマーケティングに活かしたい企業にとって非常に魅力的です。彼らへのデータ提供による収益が獲得できれば、事業としてより安定が見込めます。

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 自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの実現までには、表のようなステップを踏んだ展開を想定しています。
 ステップ1はニーズの確認です。我々が今回実施した実証が、これにあてはまります。
 ステップ2は、レベル4の自動運転を用いて、ドライバーが乗車した形でのサービス実証です。国内法規に従い、利用者からの料金は徴収しません。ここでの実証で得られるデータは、自動運転に関連する規制緩和を検討している国の機関や、保険商品を考える金融機関にとっては、課題解決につながる重要な情報となるはずです。また、事業モデルを構築するために、必要コストの最小化の検討と、サービスを支える側の価値を関係受益者に認識してもらうことも重要です。
 ステップ3は、ステップ2のモデルをベースに、利用者から料金を徴収してサービスの提供を開始するものです。ただし、規制を緩和し、二種免許のないドライバーでも有料によるサービス提供が可能となっていることが条件となります。
 ステップ4は、ドライバー不在でのサービス提供です。前述のとおり、国際条約の動向に左右されますので、国内では当面ステップ3までの実施を目指すことになります。

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 以上の課題に対応する形で、我々は実証を繰り返しながら早期の社会実装を推進していく考えです。まずはステップ2の段階を、2017年度中に実証実験を目指し活動していますので、ご注目いただければ幸いです。

『LIGARE(リガーレ) vol.33』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(後編)P30~33を一部改変して転載

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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