創発戦略センター ISSUE 344 2017/04/25(火)発行
創発
当メールマガジンは、日本総研/創発戦略センターの研究員と名刺交換させていただいた方に配信させていただいています。>> 登録解除はこちら
当メールマガジンは、HTML形式で配信させていただいております。うまく表示されない方は>> こちらからご覧ください
日本総研 創発戦略センター | 研究員紹介 | セミナー・イベント | 書籍 | 掲載情報 | ESG Research Report |
日本総研では自動運転時代を見据えた、地域に根ざした移動サービスの実証を繰り返しています。
今回のエッセイでは、その実証に協力いただいたコメントをご紹介。
実証したからこそ出てくる声に耳を傾けて、利用者に真に受け入れられる地域移動サービスを作り
上げたいと考えています。
   1. Ikuma Message

・You are special.

   2. 創発Eyes

・世界から見た、日本企業とスタートアップの連携の可能性

   3. 連載_次世代交通

・地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No.1
利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

You are special.

 4月から新しい年度が始まりました。今年も希望を抱いて多くの若い人達が社会人のスタートを切りました。日本総合研究所のシンクタンク・コンサルティング部門にも優秀な若者が新たに参加しました。新しく社会人になった人達の潜在力をどれだけ開花できるかは、当人にとって充実した人生を送るために大切であるだけでなく、企業、日本にとっての重要なテーマです。

 日本総合研究所では今年度から新採用ブランドで「You are special.」という理念を掲げます。社員一人ひとりが特別な存在であり、個々人の良いところを引き出し活かせる会社になろう、という趣旨です。創発戦略センターでは、「これからは個性こそ最大の商品になる」と言っています。ここにはシンクタンク・コンサルティングファームの将来を見据えた重要な意味があります。

 1990年代、日本総合研究所が本格的に事業を始めた頃、我々が色々な統計書を引っ張り出して作っていた資料の多くは、省庁などのホームページに無料で公開されています。丸一日かけ出張して調べていた情報については、半日もあれば、はるかに多くの情報を整理することができます。10年もすれば、今コンサルタントが作成しているレポートに近い内容の資料を、AIがネット上で組み上げてくれるようになることでしょう。

 そうした中で、我々のような企業が成長していくためには二つのことが必要です。一つは、きちんとした価値観を持った人が豊富な情報を分析して方向性を示せることです。もう一つは、自分の好きな分野を徹底的に掘り込んで、他にはないコンテンツを創り上げることです。その基盤となるのが瑞々しい個性という訳です。
 理念に共感し、個性を活かして社会に貢献したいと思う若者が日本総合研究所のドアを叩くことを期待しています。我々も彼等の期待に応えるために最大限の努力を払ってまいります。



創発戦略センター
コンサルタント
菅野 文美
 

世界から見た、日本企業とスタートアップの連携の可能性

 「大きな魚が小さな魚を食うのではなく、速い魚がのろまな魚を食うのではないか」スタートアップ関連のイベントで耳にする、大企業とスタートアップの関係を揶揄した論理だ。

 例えば、米ビデオ・DVDレンタルチェーンのBlockbustersは、2001年にオンラインDVDレンタルおよび映像ストリーミング配信事業会社のNetflixから、同社を5000万ドルで買収する機会を提案されたにもかかわらず、その提案を拒んだ。2010年にはオンライン映像ストリーミングの台頭によって倒産に追い込まれた。Netflixの時価総額は2017年4月11日時点で620億ドルにのぼる。

 しかし、いまや世界トップの上場企業の間では、スタートアップ連携は常識になりつつある。「フォーブス・グローバル2000」の上位100社のうち68社はスタートアップと連携しているという。当該調査を実施したINSEAD(世界のトップビジネススクール)と500 Startups(米有力ベンチャーキャピタル)によれば、大企業は、イノベーションの早期発掘、企業文化の形成、新規市場の開拓など様々な目的のもと、(1)イベント、(2)サポートサービス、(3)スタートアップ・プログラム、(4)コワーキング・スペース、(5)アクセラレーター&インキュベーター、(6)スピンオフ、(7)投資、(8)M&Aの主に8つの手法を用いてスタートアップと連携している。

 日本企業は「自前主義」というイメージが強いが、実は世界的に見ても、スタートアップ連携に積極的である。「フォーブス・グローバル2000」の上位500社に入る日本企業44社のうち56.8%はスタートアップと連携している。フランス企業のスタートアップ連携率92.0%には及ばないものの、米国企業の45.5%よりも高い。ベンチャー企業情報のデータベースを提供するジャパンベンチャーリサーチによれば、日本企業によるベンチャー投資は、2009年以降増加の一途をたどり、2015年には日本におけるベンチャー投資総額の59.5%を占めるまでになった。日本企業は、日本におけるスタートアップ・エコシステムにおいて、最も重要なプレーヤーであると言っても過言ではない。

 ただし、日本企業によるスタートアップ連携の特徴として、投資という手法への偏りが挙げられる。INSEADと500 Startupsによれば、スタートアップ連携をしている日本企業25社のうち21社がCVCを通じてスタートアップに投資をしていた。確かに、投資は、収益といった財務的目的だけでなく、新事業創出やバリューチェーン強化などの戦略的目的に適した手法だと言える。

 しかしながら、このような戦略的目的の達成は容易でない。特に日本企業が直面する主な課題として、投資先候補不足、人材不足、企業トップのコミットメントが挙げられよう。企業はある程度成熟したスタートアップに投資する場合が多い。しかし、日本には、シード段階のスタートアップの成長を効果的に支援するアクセラレーター等がまだ少ない。また、スタートアップの目利きやハンズオン支援ができる社内人材も不足している。さらに、投資に必ずしも慣れているわけではない経営者の場合、戦略的・財務的目的の達成に時間がかかる中、CVC活動の継続に必要なトップのコミットメントを得ることが難しい。

 一方で、世界で最もスタートアップと連携しているフランス企業に目を向けると、各社が複数の連携手法を活用している。起業家精神に富んだ企業文化の形成、将来の取引先・買収先の早期発掘・育成などの目的によって、ピッチコンテストやスタートアップ・プログラムなど、低リスクかつ低コストな手法を使い分けているのだ。

 最近、一部の日本企業もスタートアップとの連携手法の多角化を進め始めている。例えば、リクルートホールディングスは、テクノロジーを通じてイノベーションを起こすエンジニアを支援するコミュニティスペース「TECH LAB PAAK」を2014年から運営しているが、2016年にはシリコン・バレーのイノベーション施設「Innovation Factory」との相互利用サービスを始め、2017年1月にスタートアップとリクルートが協働して新規事業を開発するプログラム「MEET SPAAK」を開始した。三井住友銀行は、2016年にオープンイノベーションを目指して事業コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative」を日本総研と発足させ、アクセラレーター・プログラム「未来」を運営しているが、2017年4月には福岡地域戦略推進協議会と連携して地域のスタートアップを支援する「Fukuoka Mirai Incubation Program」を開始した。両社とも、スタートアップの成長に必要な資金やサービスなどを補完し合える様々な外部パートナーと連携している(※1)。

 今後、日本企業によるスタートアップとの連携手法の多角化と様々な外部パートナーとの連携が進むためには、日本におけるイノベーションを促進するためのエコシステム構築が急務である。

(※1)Arnaud Bonzom & Serguei Netessine
“How do the World’s Biggest Companies Deal with the Startup Revolution?” Feb 2016
(http://cdn2.hubspot.net/hubfs/698640/500CORPORATIONS_How_do_the_
Worlds_Biggest_Companies_Deal_with_the_Startup_Revolution_-_Feb_2016.pdf)



創発戦略センター
マネジャー
武藤 一浩
 

地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No.1
利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか

自動運転の議論は、利用者を置き去りにしていないか
 自動運転は、2020年の東京五輪での活用を目標に急ピッチで技術開発が進められています。自動運転実現のための公道での技術実証や規制緩和には、一般の方からも高い関心が寄せられるようになりました。一方で、現実のものとなる自動運転が、実際にどのような形で利用者から受け入れられるのかについての関心は比較的薄く、議論も深まっていないのが実情ではないでしょうか。

 日本総研では、およそ30団体の参画を得た企業や自治体による民間コンソーシアムでの活動(2013~2015年)を皮切りに、自動運転の車両技術を地域の交通サービスに落とし込むための具体化検討を進めてきました。その過程で、自動運転のサービスを真に必要とする地域のニーズこそが重要という認識に至り、前号のあらすじのとおり『40~50年前に全国的に展開された住宅地であるオールドニュータウンにおけるラストワンマイル自動運転』に着目して、実証を繰り返してきました。神戸市北区筑紫が丘地域で2016年10月に行われた実証もその一つです。前号からの続きになりますが、本号以降では、まずは実証に参画した地域住民や交通事業者の方々からのコメントをご紹介します。

■実証(神戸市北区筑紫が丘地域)の概要
目的:    近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの有無の確認
場所:    神戸市北区筑紫が丘
期間:    2016年10月4日(月)~10月30日(日)
運行時間: 9時~17時
実施方法: 自動運転の代わりに黒子の運転手を配置
        (1)定ルート走行(電気自動車のi-MiEV:三菱自動車工業)。
         路線上ならどこでも乗り降り可能(イオン周辺だけ一部乗降規制あり)
        (2)デマンド走行(電動三輪車のLike-T3:光岡自動車)予約制
         (スマホ・コンピュータか電話で予約)で、筑紫が丘内ならどこでも
         送迎可能
運営・実施: 神戸自動走行研究会(※)
利用登録者数: 100人以上

次世代交通

※神戸自動走行研究会
運転手不足と高齢化問題の解決策として自動走行の導入を研究する、神戸市の交通事業者による任意団体。本実証を主体的に実施。発起人はみなと観光バス(株)。メンバーはほかに、近畿タクシー(株)、恵タクシー(株)、六甲産業(株)、有馬自働車(株)(順不同)。

■神戸市北区筑紫が丘自治会(会長および副会長)
5年以内で地域住民の半数が移動困難者に
 実証を筑紫が丘で行うという話を聞いた時からとても魅力を感じました。なぜなら、数年後の地域社会の姿に危機感を感じていたからです。
 約2,000世帯、6,000人程度が暮らす我々の自治区では高齢化が進んでいます。現在は65歳以上の住民が全体の40%を占め、5年後には50%にまで達する見込みです。この地区は若干の丘陵地となっているため坂道が多く、近距離移動すら困難となる方々が顕在化するようになりました。また、公共交通が利用しにくいことから移動の多くをマイカーに頼らざるを得ず、特に高齢者では運転で事故を起こさないか不安を感じている住民が少なくありません。今回の実証で用意されたような近距離を低速移動する単純な移動手段は、我々のような地域では今後必須になると考えています。1カ月と短い期間でしたが、利用登録者が100人を超え、アンケートへの回答もうち68人から得られたことが、期待の高さを表していると思います。

 また、当自治会では、防犯活動を行ったり、高齢者の方々を助ける「近助」活動を実施したり、リタイア層が地域コミュニティに溶け込むきっかけを作ったりしていますが、そのなかで自動運転車両が役立つ場面が多いものと期待しています。実際、日本総研がまとめた住民利用者アンケートの結果では、カメラ機能を持つ車両が地域を走り回ることが防犯に役立つ、近距離で地域住民同士が乗り合うことで顔見知りが増える(地域コミュニティに入るきっかけとなる)といった、当初あまり予想していなかった声も聞かれました。単なる移動手段を超えた、自治活動の強化につながる付加価値まで提供できそうです。

 また、アンケートの結果では、定額制乗り放題での利用を希望する声もあり、中には料金を自治会費にあらかじめ上乗せることで地域の皆が気軽に乗れるようにするべきとの意見もありました。ひと月の間で利用登録者が飛躍的に増加していることを見ると、確かな期待値があることを実感しています。今後は、ぜひ自動運転の動きを体験し、自動運転に慣れる(地域受容性を高める)ことで、早期導入が実現することを願っています。

 ところで、スマホなどIT機器の使用を前提とした自動運転サービスを考えているのであれば、それは我々の次の世代向きと割り切っていただくこと方がよいかもしれない、ということは最後に申し上げておきたいと思います。今回の実証において、私たちからは、時刻表や車両がどこにいるかを知らせるモニターを、スーパーマーケットや喫茶店などよく立ち寄る施設に設置することを求めました。時刻や車両の位置情報はスマホからも得られるようになっていましたが、スマホを基本としてしまうと、高齢者の多い当自治会では利用が難しくなってしまいます。スマホを使える仕組みと並行して、全ての人が利用できることを意識した環境整備を望みます。

 以上は、自治会を代表する方々の生の声です。特に最後の「IT機器の使用を前提としないほうがよい」といった指摘は、今回の実証で行ったデマンド走行よりも、定ルート走行の方が利用実績があった事実にもつながると思います。今後、利用結果についてもお知らせしていきますが、IT機器などを使わずとも、手間がかからずに気軽に乗車できた定ルート走行が支持されたという事実は、日本総研にとっても新たな発見でした。
次号では、交通事業者側の意見をご紹介させていただきます。

『LIGARE(リガーレ) vol.31』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(前編)P30~33を一部改変して転載


この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター Mail Magazine (第2週と第4週の火曜配信)
   このメールは創発戦略センターメールマガジンにご登録いただいた方、シンポジウム・セミナーなどにご参加いただきました方、
   また研究員と名刺交換した方に配信させていただいております。

【発行】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
【編集】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター編集部
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号
大崎フォレストビルディング
TEL:03-6833-1511 FAX:03-6833-9479
<配信中止・配信先変更・配信形式変更>
https://www.jri.co.jp/company/business/incubation/mailmagazine/privacy/

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
Copyright © 2017, The Japan Research Institute, Ltd.