創発戦略センター ISSUE 347 2017/06/13(火)発行
創発
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今回の創発eyesは、気候変動に関するトピックを御紹介。
気候変動の取り組みは「緩和」ではなく「適応」の重要性が高まることを主張しています。
是非ご一読ください。
   1. Yumoto Message

・骨太の方針をどう読み解くか

   2. 創発Eyes

・いまだからこそ進めるべき、気候変動「適応」策

   3. 北京便り

・中国の食卓事情

   4. 連載_次世代交通

・地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No.2
利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか



副理事長
湯元 健治
 

骨太の方針をどう読み解くか

 政府は6月9日、安倍政権下で5回目となる骨太の方針(経済財政運営の基本方針)を取りまとめ、閣議決定した。骨太の方針は、アベノミクスで重点的に行う経済財政政策、成長戦略の具体的な内容を示すものだ。今回の骨太方針について、主要テーマとなる(1)人材投資、(2)大学改革、(3)社会保障の効率化、(4)財政健全化の4点に絞って、その評価と今後の課題について考えてみたい。

1. 骨太方針の目玉のひとつ、「人材投資」の発想の貧困
 骨太2017では、子育てから社会人まで全世代への教育投資拡充を柱に据え、保育園や幼稚園の費用負担を早期に無償化する方針を明記した。しかし、筆者が素朴に不思議に思えるのは、なぜ「人材投資=幼稚園、保育園の無償化になるのかだ。しかも、その財源を「新たな社会保険方式の活用」で賄うことを検討するという。この新たな社会保険方式とは、自民党小泉進次郎議員が提唱する「こども保険」の創設を示唆している。
 しかし筆者は、次の6つの観点から「こども保険」には疑問符を付けざるを得ない。
(1) 保険の本来の機能は「リスクのシェアリング」であり、幼稚園や保育園の無償化の財源にはなじまない。こうした政策を行うならば、本来税財源で行うべきだ。
(2) 「こども保険」では、小さな子どものいない世帯も負担することになるが、これは受益と負担の原則に反する。将来の受益が期待できない人が負担することには当然大きな抵抗が予想される。
(3) 全世代対応型と銘打つが、保険は働く現役層のみが負担し、高齢層は負担しないのでは、不公平感が強まる。
(4) 保険料の引き上げは、企業の国際競争力を低下させかねない。
(5) 幼児教育、保育無償化は政策の最優先事項とは思えない。子育て支援をするならば、子ども手当の増額よりも、深刻な保育士不足、保育所の不足に対する対策に優先的にカネをかけるべきではないか。
(6) そもそも子ども手当の増額は何のために行うのか、少子化対策なのか、子育て支援なのか。0.1%の保険料引き上げで子ども手当5,000円増額、0.5%なら2万5,000円増額できるといった数字が先行し、何を目的にどこまで子ども手当を増額すべきなのかという本質的な議論が十分でない。
 結局のところ、この議論は消費税率の引き上げ先送りを繰り返す安倍政権における苦肉の策であり、税よりも反対の少ない保険で財源を確保する、つまり取りやすいところから取るというもので、教育国債の発行という筋の悪い政策よりはマシといった類の議論に過ぎない。

2. 世界の大学ランキングで劣位にある日本の大学
 しかし、人材投資の強化という発想自体は間違いではない。筆者の問題意識は、人材能力、職業能力の乏しい非正規雇用の増加は日本の将来にとって由々しき事態であり、低賃金労働者の増加に伴うマクロの賃金上昇率抑制要因となるだけでなく、人材の質の劣化をも招いているという点だ。このまま手を拱いていれば、日本企業のイノベーション創出力の低下や国際競争力の低下を招くことは必至である。そのためには、人材投資は必須である。しかし、それは幼児教育や保育ではなく、大学、大学院などの高等教育や社会人の職業能力を高める職業訓練、能力開発により多くの資源を振り向けるべきだと考える。骨太2017では、大学改革の必要性を指摘している。しかし、その内容は、教育課程の見直し、教育成果に基づく私学助成の配分見直し、大学教育の質や成果の「見える化」・情報公開、成績評価等の厳格化、外部人材の登用の促進やガバナンス改革など改革というよりは修正にとどまっている。
 英国教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の昨年の「世界大学ランキング」で上位200位以内に入った日本の大学は、東京大学(39位)と京都大学(91位)のみだ。日本の私立大学の45%は学部単位ではなく、大学単位で定員割れを起こしている。さらに、私立大学の30%は学生の就職率が80%以下(全国平均は86.6%)だという。こうした厳しい現状を打破するには、大学間の競争を促す抜本的な改革が不可欠だ。そのためには、大学の教育・研究の質や成果を一定の基準に基づき適切に評価し、その評価に応じて配分(国立大学運営交付金や私学助成金など)する仕組みを構築する必要がある。例えば、THEの評価基準は、(1)教育・学習環境、(2)教授陣と学生の質、(3)産業に与える影響と革新性、(4)研究の量と質の高さ、(5)論文の引用度合などからスコアリングを行っている。もう一つ、英国のグローバル高等教育評価機関であるクアクレアリ・シモンズ(QS)も世界大学ランキングを公表しているが、その評価基準は、(1)研究者からの評価、(2)企業による評判、(3)学生1人当たりの教員数、(4)教員1人当たりの論文引用数、(5)外国人教員比率、(6)留学生比率を採用している。日本の場合、そもそも大学の質やパフォーマンスを評価する基準やデータすら確立しておらず、驚くべきことに、大学別の学術論文の数ですら公式の数値がない。一昨年の骨太2015では、特定分野で世界最高水準の教育・研究機能を有する「指定国立大学」制度やIoT、ビッグデータ、AIとものづくりの融合領域で、大学、研究機関、企業が連携して形成する新たな大学院である「卓越大学院」制度の導入が提案された。これらは、新しい試みとして評価できる。しかし、指定国立大学には現在7校がエントリーしているが、認定は今年の夏頃の模様だ。卓越大学院もプログラムがスタートするのは、来年度以降と言われており、具体化に向けての歩みが遅いのは気になる。

3. 大学を「職業能力を身に付ける場」に変えよ
 そもそも、日本では大学は一流企業や中央省庁に入るための登竜門という位置づけに過ぎず、入るのは難しいが、出るのは簡単だ。本格的な職業能力は企業に入ってから身に付けるのが一般的となっている。しかし、例えばスウェーデンのように大学や大学院を「職業能力を身に付ける場」と位置付け、産業界との連携をさらに強化し、実践的な職業教育プログラムを提供する場に変えていく必要がある。非正規雇用比率が高まり、日本の人材力の劣化がますます懸念される今こそ、こうした視点からの改革が求められる。スウェーデンの場合は、弁護士や看護師、介護士などの免許取得のために、国家資格試験を通る必要がなく、大学の専門コースを終了すれば、自動的に資格が与えられる。義務教育はもとより、大学、大学院でも無償化が実現しており、社会人比率が3割を超えるなど、キャリアアップや転職のために、大学、大学院に入り直す人も多い。骨太2017には、教育訓練給付の対象拡大により、社会人のリカレント教育の充実や実践的な職業教育を行う専門職大学の創設が盛り込まれており、歓迎したい。しかし、職業訓練プログラムに代表される積極的労働市場政策(ALMP)への支出の対名目GDP比率は、日本の場合、スウェーデンをはじめとする北欧諸国の4分の1にとどまっており、大幅な拡充が不可欠である。人材投資の優先順位は、幼児教育や保育ではなく、こうした専門能力や実践的職業能力の強化にこそ、置くべきだろう。

4. 社会保障の効率化は不十分
 今回の骨太2017では、社会保障の効率化を謳いつつ、様々な改革項目を示している。最大の目玉と位置付けているのは、薬価制度の改革だ。具体的には、(1)価格改定頻度を2年に1回から毎年に変更、(2)「新薬創出加算」に認定する薬の対象範囲の絞り込み、(3)薬の費用対効果を検証する第三者機関の創設検討などが盛り込まれた。しかし、これらの検討項目の中には、年内に結論を得るなどとし、具体案を関連審議会に丸投げするものも目立つ。当初素案の段階で入っていた「特許切れ新薬を後発薬の価格まで下げ、差額を患者負担とする」との案は、自民党や製薬会社の反発から最終案で削除されるなど改革の不徹底さが目立つ。
 勿論、薬価制度の改革に踏み込んだことは、一歩前進と評価できるが、薬剤費は医療費の4分の1を占めるに過ぎない。肝心の医療費本体の抑制・適正化については、安倍政権は医療費の地域差半減を目標に掲げているが、具体策は都道府県に丸投げの形となっている。今回の骨太2017においても、(1)診療行為の地域差を含めたデータの「見える化」、(2) 外来医療費については、医療費適正化基本方針で示されている取組みを実施し、できるだけ早く追加できるよう検討、 (3)入院医療費については、地域医療構想の実現によりどの程度の縮減が見込まれるかを明らかにする、(4)これらにより十分な地域差の縮減を図ることができない場合には、更なる対応を検討するなどと、どれだけ実効性があるのかは不明だ。
 遅くとも、団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者入りする2025年までに、抜本的な改革を行わなければ、医療・介護費の急膨張は避けられない。今回、骨太2017に「人生の最終段階における医療」が言葉として初めて盛り込まれたことは評価できるが、その内容の記述はわずか5行の精神論にとどまっている。終末期医療の在り方に関する本格的な議論や新たな制度設計が急がれる。医療費よりも膨張が懸念される介護については、1人当たり介護費用の地域差縮減に向けて、介護費や認定率の地域差や個別の自治体の取組を「見える化」するとしているが、公費で賄うべき要介護認定基準を厳格化する方向での抜本改革には全く触れていない。不足する介護人材の確保についても、外国人労働者の本格活用などの道筋は描かれていない。以上を要するに、安倍政権における社会保障の効率化は、本腰が入っていないということだ。

5. 本気度が感じられない財政健全化
 同じことは、財政健全化にも言える。今回の骨太2017では、「2020年度基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化目標は堅持する」としたものの、具体策は、従来通りの「見える化」「先進・優良事例の全国展開」「ワイズ・スペンディングの推進」を繰り返しており、一見もっともらしくも実効性は不明と言わざるを得ない。最新の内閣府試算でも高成長を見込む「経済再生ケース」ですら、2020年度時点で▲8.3兆円(名目GDP比▲1.4%)の赤字が残るとの結果となっており、目標達成は相当困難と言わざるを得ない。
このため、「同時に債務残高対名目GDP比率を安定的引き下げる」を新たな目標に掲げたが、これは、日銀による長期金利ゼロ%への固定と、大規模な金融・財政政策による名目成長率引き上げという特殊な環境下でのみ、プライマリー赤字の下でも債務残高比率引き下げが可能となるという意味で、事実上、プライマリー目標の達成を断念し、債務残高比率目標にシフトさせていこうという意図が透けて見える。ハロッド・ドーマー条件から得られる結論は、確かに、金利<成長率の場合には、プライマリー赤字の下でも債務残高比率が下がるが、経済が正常化した場合には、金利>成長率となるのが経験則からも確認されており、プライマリー黒字化目標は、予算編成時の財政規律維持という観点から主たる目標として堅持し続けなければならない。
 さらに、骨太2015から踏襲している「経済再生なくして財政健全化なし」の基本方針は、安倍政権の財政健全化の取り組みが、経済成長に大きな重点が置かれ、消費税率の引き上げなどの増税を極力回避し、最大の歳出膨張要因である社会保障費の切り込みにもしり込みする方針を正当化している。このままいけば、2019年10月の消費税率引き上げも再度先送りされるリスクが高く、同時にプライマリー目標達成時期は2020年代前半に先送り、債務残高目標に重点がシフトすることになるだろう。しかし、経済成長だけで財政健全化を実現することは不可能であり、また歳出削減だけでも困難である。現実を冷静に直視すれば、経済成長プラス歳出削減・抑制プラス増税が不可避である。

6.おわりに
 骨太方針は、良きにつけ、悪しきにつけ、時の政権の経済・財政運営の基本方針を示すものだ。これまで安倍政権は、3本の矢のうち、金融政策、財政政策に力点を置きすぎた結果、生産性や潜在成長率の低迷から脱しきれず、物価目標の達成はおろか、「経済の再生」に成功していない。成長戦略では、「規制のサンドボックス制度」など新味ある政策も盛り込まれたが、いかんせん、実行スピードが物足りない。社会保障改革、財政健全化に至っては、本気でやる気が見られない。安倍政権は、日銀が巨額の国債を保有したまま、出口に向かう時、これまでのツケが一気に噴出するリスクがそれほど低くないことを銘記すべきだろう。

        



創発戦略センター
スペシャリスト
新美 陽大
 

いまだからこそ進めるべき、気候変動「適応」策

 "We're getting out." - 去る6月1日、アメリカのトランプ大統領はこのように述べて、米国のパリ協定からの離脱を表明した。さまざまな報道から今回の表明につながるような兆候もあり、また実際に「離脱」が可能となるのは、手続き上2020年以降となること等の事情はあるが、温室効果ガス排出量では世界第2位である米国のトップが、国際的な温室効果ガス削減の枠組みからの離脱を明確に表明したことは、世界に衝撃を持って受け止められた。

 これまでの気候変動に関する取り組みでは、将来的な脅威に対して、世界規模で温室効果ガスの排出量を減らす「緩和」の取り組みが最重要であることが謳われてきた。ただ、対策としてそれだけでは十分だろうか。

 気候変動が人類の課題とされている理由は、気温上昇が人間社会が未だ経験したことのない急速なペースで起こっていること、また温室効果ガスの濃度変化による気温への影響が「時間差」かつ長期にわたって表れることだ。気候変動による人間社会への影響を最小限に抑えるため、現代社会に生きるわれわれは、「緩和」の取り組みと併せて、将来的に温暖化が進んだ際に表れるさまざまな影響を評価し、それらに対する効果的な対応策を予め検討しておくこと、すなわち「適応」への取り組みを進める必要がある。今回の米国における離脱表明のような予見困難なイベントが今後も再び起こるとしても、気候変動を将来、程度の大小はあれど発生し得る問題として捉えれば、「適応」の重要性にはいささかの揺るぎもない。

 日本でも、政府が「気候変動への影響への適応計画」を閣議決定し、各省庁では具体的な検討が進められている。また、学術分野においては、より精度が高く具体的な影響評価が可能となるよう、数値モデルや評価方法に関する研究が進んでいる。今後は、企業や個人などの民間分野において、具体的にどのような影響を受ける可能性があるのか、またその影響に対してどのような対策が取り得るのかを、「政官学」での検討内容も活用しながら、さらなる議論を進めることが求められている。

 昨年の年平均気温は、世界においても日本においても、観測史上の最高値を記録した。また、今夏の日本列島は海水温の状況等から「スーパー」猛暑になるとの見方もある。激甚な気象現象にはさまざまな要因が絡んでいるとはいうものの、気候変動により顕在化した影響の一部ではあるだろう。相次ぐ異常気象や国際情勢の変化は、あるいは「適応」策の検討を進める契機と言えるのではないだろうか。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国の食卓事情

 先日、「環球時報」という人民日報系列の新聞で面白い記事を読みました。記事のタイトルは「14億人の食卓は密かに世界を変えている」というのです。その記事では、2016年中国における食品の消費額がスウェーデン一国のGDPに相当するというもので、中国人の胃袋が世界の農業の栽培方式と食品の消費方式を変えていると書かれています。その中で、事例として、中国で有名な北京ダックのために、カナダの農場の人々が元々なかった品種のダックを飼育するようになったこと、近年中国のアボカドの輸入量が急増しているため、世界的にアボカドの値段が高くなったこと、スペインでは従来、地元にはなかった品種の野菜を栽培し、中国へ輸出をしていること、中国輸出用のオレンジを栽培するため、水不足の米カリフォルニア州の農園ではヘリコプターで水をまいたりすること、などを紹介していました。急速に拡大する中国の農産物市場が、世界の国々に大きなビジネスチャンスをもたらしたとともに、中国人の消費のあり方を懸念する声もあったと結論づけています。

 確かに、近年中国の食卓はますます豊かになりました。特に、果物や野菜などは私の小さい頃に見たことない品種をあちこちで目にします。私が小さい頃、冬は白菜、芋、りんご、夏はインゲン、ナス、スイカなど限られた品種のものしか食べられなかったのですが、今は一年中スイカを食べられるようになり、アボカドやアメリカンチェリーなど中国にはなかったものがどんどん私たちの食卓に並べられるようになりました。
 2011年のイギリスの調査機関のレポートによると、中国家庭が年間に食品に使う金額が世界1位となったといいます。2000年以後、中国は相次ぎ、肉類、野菜と果物、お酒の世界一の消費国となったといわれています。
 中国は国土面積の大きさに対して、耕地面積が少ないことは周知の通りです。中国の一人当たりの耕地面積が2011年には約1.59ムー(0.106ヘクタール)であり、世界平均の半分にも満たさないのです。

 こうした旺盛な需要を背景に、近年、中国の農産物の輸入が増加しつつあります。2004年以前、中国は農産物の輸出国でしたが、その後は農産物の輸入が輸出を上回るようになりました。2001~2015年の農産物輸入比率をみると、2001年には畜産品、食用油種、水産品、穀物、食用植物油がトップ5を占めるのですが、2015年には、食用油種、畜産品、水産品、食用植物油、果物がトップ5を占めています。増加率でみてみると、果物がダントツ一位になり、畜産品と穀物は年々安定的に増加しています。中国の農業専門家によると、中国の農産物の輸入は、土地密集型商品と国内の高い需要を背景とする良質な商品に集中しているといいます。
 輸入農産物が中国で人気がある原因はいくつか考えられます。

 一つ目は、食品の安全への意識が高まっていることです。中国の農地の5分の1が3.3ヘクタール未満の農地に分割されているため、生産者が限られた面積で農作物の生産量を高めるため、化学肥料を多量に使用し、多くの農地が汚染されています。多くの人々はグリーン、無農薬、有機などの食品を求めるようになりました。
 二つ目は、消費観が変わったことです。豊かになった中国人は、いっぱい食べることだけではなく、高品質で、汚染がなく、珍しく、おいしい食べものへの関心を高めています。値段を気にしない人は少なくありません。例えば、北京の高級スーパーに並んでいる日本輸入の富士りんごは1個150元と高価ですが、売れ行きはよいそうです。しかも、贈答品需要ばかりでないそうです。チリ産チェリーでも、1キロ200元弱にもかかわらず、買う人が多いといいます。

 三つ目は、物流、電子商取引(EC)が発達したことです。これまで高価な輸入品は流通コストが高いため、なかなか一般家庭に普及しませんでした。これが、電子商取引(EC)の発達に伴い、流通コストが軽減され、会員制の購買方式なども出現して、待ってさえいれば家まで届けてくれるサービスが拡がっています。
 このように、「14億人の食卓が密かに世界を変えていく」状況は、今後も続いていくことが予想されています。



創発戦略センター
マネジャー
武藤 一浩
 

地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No.2
利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか

低速モビリティの自動運転による近距離圏内移動サービスへの期待
 2016 年10 月に神戸市北区筑紫が丘で行った、近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの有無の確認のためのサービス実証について、前号では、参画した地元住民や自治会へのヒアリング結果をご紹介しました。今号では、参画した交通事業者の声をご紹介します。

・みなと観光バス 代表取締役社長 松本氏
オールドニュータウンには新しい移動手段が必須
 神戸市東灘区住吉台地域において、くるくるバスという住民主導のバス事業を展開して10年以上が経ちました。導入当時の人々は、少し離れた駅などまでの移動手段を求めていましたが、10年が経った現在では高齢化の影響で、それよりも近距離内での移動にニーズの中心が移りつつあります。そのような中、日本総研から提案があった今回のモデルは当社の問題意識と合致しており、即賛同して検討・展開したい方針を示しました。
 また、交通事業者同士の日常のお付き合いの中で、同様の課題を感じている方々は少なくないという手応えがありました。そこで、発起人として神戸自動走行研究会(※)を立ち上げ、4社の地域交通事業者に同志となっていただき、活動を進めています。

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※神戸自動走行研究会
運転手不足と高齢化問題の解決策として自動運転の導入を研究する、神戸市の交通事業者による任意団体。本実証を主体的に実施。発起人はみなと観光バス(株)。メンバーはほかに、近畿タクシー(株)、恵タクシー(株)、六甲産業(株)、有馬自働車(株)(順不同)

 我々として最も気になっていたのは、オールドニュータウンにおける近距離・低速の移動手段に対する住民ニーズの有無でした。今回の実証を経た結果、確かなニーズが存在することを確認できたと思っています。
 ただし、今回はプロのタクシードライバーによる運行であったことが、利用者に受け入れられた大きな要因であったという感覚もあります。今後の実証では、自動運転車両に対して利用者の受容性が得られるかを検証する必要があります。引き続き日本総研と実証検証を進めていけることを期待しています。

・近畿タクシー 代表取締役社長 森崎氏/恵タクシー 代表取締役社長 小笠原氏
地域コミュニティ密着の移動サービス提供
 今後のタクシー事業の発展には、自動運転を取り入れざるを得ないと考えています。利用者の減少や運転手の担い手不足が急速に進み、廃業さえ検討する経営者が少なくない業界であるからです。
 オールドニュータウン内を中心とした近距離移動サービスは、タクシーでは採算が合いにくいのですが、人件費のかからない自動運転を活用すれば、地域密着の移動サービスとして、業界の新しいサービスモデルに成長するものと期待しています。我々は、タクシー事業者が「タノシー事業者」と呼ばれるように業界全体を盛り上げたいという思いで今回の実証に参加させていただきました。次は、運転手を派遣せず、自動運転車両の運行管理を担う立場として事業展開できるモデルを検証し、業界全体に広く告知していければと考えています。

・六甲産業 代表取締役社長 盛岡氏
カーシェアリングでの自動運転
 地域の移動手段を提供することを目的に、EVや超小型モビリティを活用したカーシェアリング事業を立ち上げました。将来的に完全自動運転が実現することを見据えてのことですが、六甲山や三宮での超小型モビリティの乗り捨て型カーシェアリング事業などのサービス実証を経て、自動運転技術がないとなかなかカーシェアリングの利用が増えることは難しいと感じています。
 そのような中、今回の実証はまさしく次の事業展開のヒントとなりました。自動運転については、交通事業者が移動サービスとして提供するものと、カーシェアリング事業者が自動運転技術を要した車両を提供するものとでは異なることが明らかになったからです。また、カーシェアリングの利便性を高めるには、無人で動く車両が運転希望者のもとに移動したり、移動を終えた降車後には所定の場所に戻ったりすることが必要ですが、公道を無人で走行することは、国際条約であるジュネーブ条約(注)の関係で現時点での実現は困難であることも分かりました。
 結局、自動運転に関する現在の法律や技術の動向から、カーシェアリングよりも交通事業者からの交通サービスの提供が妥当と考えるようになりました。地域密着の自動運転サービスは、交通事業者としてのスタンスで進める必要があると思います。

(注)自動運転の車両を公道で走らせる場合の国際的な指針を示したジュネーブ条約

・有馬自働車 取締役 田中氏
観光地で期待する自動運転
 インバウンドへの対応を考えると、観光地における自動運転の導入には、回遊性を高めるために大きく期待しています。小型で低速という条件も狭い路地が多い観光地と相性がよく、有馬温泉では既にレンタカーとして検討を進めています。ただし、乗る場所までの移動や車両を手配する点が利用上の課題となっており、このあたりの解決方法を探るために、有馬で展開しているレンタカー車両であるLike-T3を提供した次第です。観光地には、筑紫が丘地域の特徴の一つである「袋小路」が数多く存在しますので、今回の実証結果はいい参考となるはずです。

・利用者や交通事業者の生の声とともに
 自動運転は新しい交通サービスを実現させるための重要な技術です。技術を実際のサービスとして生かすためには、利用者や交通事業者の生の声を聞きながら検討を進めていくことが不可欠です。自動運転に関わるできるだけ多くの方々にこのような声を届け、社会に欠かせない自動運転サービスの実現を推進ことが日本総研のミッションと考えています。次回は、利用者のアンケート結果を集計し、報告します。


『LIGARE(リガーレ) vol.31』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(前編)P30~33を一部改変して転載

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