創発戦略センター ISSUE 353 2017/09/12(火)発行
創発
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今回の創発eyesは日本でもローンチされたソーシャルインパクトボンド(SIB)のご紹介
日本初の事例となった神戸市の事例を解説しながら、SIB浸透に向けた課題と期待を整理しています。
   1. Yumoto Message

・人手不足にどう対応するか~5つの処方箋

   2. 創発Eyes

・日本初ソーシャルインパクトボンド導入

   3. 北京便り

・中国新エネルギー自動車市場 外資企業の参入目立つ

   4. 連載_次世代交通

・地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No4
自動運転による「コミュニティ・モビリティ・サービス」の実現を目指して



副理事長
湯元 健治
 

人手不足にどう対応するか~5つの処方箋

1.はじめに
 日本経済の回復傾向が明確化する中で、深刻な人手不足が続いている。この問題は、マクロ的に需要が拡大しても労働供給が追い付かない形で、成長の制約要因が大きく顕在化している可能性を示すだけでなく、ミクロ面では人手不足が企業経営にとっても極めて深刻な課題になっていることを如実に表している。本稿では、マクロの景気動向を概観した後、労働需給のひっ迫度合いがバブル期と比較してどれくらい厳しいのかを検証した上で、企業が人手不足にいかに対応すべきなのか、合わせて、そうした対応の持続可能性について論じたい。

2.回復傾向が明確化する日本経済
 日本経済は、昨年春以降、緩やかな回復が続いてきたが、今年に入って回復傾向が一段と明確化している。本年4~6月期の実質GDP成長率は、年率2.5%(改定値)と1~3月期(同1.2%)を上回り、6四半期連続のプラス成長となった。設備投資の下方修正を主因に、速報値(同4.0%)からは下方修正されたものの、6四半期連続のプラス成長は実に11年振りのことだ。内容的にも、個人消費(同3.4%)、住宅投資(同5.1%)、公共投資(同26.1%)が大きく増加し、内需主導の好ましい成長パターンとなっている。米国を中心とする世界経済の回復が輸出の増加につながり、企業収益の拡大、雇用者所得の増加を通じて個人消費に波及し始めている。公共投資の寄与度(年率1.1%)が大きいとはいえ、これを除いても同1.4%と潜在成長率を上回る成長となっている。
 この意味するところは、需給ギャップが0.5%とプラス幅を拡大していることにある。7月のコア消費者物価は、0.6%、エネルギーを除くコアコアCPIは0.1%と物価上昇圧力はなお弱いが、このまま需給ギャップのプラス幅拡大が続けば、ジリジリと上昇圧力が高まっていく水域に来ていることは間違いない。他方で、バブル期にも匹敵する人手不足が続く中で、潜在的な賃金上昇圧力も強まっていく方向にある。ただし、現時点では物価も賃金も明確に上昇する気配は見られない(詳しくは、湯元健治の視点「深刻な人手不足なのに賃金が上がらない5つの理由」2017.8.8参照)。潜在成長率は0.5%以下に落ち込んでいた状況から、足元では1.0%にまで回復しているが、それでも、アベノミクスの成長率目標(実質2.0%、名目3.0%)の半分にとどまっており、景気の本格回復への道のりは、なお遠いといえよう。

3.労働需給の引き締まり度合いは、職種・業種・企業規模で偏り
 現在の労働需給の引き締まりの度合いは、バブル期に匹敵するといわれるが、以下、その中身を詳細に検討してみよう。まず、2017年7月の完全失業率は2.8%と1994年6月以来、23年振りの低水準にある。バブル期のピークである1990年は概ね2%強の低水準にあり、現在の水準はバブル期と比べれば、相対的に高い。しかし、年齢、地域、職種などのミスマッチに伴う失業率である構造的な失業率のレベルは、バブル期よりも高い可能性があり、現在の人手不足がバブル期よりはましとの結論を出すのは早計だ。何よりも、雇用失業率と欠員率を用いたUV分析から導かれる均衡失業率は、3%台半ばと言われてきたが、現在のレベルはこの水準を優に下回っている。また、現在の水準は、完全雇用レベルともいわれるが、筆者は、なおいくばくかの低下余地が存在すると考える。年齢階層別に失業率をみた場合、15~24歳が4.9%、25~34歳が4.0%と、若年層の失業率がバブル期を上回っている。とくに、25~34歳の失業率はバブル期には2%台前半にあったことを考えると、失業率の低下余地はまだあると判断される。
 一方、有効求人倍率でみるとどうか。7月の水準は1.52倍とバブル期(1.4台)はおろか、1972年4月(1.53倍)以来、43年5ヶ月振りの高水準にある。しかし、正規社員とパートなど非正規社員に分けてみると、パートが1.80倍に対して、正規社員は、1.01倍とようやく1倍を上回ったに過ぎない。この点を考えると、現在の人手不足状態は、バブル期を凌駕しているとまでは言いにくい。また、職業別に有効求人倍率をみると、水準が著しく高いのは、保安(7.25倍)、医師・薬剤師(5.28倍)、建築・土木・測量技術者(5.00倍)、接客・給仕(3.76倍)、介護(3.56倍)、運輸・郵便(3.41倍)など、総じて低賃金の特定職業に偏っており、全般的な人手不足とまでは言えない状況にある。さらに、リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査(2018年卒)をみると、全体の求人倍率が1.78倍に対して、従業員300人未満の中堅・中小企業の求人倍率は6.45倍と前年(4.16倍)から大幅に上昇。他方で、従業員5,000人以上の大企業は0.39倍と1倍未満で前年(0.59倍)から低下するなど、人手不足問題の核心は、中堅・中小企業にあるといえよう。ちなみに、業種別でみると、流通業が11.32倍、建設業が9.41倍と製造業(2.04倍)を大きく上回っており、業種別の偏りの大きさが浮かび上がる。
 以上の状況を、日銀短観(2017年6月調査)の雇用人員判断DI(過剰-不足)でみると、全規模全産業で▲25ポイントとバブル期には及ばないものの、バブル期に次ぐ不足超過幅となっており、製造業(▲16)よりも非製造業(▲30)、大企業(▲16)よりも中小企業(▲27)の方が、人手不足がより深刻になっていることが分かる。また、日本商工会議所が中小企業4072社を対象に行った調査(「人手不足等への対応に関する調査」2017年7月3日)によれば、人手が不足していると回答した企業の割合は60.6%と全体の6割を超え、昨年を5ポイント上回っている。業種別には、宿泊・飲食(83.8%)、運輸(74.1%)、介護・看護(70.0%)、建設(67.7%)、その他サービス(64.1%)が上位を占めている。これらの業種は、主として賃金の安い非正規雇用を主体に低価格サービスを提供するビジネス・モデルを採用する企業が多いことが特徴だ。

4.人手不足にいかに対応するか~5つの処方箋
 これまで見てきたように、人手不足はバブル期並み(経済財政白書)に深刻な状況となっており、企業経営に大きな影響を与える懸念が大きい。この先、少子高齢化、人口減少が一段と深刻化すると予想される中で、いずれはバブル期を凌駕するほどに深刻な状況となり、とくに中小企業にとっては、経営の屋台骨を揺るがしかねない大問題に発展するリスクが高い。以下では、実際の企業の対応も含めて、深刻な人手不足への対応として5つの処方箋を示そう。

 第1は、サービス内容の縮小だ。これは、外食、小売、運輸などの業種ですでにみられている現象だが、顧客離れや収益機会を逸するリスクを取っていることに留意が必要だ。例えば、ファミリーレストランなどの外食業界では、24時間営業の廃止など営業時間短縮策を打ち出している。すかいらーくでは、深夜2~5時に営業している987店舗のうち8割を深夜2時閉店、7時開店にして人手不足に対応。ロイヤルホストも24時間営業を完全に廃止した。小売業界でも、ルミネが8割の店舗で閉店時間を30分早めたほか、イオンでは7割の店舗の営業時間を1時間短縮。宅配業界では、ヤマト運輸が正午から午後2時までの時間帯指定配達を中止するとともに、再配達時間の短縮に踏み切った。また、アマゾンの提供する即日配送サービスからも撤退を表明する一方で、人件費の増加に対応して27年振りに宅配便料金の値上げに踏み切っている。こうした措置は、やむに已まれぬ対応とはいえ、サービスの質の低下による顧客離れを招けば、元も子もない。今後とも構造的な人手不足が続く中で、いずれ限界に直面することは避けられないだろう。

 第2は、従業員の処遇改善や賃金の引き上げによる対応だ。パートの時給は前年比3.1%も上昇、とくに三大都市圏のアルバイト・パート募集の平均時給は1,000円を突破しており、パート・アルバイトを主体に雇用する企業は、人件費コストの増加に直面している。こうした中で、すき家は、主婦のパート・アルバイトを主な対象として、勤務する地域や店舗の限定が可能な契約社員へと昇格できる制度を導入した。企業の福利厚生をサポートするベネフィット・ワンでは、パートやアルバイトのモチベーションを向上させるため、「ポイント制インセンティブ」というユニークなプログラムを提供。ポイントをどんどん貯めることで付与数に応じて1万7,000メニューの中から様々な商品がもらえる仕組みを導入している。上述した営業時間の短縮も、従業員の過重労働に対して配慮し企業イメージを向上させるための方策との見方もできる。これからは、顧客満足度だけでなく、従業員満足度を高められない企業は生き残れないことを銘記すべきだろう。

 第3は、省力化投資、IT投資、ロボット導入などによる生産性引き上げだ。代表的なものは、スーパーなどのセルフレジ導入や飲食・小売業界の仕入れ商品の自動発注システム、タッチパネルによるセルフ注文システムなどの導入だ。このほか、アマゾンやニトリなどは、運搬ロボットの導入により、無人自動倉庫を実現している。日本ユニシスは、ヤマダ電機の店舗で、ロボットによる在庫最適化や売価チェック、来店客への商品提案を実現する自律移動型サービスロボットの実証実験を開始した。また、バディネットは、Wi-FiセンサーとAI(人工知能)を活用した店舗向け行動解析サービス「フロー・コックピット」を開発、顧客のリピート率、来店スパン、滞在時間などの情報を自動収集し、本部の店舗管理業務を半減させるシステムを開発・販売している。リクルート・ジョブズでは、短時間しか働けない従業員が増えて作成しづらくなったチェーン店などの勤務シフトをオンライン上で管理するシステムを販売している。さらに、間接部門の業務自動化により生産性を2倍に引き上げるRPA(Robotics Process Automation)の導入も一大ブームとなる兆しが出てきている。

 第4は、女性、高齢者、外国人労働者の活用だ。前述した日本商工会議所の調査では、人員が充足できない理由として、「募集しても応募がなかった」が63.4%と第1位にあげられているが、人材募集広告の手段として女性や若者に対しては、スマホによる求人広告などの工夫が必要だ。最近では飲食店専用のスマホ採用アプリも登場しており、様々な媒体を活用する必要がある。また、ロイヤルホストのように、子育て中の女性を採用するため、独自のベビーシッター制度を設けた企業もある。高齢者の活用では、スーパーのサミットが定年退職したパート社員をアルバイトとして再雇用する場合の年齢上限を70歳から75歳に引き上げた。同様に、食品スーパーのマルエツでは、70歳以上のパート社員も健康などを条件に継続雇用する制度を導入している。さらに、地域スーパーのヤオコーでは、外国人技能実習制度を活用して、中国、ベトナム、スリランカから60名の実習生を採用、2018年度末までに200名に増やす計画だ。吉野家ではグローバル展開を視野に外国人留学生の活用を積極化させている。深刻な人手不足の現実に直面し、企業は考えられるあらゆる方策を実行に移しており、こうした流れはさらに加速するだろう。

 第5は、働き方改革とビジネス・モデルの変革だ。第1から第4までの対応策は、現段階で出来る短期的な対応策だが、いずれも収益機会の逸失やコストの増大という問題に直面するという意味で、中長期的な観点からの抜本策ではない。人手不足の業界に共通するのは、労働環境が劣悪で採用難や離職率が高く、賃金が低い非正規雇用主体のビジネス・モデルを採用していることだ。したがって、抜本的な人手不足対策とは、働き方改革の徹底により労働環境を改善すると同時に生産性を引き上げることに帰着する。また、賃金を上げ、従業員の処遇を改善するためには、低賃金ビジネス・モデルを脱却すべく、ビジネス・モデルの変革を図ることが不可欠だ。
 いくつかの先進事例を上げよう。居酒屋・レストランを中心に全国展開するコロワイドは、1週間の労働時間を最短20時間とする短時間正社員制度を導入、社員の事情に合わせて働き方の選択肢を広げ、一般社員やアルバイトから限定正社員に転換でき、中途採用でも選択可能とした。すかいらーくは、その日の繁閑に応じて1日の労働時間を4時間から12時間までの5つのパターンから自由に選べる制度を導入、組み合わせ方によって週休4日も可能となるという。吉野家も労働時間を自由に設定できる地域限定社員制度を導入している。
 低価格サービスから脱却するビジネス・モデルの転換は、容易ではない。ヤマト運輸のように信頼と実績のある企業は、サービスを縮小させて値上げしても、簡単に消費者が見放すことはない。(株)俺の、バリアンリゾートなど消費者に最大限の満足を提供しつつ、客単価と回転率や稼働率を同時に引き上げることで収益を確保する新たなビジネス・モデルも登場し始めている。不足する労働者を確保するために、一般人を副業として働かせるウーバー型ビジネス・モデルも登場。配車サービスで有名なウーバーは、複数のレストランと提携して、フードデリバリー(出前)ビジネスに参入、労働者はネットを通じて集めたパートナー配達員と呼ばれる一般人だ。また、アマゾンは、ネット上で募った一般人の 配達員を使って、書籍、その他の配達を行うAmazon Flexというサービスを米国のシアトルなどの諸都市で実施している。このサービスは人手不足が深刻な日本でも早晩導入される可能性が高いだろう。さらに、おてつだいネットワークスは、スマホのGPS機能を活用して、「近くにいて働ける」ワーカーに募集メールを配信するサービスを提供、登録人数は20代を中心に40万人を超えるという。

5.おわりに
 安倍政権が音頭を取って実施している働き方改革は、長時間労働の是正という規制強化が含まれるが、中小企業にとっては、同一労働・同一賃金や最低賃金の引き上げも含めて、人件費コストの増加にどう対応するかが問われることになる。結局のところ、既存のビジネス・モデルの変革に果敢に取り組み、業界の常識を打ち破り、生産性を飛躍的に引き上げられるかどうかが、これからの企業の生き残りを左右することは間違いない。政策面でもそうした企業を側面から支援する発想転換が求められる。

        



創発戦略センター
スペシャリスト
渡辺 珠子
 

日本初ソーシャルインパクトボンド導入

 2017年7月20日、神戸市が糖尿病性腎症等の重症化予防事業にソーシャルインパクトボンド(以下、SIB)を導入することを発表した。SIBは2010年に英国で始まった官民連携のプロジェクトファイナンス手法であり、医療・介護、教育、困窮対策など社会的課題の解決が必要とされる分野が投資対象である。従来公共事業として行われている事業に民間資金や民間団体の知見・ノウハウを活用して効率的・効果的なサービス提供を行い、行政はその事業成果等を原資に成果報酬を資金提供者に支払う。SIBにおける事業成果とは、主に将来の行政負担の軽減を中心とする社会的コストの効率化を指す。神戸市の場合、糖尿病性腎症等の罹患者で人工透析に至るリスクが高い人を対象に、受診勧奨および保健指導を実施し重症化を予防するSIB事業を実施することで、神戸市民の健康寿命の延伸、Quality of Life(QOL)の向上および医療費の適正化という事業成果を目指す(※1)。

 SIBは民間から事業資金を集めるが、事前に想定した事業成果が上がらなかった場合、行政から資金提供者へ支払いを行う必要がない。しかし神戸市の場合は事業の性格を鑑みて、事業費相当の4割(982万円)を最低保証額として事業完了をもって支払うこととしている。残り6割(1,474万円)については、あらかじめ設定した成果指標に沿って2018年度に事業評価を行い、その結果を踏まえて支払われる。さらに当初想定した目標を超えた成果が見られた場合は、事業費相当の3割(727万円)が成果報酬として支払われることになっている。事業開始時点における、2019年度の医療費適正化効果見込みは約14,323万円であり、3割の成果報酬を追加で支払っても事業費用に対して約4倍の財政的な効果を得られることが期待されている(※2)。

 SIBは見込み通りに働けば、行政の財政負担改善が期待できる金融商品であるが、今後の浸透・発展には、資金提供者側から見て魅力的な金融商品であり続けることが必要である。例えば日本のSIB事業は、パイロット事業も含めて成果報酬額が欧米と比較して少額である。また投資金額や成果の考え方について言えば、クラウドファンディングや社会的企業向けファンドなどの類似の民間金融サービスも広く浸透しつつある。神戸市のSIB事業の状況を踏まえつつ、社会的リターンの在り方やSIBが他の類似サービスよりも有効に働く場面など、資金提供者に受け入れられる商品設計についてさらなる検討を進めることが、日本におけるSIB浸透には必要だと考える。

※1 神戸市記者発表資料(平成29年7月20日)
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2017/07/20170720040801.html参照[Access on 2017/8/24]
※2 神戸市のSIB事業における各種数値については、経済産業省「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進事業)調査報告書(平成29年3月)」を参照。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国新エネルギー自動車市場 外資企業の参入目立つ

 2017年に入って、大手外資企業が相次ぎ、中国で新エネ自動車を生産し、販売する事業への参入を宣言しました。独フォルクスワーゲンは中国JACと新エネ車を生産する合弁会社を立ち上げることに合意。米フォードと浙江省の衆泰、日産ルノーと東風汽車、吉利とボルボなど、他社も続々と新エネ自動車を生産する新しい合弁会社の設立に取り組んでいます。先日は、独ダイムラーと北京汽車が新エネ自動車の生産と電池の生産のための合弁会社設立に調印しました。
 中国の新エネ自動車の技術開発とその普及は、中国国産メーカーにより主導されてきました。中国新エネ自動車トップ10の企業のすべては国産メーカーで、外資系企業は一社もなかったのです。
 ではなぜ2017年になり、外資が中国市場に積極的に入ろうとしているのでしょうか。その理由は政府の政策と市場に対する認識に関連します。

 一つ目の理由は、中国の新エネ車市場が成熟しつつあるという点にあります。2009年以来、政府主導で「新エネ自動車導入モデル都市(以下、モデル都市)」や「十城千台」などによる支援・補助政策が実施され、技術開発とその普及は実のところ相当進みました。特に2014~2015年には躍進的な発展を遂げ、2015年末時点では全国の新エネ車の累積台数は58.3万台に達しました。中国政府が掲げていた2015年に50万台という目標を、あっさりとクリアすることになりました。一般市民の新エネ車に対する認知度も高くなり、特に北京などナンバー制限が導入されている都市においては、環境配慮を目的に、新規購入の電気自動車には簡単にナンバープレートを付与する措置がとられて、新エネ車の購入意欲が格段に高くなりました。他方で、2017年に中国政府は新エネ車に対する補助を厳しくし、金額を20%に下げるとともに、2020年には完全に打ち切ると宣言しています。こうなった場合、外資企業も中国企業も同じ土俵で競争することが可能になると見られています。外資企業にとって参入するなら今だという判断が働いているのでしょう。

 二つ目の理由は、基礎インフラの整備が進んでいることが挙げられます。電気自動車を例にとってみると、充電パイル不足の問題に対応するため、政府は、2015年後半から充電パイル設置と運営への補助に乗り出しました。2016年だけでも、「能源取組指導意見」の中で、充電ステーション2,000箇所、公共充電パイル10万個、私有充電パイル86万個を建設し、総投資額は300億元に達したといわれています。

 三つ目の理由は、今年6月12日に、国家発展改革委員会が電気自動車を生産する事業に関して、企業が合弁して生産・販売を行うことを容易にする規制緩和を発表したことがあります。政府としても、中国の電気自動車市場拡大を狙い、企業の育成を狙うという姿勢は明確です。

 四つ目には、「乗用車企業平均燃料消耗量と新エネ車積分並行管理弁法」が一因だともいえるでしょう。2017年6月にパブコメ案が公表され、2019年より施行予定となっている規制案です。伝統的自動車メーカーに対しては、新エネ車の生産が義務付けられることとなります。パブコメ案では、2019~2020年に新エネ車の積分値を10%、12%とし、その後も年々増加していく指標が盛り込まれています。
 中国の新エネ車市場への参入について、外資企業は積極的な計画を打ち出しています。フォルクスワーゲンは2020年に40万台電気自動車を販売、2025年に150万台を実現するとの計画を立てています。トヨタもホンダも2018年に電気自動車を販売すると計画を公表しました。

 新エネ車は2025年の自動車生産・販売台数の20%以上を占めるのではないかといわれています。こうした状況下で、国産メーカーと外資メーカーの力関係がどうなっていくかも注目されています。国産メーカーは、10数年かけて新エネ車の研究開発と生産を進めてきたものの、電池などコア技術においては、その供給を外資に握られ、技術のレベルアップのためには外資との合弁は不可避であるという意見があります。一方、国産メーカーと外資との技術レベルは大差がないにもかかわらず、外資との合弁を安易に進めることで、せっかくの市場を外資との合弁に譲ることとなり、中国の技術革新力を阻害することになるという懸念の声も聞かれます。
 いずれにしても、政府補助が徐々に減少していく中、新エネ車市場は今後、本格的な競争のステージになるでしょう。その時に勝者となるのはBYDや吉利、上汽、JAC、北京汽車など中国国産メーカーなのか、トヨタ、ダイムラー、BMWなどによる外資合弁企業なのか、まだ予断は許しません。



創発戦略センター
マネジャー
武藤 一浩
 

地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No4
自動運転による「コミュニティ・モビリティ・サービス」の実現を目指して

■地域コミュニティをサポートするモビリティサービス
 前号まで(No1, No2, No3,)は、2016年10月に神戸市北区筑紫が丘で行った、低速モビリティによる近距離圏内移動サービスの実証について、利用状況や利用者からの期待の声、そしてサービス実証の主体となった地元交通事業者が実際に得られた手応えをご紹介しました。日常生活を支える移動サービスとして、特に今後、高齢化が進む数年後の有効な対策としての期待が高かったこと、カメラを備えたモビリティが走り回ることによる防犯効果や乗り合いの際に地域住民同士が顔を合わせコミュニケーションが活発化したことなど、移動以外の価値にも注目が集まりました。
 本号では、このサービスを「コミュニティ・モビリティ・サービス」と定義しそのあらましを示し、連載の最後となる次号でサービスの社会実装の早期実現に向けた道筋について言及します。

■コミュニティ・モビリティ・サービスの内容
●近距離圏内移動サービス
【低速】
 車両は低速(上限20km/h)で運行される前提です。安全面での確認はとったとしても自動運転技術は発展途上といわざるを得ず、万が一の事故の際にも大きな事故にはなりにくい低速走行での運行が特に初期には求められるからです。また、近距離圏内での移動サービスであれば、低速でも用途としては十分であるうえ、住宅地でも騒音問題等を引き起こしにくくなります。
【定ルート、デマンド】
 車両を呼び寄せ、目的地に直接向かえるデマンド運行は利便性が高く一定の需要が見込めますが、神戸でのサービス実証では車両を呼び寄せる手間のない定ルート運行の方が利用者数で上回りました。山手線のように気軽に利用でき、多くの利用が見込める定ルート運行の基盤を構築したうえで、メジャーではない地点間でも移動できるデマンド運行が補完する形で一体的に提供することが妥当と言えます。
【電動かつ小型車両】
 電動車両を用いるのは、住宅地にはガソリンスタンドがないことが多いためで、さらに、ガソリンより電気の方がコミュニティ内ではエネルギー補給の効率が良いことも理由です。また、排ガスが出ず、騒音も少ないため住民の生活環境への影響を抑えることも電動車両を活用するメリットです。小型車両が好ましいのは、コミュニティ内は高齢者や子供なども含めた歩行者や、一般車両などの移動があるため、圧迫感を与えないことへの配慮からです。
【利用者にIT機器の活用を押し付けないサービス】
 利用者がIT機器を通じて車両の現在位置を知ったり、車両を呼び寄せたりできるようにすることは非常に重要です。しかし、近距離圏内移動サービスの主要なユーザーは高齢者や専業主婦層であり、一般にIT機器への習熟度は高くありません。彼らが組織する自治会の協力を快く得るためにも、電話などによる対応も含め、利用者にIT機器以外からのアクセスができる仕組みが必要です。
【自動運転車両の活用】
 交通事業におけるコストの大半は運転手の人件費が占めています。近距離圏内移動サービスは、特にデマンド運行では運転手の人件費が加算されると採算が合いにくく、定ルート運行では「歩いても行ける」距離でも乗車してもらえるように頻繁な運行、つまり多くの運転手が求められます。そのため、運転手に頼らない自動運転車両の活用が必要となります。
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●サービスを支える形
【既存交通との連携】
 近距離圏内移動サービスは、生活圏内での移動を容易にさせるだけでなく、既存の中長距離交通サービスとの連携によって、マイカーに頼らず、どこにでも公共交通で行くことができる交通ネットワークを構築することも大きな目的としています。既存の交通サービス側から見れば、近距離圏内交通サービスは「ラストマイル自動運転サービス」として位置づけられる存在となります。
【(店舗や商店、イベントへの)集客効果】
 コミュニティ内の店舗によるタイムセールなどの情報を、定ルート運行車内広告として流すことによって途中下車での買い物を誘導できたり、利用者のIT機器に送信してそのままデマンド配車の予約ができたりすれば、利用者へのメリットになるうえ、店舗からの広告収入も得られます。
【住民利用】
 自宅から出て最初に乗車し、近所であればどこにでも気軽に行くことができる近距離圏内交通においては、利用客の多くは都度払いから定期利用に移行していくことが予想されます。実証での利用者アンケートを参考にすると、一人当たり月額3000円までの定期利用は期待できます。
【防犯効果】
 車両には内外にカメラを設置します。車内での状況把握とドライブレコーダーとしての活用が主な目的ですが、副次的な効果として「走る防犯カメラ」としての役割も担えます。自治会にとっては、地域防犯活動はコミュニティを維持するための重要な活動であり、行政の支援を受けながらこの「走る防犯カメラ」を採用することも考えられます。

 以上がコミュニティ・モビリティ・サービスの定義とそのあらましです。連載の次号では、コミュニティ・モビリティ・サービス社会実装の道筋について言及します。

『LIGARE(リガーレ) vol.33』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(後編)P30~33を一部改変して転載

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