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これからの地域公共交通の在り方④
~地域社会資本としての自動運転移動サービス~

2023年08月08日 武藤一浩


 同タイトルでシリーズ化()して執筆してきた本稿の第4回は、海外と国内の地域公共交通の現場で自動運転移動サービスがどこまで普及してきているかについて述べておきたい。

海外の動向
 欧州、特にNAVYA社がEVOやARMAといった日本でも馴染みのある自動運転車両を提供しているフランスは、公共交通や歩行者・自転車を中心に据えた交通政策で中心市街地の活性化に成功していることでも有名である。フランスの交通政策では、公共交通が走る道路、一般車両が走る道路(もしくはエリア)、自転車やキックボードが走る道路、歩道の4つが明確に区分され始めている。これは、公共交通が走る道路が将来は自動運転移動サービスとなっていくことを予見したうえでの区分ではないかと想像できる。というのも、自動運転の実現を図ろうとするとき、走行環境が他の交通参加者(一般車両、自転車、歩行者など)と分離されているのであれば、安全確保や円滑な交通環境整備などに対応する技術は簡易なもので済み、導入は一気にし易くなるからだ。

わが国の動向
 わが国では、2023年5月より、福井県永平寺町において、レベル4の自動運転移動サービスが開始された。この自動運転車両が走行する環境は、通常人通りの少ない歩道であり、他の車両などの侵入もない。また、弊社が幹事会社を担っている経済産業省と国土交通省が共同で進めている「RoAD to the L4」のテーマ2では、永平寺に続く社会実装先として、日立市の日立電鉄線跡地のBRT(線路を道路にして専用道路を走行)を対象に想定している。これらは、先ほど紹介したフランスの「公共交通のみ走る道路から自動化が検討されていく」流れと同じといえるだろう。
 ただ、フランスでは、まちづくり政策の一環として公共交通を組み込み、公共交通を円滑にするために公共交通専用道を設定したうえで、自動化していく流れがみえる点で包括的である。これに対して、わが国では、今ある専用道路を走るバスを単純に自動化していくだけにとどまっており、「そのような専用道路の公共交通が全国にどれだけあるのか」という疑問が次に呈せられることがもっぱらで、普及し易い走行環境を如何に創出していくかのような話しにはなっていない状況だ。

 「RoAD to the L4」のテーマ2では、2025年までに全国50か所程度での自動運転移動サービスの展開を目標として掲げ、我々も幹事会社として取組を推進しているところである。しかし、この目標を達成していく広がりを作るためには、フランスのように地域のまちづくりの政策に公共交通を組み込み、自動走行し易い走行環境(=公共交通が走行し易い環境でもある)の整備が必須であり、国内で、そうした認識を醸成していかなければなるまい。

自動運転移動サービスを地域の社会資本としてとらえる
 国土交通省が2022年度より継続して公募している「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転実証調査事業)」は、昨年4か所、今年度30か所、来年度はさらに倍以上の公募がでるような話がある。この補助金はもともと「(自動運転実証調査事業)」の括弧書きはなく、地域公共交通を維持するための補助金であった。実態は、事業者が補助金のほとんどを運転手の人件費に充てていたということができる。ただ、現時点の慢性的な運転手不足はさらに進んで、運転手確保が困難になる事態が避けられないと見られるなか、今後の地域公共交通の維持には、自動運転などによる装置産業的な展開とその維持費に補助金の一部を充てていこうという考えから、括弧書きが追加されたと考えられる。これは、地域を活性化させるためのエレベーターやエスカレーター、歩く歩道、といったものに近い「地域社会資本」として自動運転移動サービスをとらえていく視点が生まれたと筆者の目には映る。
 フランスで進められている交通政策は、まさに公共交通を地域社会資本と捉えている点に特徴がある。日本国内でも、自動運転移動サービスの普及に向けた国の支援策は一定規模にはあるが、その支援投資が地域社会資本として活かされ引き継がれていくよう、引き続きシンク&ドゥータンクとして同じ思いを抱いている官民の皆さんと活動を続けていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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