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未来洞察を活用した高校生向けアイデア発想プログラム

2023年4月13日 松木 繁季

◆ 高校生向けアイデア発想プログラムの概要
 未来デザイン・ラボでは、若者の未来思考力の育成に貢献したいという目的で、複数の大学や高校において未来洞察ワークショップを提供している。(詳細は「「未来思考」教育の必要性と効果 ~東工大ToTALのケース~ 」を参照。)
 今回は、自由に未来を考える手法を身に着けるための「高校生向けアイデア発想プログラム」について紹介したい。

 まず、「自由に未来を考える」とはいえ、テーマもなく、やり方もわからない状態だと、何をどう議論すればよいかわからないと考えられる。そこで、本プログラムでは「未来の困っている人」と「未来の解決策」を軸に、それらを掛け合わせたアイデアを発想するフレームを用意した(図1)。


 未来洞察プログラムでは、「知らないことを知りに行く」ということを重要視しており、そのための材料として、想定外な変化の兆し「スキャニングマテリアル」を提供している。このマテリアルは、価値観やライフスタイルなどの生活者の変化の兆しから、さまざまな業界や最新の技術動向まで多彩なものがある。本マテリアルを「①未来の困っている人」、「②未来の解決策」の軸に対して、自分の視野を拡張するための材料として活用してもらった。
 その次に、「①未来の困っている人」、「②未来の解決策」という新しい未来同士をそれぞれ掛け合わせる「③強制発想」をすることで、今まで自分が考えてきたものとは異なる視点でのアイデアを強制的に発想できる仕掛けを作っている。言い換えると、恣意性の低い自由なアイデアを発想するのに役立つものであり、セレンディピティを強制的に起こすようなことに近いかもしれない。
 なお、フレームの軸は、テーマ(考えたいこと)をベースに柔軟に変更できるため、自由に未来を考える上で有用なものだと考えている。

 当フレームを用いた本プログラムの具体的な実施手順は以下の通り。

①未来の困っている人:生活者のあり得る未来の兆しについて、過去に別のプログラムで高校生に作ってもらったスキャニングマテリアルを高校生に見てもらい、そこから未来の困っている人/ニーズを想像し、書き出してもらった。

②未来の解決策:最新の技術動向などから解決策になり得るスキャニングを日本総研からいくつか提示し、高校生にその中で知らなかった/面白いと感じたものを選んでもらった。

③強制発想:「未来の困っている人」と「未来の解決策」をマトリックス上に並べて、それらを強制的に掛け合わせることでアイデアを発想してもらった。


◆ 高校生のアウトプット例「訪れた人の思いがわかっちゃう地図」
 では、実際に高校生がアイデアを発想するまでの過程とアイデアの例をフレームに沿って示していこう(ここでは、「訪れた人の思いがわかっちゃう地図」というアイデアを発想した過程のみに絞って記載する)。

①未来の困っている人:「文字を書く時の手の動きを人が想像するだけで文字が表示される」という未来の兆し(参考:思い浮かべるだけで意思疎通ができる)から、未来では「言語化しづらい感情などを人の代わりに表現してくれるようなインターフェースが生まれるのではないか?」と高校生たちは想像していた。その次に、「自分たちのような若者が簡単に言葉にできない感情などをうまく伝えたいというニーズが顕在化するのでは?」、「逆に簡単に人の思いを見たい/見える化してほしいというニーズが生まれるのではないか?」と議論していた。

②未来の解決策:「未来の情報や開催予定のイベント情報などを表示する地図」という未来の兆し(参考:3年先の未来が見える地図)から、未来の地図は位置情報の提供だけではなく、記録や予測情報の提供が重要になってくるのではないかと想像していた。

③強制発想:①②を掛け合わせて、場所にひもづいて訪れた人々の思い/感情が見える化した「訪れた人の思いがわかっちゃう地図」が作れたら面白いのではないかと発想していた。具体的には、そこで起こったイベントが時系列でわかり、そのとき訪れた人々の感情を文字などで見ることができ、かつリアルタイムでそこにいる人の感情なども見えると良いのではと議論していた。


◆ 本プログラムがもたらす効果と今後の展望
 上述のように、フレームをもとに高校生たちは無事にアイデアを発想することができたが、当プログラムは自由に未来を考えるきっかけとなったのだろうか。
 高校生からは、「一見するとつながらない2つのことを掛け合わせて、新しい案を作るという方法を初めて知り、今後さまざまな場面で活用できそうだと感じた」といった感想も得られ、まずは自由に未来を考える手法を体得してもらえたようだ。
 加えて、「同じグループの人で、同じ記事を選んでいても全く別の視点の話を聞けたことが良かった」といった感想もあった。このことから、自分の考えが当たり前でないことに気づき、自由に未来を考える上で重要な「多様な考えを受け入れる」、すなわち積極的に「自分の視野を拡張する」マインドを醸成できたようにも思える。少なくとも、他者との対話や強制発想によって、今まで考えたことのなかった「新たな未来の可能性」に目を向けることができ、自身の思い込みや常識にとらわれずに自由に未来を考える第一歩になったのではないかと感じている。

 過去の未来洞察ワークショップにて、「未来は大人が考えるものだと思っていた」と言っていた学生がいた。今の教育環境では知らず知らずのうちに自由に未来を考える行為が奪われている状況にあるのかもしれない。そういった環境に対して、少しでも自分たちで自由に未来を考えていけるようなマインドの醸成や手法の獲得に貢献していけるような活動を今後も続けたい。


あり得る未来の兆し
思い浮かべるだけで意思疎通ができる
米国スタンフォード大学の研究チームは、文字を書く時の手の動きを人が想像するだけでデスクトップに文字を表示させることに成功した。被験者の脳にBCIを埋め込み、AIがBCIから出される信号をもとに文字を表示していくという実験だ。将来的には多くの人が脳にチップを埋め込み、スイッチをいれると想像したものを他人が認識できるようになり、障害を持った人々などとも簡単にコミュニケーションを取れるようになるかもしれない。
[出所]https://fabcross.jp/news/2021/20210729_mental-handwriting.html

3年先の未来が見える地図
地図検索サイト「MapFan」が3年先までの未来の情報や開催予定のイベント情報などを地図上に表示するサービスを開始した。古地図との比較などをするサイトは以前からもあったが、未来も合わさることになると、地図の役割として位置情報の提供に、行動判断の指針をどれだけ示せるかが重要になっていくのかもしれない。
[出所]https://www.mapfan.com/future-info/

以 上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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