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子供は大人のインフルエンサーになる

2021年12月27日 時吉康範

 コロナ禍で在宅勤務が普通の生活になったことで、未来を考えるためには自分が知らない情報に触れることが重要と述べている筆者にとって、情報収集上、よろしくない変化が起きている。
 1)外出の減少、2)メディアの代替、3)興味・関心の固定化の3つだ。
 1)外出の減少:外を出歩くことが減ったため、以前は移動中や外出先で知らない情報に出くわすことが多かったが、その機会が劇的に減った。
 2)メディアの代替:以前はテレビから垂れ流される知らない情報に触れることもあったが、今ではスマホやiPadで自分が知りたい情報を取りに行くようになった。
 3)興味・関心の固定化:上記2)に関連して、ユーチューブを見ることが増えたが、自分の興味・関心があるコンテンツばかりを見るようになった。
 筆者は、クライアントに「家と職場を車や電車で往復して、家に帰ると自分の興味・関心のあることばかりに時間を使っている社員に、社会や自社の未来を考えてもらうには、その“普通の大人たち”が知らない情報のインプットによる視野拡張が必要ですね」と言っているが、今の筆者は、在宅勤務をきっかけに、普通の大人たちに近くなった気がする。


 未来デザイン・ラボが定常的に集めている未来の兆し情報の中に、以前「SDGsを子供から教わる」というものがあった。学校でSDGsを教わるカリキュラムが登場し、その内容を家庭で子供が話すことで両親や高齢者が初めて知るようになったというものだ。子供たちはそもそも感受性が強く、特に今の子供たちは社会の要請の変化に伴いこれまでとは異なる教育を受けていて、かつ、デジタルネイティブだ。こう考えると「『子供たちは大人たちよりも物事を知らない』と決めつける」ことは間違っている。大人が子供から知ること・学ぶことが多々あることはごく当たり前のことだ。

 子供が大人に影響を与えている事例を並べた。
 事例1) アイドルやゲームといったサブカルチャーの領域では、子供をきっかけに興味を持ったが、子供よりも、さらには、子供そっちのけで没入する大人の事例は古くから多いと思う。最初は、子供が好きなアイドルやゲームを通して子供と対話をすることを理由に、そのアイドルやゲームにちょいちょいアクセスしていたが、幸か不幸か“ハマった”(覚醒した)大人は、子供と対話する機会のある/なしに全く関係なく、自分でiPadを買って丸一日アイドルのユーチューブを見ていたり、丸一日ゲームをしていたりする。
 事例2) 最近、環境保護の領域で、ロンドンで過激な抗議活動をする高齢者が500名逮捕されたと報じられた(※1)。高齢者は「孫の将来のためなら逮捕されてもいい」との看板を掲げ、気候変動への対策を訴えるデモをしている。彼らは、最初は「孫のため」だったかもしれないが、孫を起点にした活動をしているうちに、これまでの静かな、制約ある日常生活の反動からか、また、老い先短い人生との潜在意識からか、覚醒のスイッチが入り、孫そっちのけの激情型の行動を取っているようにも見える。  事例3)  子供たちがなりたい人気の職業は、少し前はユーチューバーが一位だった。その影響もあってか、「子や孫に残したい」とユーチューブを始める高齢者ユーチューバーが増えてきている(※2)。動画の作成・配信を実現できている背景はデジタル技術の向上と社会の受容度の上昇という世の中の変化であり、身近な日常の中のちょっとした工夫で手軽に動画を配信できるようになった。

 子供たちがなりたい職業はユーチューバーと記したが、今では、“インフルエンサー”が一位になった(※3)。“影響”を及ぼしたい子供たちが、自分たちで自分たちの未来を考え、閉じた大人たちに影響を与える社会はもう来ている。大人たちは、そうした子供たちに対して身構えるのではなく、子供たちが思っていること、伝えたいことを傾聴し、子供たちのおぼつかない言語のみならず非言語的にも対話をすることがこれからは自然に求められていくようになると考えている。


参考情報
(※1) 「孫の将来のためなら逮捕されてもいい」─93歳も逮捕、気候危機対策を訴える“高齢者たち”
(※2) 増えるシニアユーチューバー 再生125万回のヒットも
(※3) Z世代のなりたい職業ランキング、3位芸能人、2位保育士・幼稚園教諭 1位は?


以 上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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