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社会課題の解決と行政主導の新規事業開発

2021年12月15日 時吉康範

パチンコの「長過ぎる」演出
 最近の大抵のパチンコ台には大きなボタンやレバーがついており、それらを押したり引いたり、ボタンを連打したりすると演出が変わることがある。「当たれ当たれ、もっと熱い演出になれ」との期待を込めて連打に力が入る人も少なくない。
 ただ、パチンコの当たり外れ、そして当たりの種類は、玉が特定のチャッカーを通過した一瞬で判定されており、ボタンをどれだけ必死に叩こうが、どのような演出が出ようが、判定が変わることはない。それにもかかわらず、最近のパチンコの演出は長く、一つの判定の結果が分かるまでに3~5分程度の間、液晶画面で展開されるストーリーを眺めさせられることも多い。せっかちな筆者にとっては長過ぎる。ある程度経験を積めば、その途中で当たらないことが予測できるが、結局5分も映像を見せられて当然のごとく外れると「時間を返せ」と思いたくなる(なお、ここでは「パチンコ自体が時間の無駄」という議論は置いておく)。
 さて、大事なのは、この長過ぎると思われる時間にも正当な理由があるということだ。パチンコおよびパチスロ業界は、依存症対策として古くから「射幸心の抑制」が指導され続けている業界だ。「射幸心をあおる」と見なされるとすぐ規制される。最近ではカジノ法案の審議で議論された。
 射幸心を抑制する規制は大きく2つある。一つは、パチンコおよびパチスロの出玉率(単純化すると、獲得する玉・メダル÷投入した玉・メダル)の理論値が行政による規格検定を通らなければ市場には出せないことだ。
 もう一つの規制が時間だ。特定の時間内に打ち出せるパチンコ玉の数や使えるパチスロのメダルの数は古くから規制されている。また、射幸心の強い人々からは、瞬発的な出玉や大量の出玉でさらに射幸心をあおる機種が支持されるため、時間あたりに得られる玉やメダルにも規制がかかる。つまり、長い演出時間は、規格に準拠しながら出玉を大量に得る短い時間を確保するために必要不可欠なものなのだ。


社会課題の解決というトレンドと射幸心
 企業の新規事業開発を担う者にとって、新たなトレンドの登場によって射幸心があおられることはあるだろう。まぐれ当たりこそ望まないにしても、新たな事業機会に利益を願う気持ちはあおられることだろう。
 最近企業がこぞって注目しているトレンドに、SDGs、サステナビリティ、脱炭素などの社会課題の解決がある。これらの社会課題の解決は、これまで人類が経験してきた新たな物欲を満たすためのトレンドとは様相が異なり、地球規模の、人類の存続のためにより根源的な、時に道徳的な精神を伴うテーマだ。事業までの時間軸も相当長いだろう。
 筆者は、社会課題の解決を事業機会としてとらえること、新規事業開発の領域とすることに異を唱えているわけではない。ただ、パチンコ話の言葉を若干変えると「利益を得られない長い時間は利益を得る未来の時間のために必要、長過ぎるようでも社会課題の解決の情報発信・受信は未来の規格づくり・規格準拠のために必要不可欠」を前提に取り組みを進めることが重要に思えるのだ。間違っても、民間企業が「当たれ当たれ」と必死で連打するような対象ではない。


社会課題の解決と行政主導の新規事業開発
 改めて、「利益を得られない長い時間は利益を得る未来の時間のために必要、長くても社会課題の解決の情報発信・受信は未来の規格づくり・規格準拠のために必要不可欠」と考えると、社会課題の解決を事業機会とした新規事業開発は、これまでの事業とは異なり、民間企業の自由意志に委ねるよりも、行政が主導したほうが良い結果をもたらす可能性がある数少ない領域の一つに思える。
 理由は2つある。一つは、重要な取り組みではあるが、いかんせん時間軸が長く、民間企業の取り組みの持続性への不安が残るからだ。もう一つは、自社の利益を優先する企業による個別の取り組みは、外交的要素を含む地球規模の課題解決には心もとなく、また、国際規格の主導権争いや国際競争力の獲得に資するとは思えないからだ。
 そこで、行政が、短期的には民間企業の取り組みの持続性を担保するべく資金、商流およびアライアンスを支援し、長期的には支援を受けた企業が将来利益を上げた際には「社会課題解決事業税(仮)」のような形で回収する仕組みはできないだろうか。利益を得られない長い時間をあらかじめ想定し、未来の国際規格づくりを目指す、新たなスキームに期待したい。


以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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