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未来洞察で導出したアイデアを事業化した事例とは

2022年1月18日 小林幹基

 未来デザイン・ラボでは、主に民間企業に対して、未来洞察(※1)という手法を用いて、10~15年後の事業機会を見いだすための支援を行っている。アウトプットの形態としては、新規事業創出ないし、長期ビジョン策定として検討することが多い。
 さて、企業の方に初めて未来洞察を紹介する際によく聞かれる質問の一つが「日本総合研究所(以下、JRI)が支援した企業が、JRIが提供する『未来洞察』によって導出したアイデアを、事業化した事例を教えてほしい」というものである。しかしながら、筆者からクライアントの内情をお話しすることはできないため、その場で具体例を紹介することが難しい。そこで、本コラムでは2016年3月に発行した『新たな事業機会を見つける「未来洞察」の教科書』(以降、「未来洞察の教科書」と表記)に記載したアイデアの具体例を活用して、上記の質問に対する一つの回答を提示したい。


■ 新規事業の成功確率は2割以下が前提
 まず初めに、読者の皆さんは新規事業の成功確率をどのように考えているだろうか。2013年3月に経済産業省が公表した「新しい事業を創造するための企業内の人材マネジメントの在り方を考える研究会 報告書」に下記の記載がある。
 ・ベンチャーキャピタルでは、必ず2:8(2割成功、8割失敗)と言われている。2割も成功すればすばらしいのに、企業では「コンプラ」と称して、8割または10割成功を狙っている。
 ・3Mでも成功確率20%としているが、事業を起こした人は、それほど高い確率で成功するのかと驚き、経験のない人は、そんなに低いのか、と言う。
これまで新規事業のプロジェクトに数多く関わってきた筆者からすると、2割という数字はとてつもなく良い数字に聞こえる。実際のところは、一般の企業での成功確率は数%程度まで下がるだろう。未来洞察は、この前提(=新規事業の成功確率は高くとも2割)に則ったうえで、不確実な未来をふまえたアイデアを強制的にたくさん出すためのフレームワークである。すなわち、未来洞察で導出したたくさんのアイデアが100%の確率で事業化につながっているということではない。


■ 2025年の“移動”に係るアイデア
 「未来洞察の教科書」では、未来洞察の考え方や企業事例とともに、Chapter 4「非連続な事業機会の見出し方」の中で、2025年を想定した“移動”の未来・“ヘルスケア”の未来・“住宅”の未来、の3つのテーマで未来洞察を活用して得られるアウトプットの具体例を記載している。これは、2015年夏に未来デザイン・ラボのメンバーで実施したワークショップのアウトプットそのものである。
 ここで、“移動”の未来について簡単に紹介する(詳細は「未来洞察の教科書」をご覧いただきたい)。強制発想の結果として下記の4つのアイデアを取り上げた。
 ・トリアージュ・レーン:(LED照射等によって)通行量に応じて道路のレーン幅を調整する
 ・ポップアップ横断歩道:(LED照射等によって)高齢者の移動に合わせて横断歩道が出現する
 ・知的移動:市民が地元の歴史を発掘して紹介しあう(誰でもどこでもブラタモリ(※2)的楽しさが味わえる)
 ・INGRESS(※3)的プラットフォーム:ゲーム感覚で高齢者の非用件外出を動機づける
このうち、トリアージュ・レーンの概念がカナダ・トロントのスマートシティ開発の中で直近まで議論されていた。


■ トロントのスマートシティに組み込まれるはずだったフレキシブル道路
 2017年10月に加Waterfront Toronto(トロントのウォーターフロントを再開発するためにトロント市とオンタリオ州とカナダ政府が共同で設立)は、米Alphabet傘下のSidewalk Labs(Googleの兄弟会社)をパートナーに選び、スマートシティの開発を推進すると発表した。以降、個人情報の取り扱い等に関して住民との対話を繰り返し、ついに2019年6月にMaster Innovation and Development Plan(MIDP)がSidewalk LabsからWaterfront Torontoに提出された。MIDPには様々なアイデアが記されており、その一つとして、道路に埋め込んだLEDを活用して動的に道路の縁石を使い分けることを提案している。まさに“トリアージュ・レーン”の概念そのものである。
 その後、Sidewalk Labsは2020年5月に「世界経済およびトロントの不動産市場が不確実性を増す中で、開発を継続することが難しくなった」として撤退を表明した(※4)



■ 未来洞察で導出したアイデアと同じ世界観を実装
 さて、本コラムの主題に戻る。このコラムの目的は「JRIが支援した企業が、JRIが提供する『未来洞察』によって導出したアイデアを、事業化した事例を教えてほしい」という質問に対する一つの回答を提示することであった。これに対し、2015年夏に未来デザイン・ラボのメンバーで導出したアイデアの一つ“トリアージュ・レーン”が、2017年にスタートしたトロントのスマートシティ開発で検討されていることを示した。筆者らとトロントのスマートシティ開発の間に関係性はないものの、2015年に未来洞察で導出したアイデアと同じ世界観がまさに実装検討段階にある。本コラムでは、これをもって、皆さんのご質問に対する一つの回答としたい。
 もちろん、クライアントが未来洞察で導出したアイデアを事業化した事例も数多くある。読者の皆さんにも是非自らの手で事例を創っていただきたい。


【参考情報】
(※1) 未来デザイン・ラボ 検討プロセス
(※2) タレントのタモリが「“ブラブラ”歩きながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫る」番組。出典:https://www.nhk.jp/p/buratamori/ts/D8K46WY9MZ/
(※3) 現実世界とリンクした位置情報ゲーム。出典:https://ingress.com/ja/
(※4) https://medium.com/sidewalk-talk/why-were-no-longer-pursuing-the-quayside-project-and-what-s-next-for-sidewalk-labs-9a61de3fee3a


以 上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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