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第12回:SF-Foresight(Science Fiction × Foresight)の振り返りと今後の発展の方向性

小林幹基 & SF-Foresightプロジェクト


 これまで11回にわたって、ベーシックインカムをテーマに「SF的手法・思考」と「未来洞察」の組み合わせについて検討/実践してきた内容を紹介した。特に第6回から第10回にかけては、未来デザイン・ラボのコンサルタントが高島先生からアドバイスをもらいながら「小説を書く」ことにチャレンジした結果である。改めて振り返ってみると、「新たな未来の社会の姿や生活者の行動を洞察する」(フォーサイト)活動にも応用できる部分が大いにあると感じている。最終回となる第12回では、今回のSF-Foresight(Science Fiction × Foresight)プロジェクトを振り返るとともに、今後の発展の方向性について考えたい。

ストーリーにオチをつける=インパクトの大きなシーンを特定する

 第2回で述べたとおり、本プロジェクトでは未来洞察で描いた未来を「読み手に伝わるように表現する」ところでSF小説の手法・ノウハウを活用した。高島先生からは2,000字前後の短編の中で「序破急」を意識しながら執筆することをアドバイスいただいた。すなわち、「序」で未来洞察を活用して描いた未来の世界観を丁寧に描写する、「破」で機会領域につながるシーンに展開を与える、「急」で機会領域を活用してオチをつける、というものだ。
 実際に小説を書き始めると、想像以上に楽しくなり、筆が進んだ。というのも、小説を書きながら、「こんなオチで読者を驚かせよう」「あんなオチで読者を笑わせよう」といった感じで、オチによって読者が示すであろう反応を自由に想像していたからだ。言い換えると、読者を楽しませるためにオチを先鋭化させようと考えるわけだが、これはまさに読者に「新たな未来の可能性・自社にとっての新たな事業機会となり得る未来像(機会領域)」をうまく伝えるための作業に他ならない。小説化するということは、未来洞察で描いた未来の中でインパクトの大きな箇所を見いだし、その点に光を当てながら、ストーリーとして再構成する作業であったと言える。
 未来の社会の姿や事業機会を多く検討していると、「未来像の海」に溺れてしまい、ともすれば何が重要な変化なのか、世の中に対するインパクトの大きな事象なのか、を見落としてしまうことがある。小説化することによって、より明確に、注目すべき事象を特定することができるようになる。また、結果として、事業化の際の想像力や仮説構築力といったスキルの向上にもつながり得る。

一つのシーンを共有しながら未来の世界観を共通化して、さらなる議論を巻き起こす

 さて、こうして作り上げた小説は読み手にどのような効能をもたらすだろうか。第2回でも述べたとおり、未来洞察を企業で導入した際の課題の一つが「議論に参加していない人、特に上席者に検討結果を説明した際に、議論に参加した者と同じレベルで検討内容を理解することが難しい」ことであった。
 そこで、今回、議論に参加していない人々に我々が作成した小説を読んでもらい、所感を聞いた。すると、「まず興味をひかれた」とのコメントがあり、その後「機会領域が表出する象徴的な/具体的なシーンがイメージできた」「未来の社会が想像しやすかった」とのコメントが続いた。これらのコメントから、まずは読者(未来洞察の議論に参加していない人々)を未来洞察で描いた未来の世界観に引き込むことに成功し、そして、一つのシーンを共有しながら未来の世界観を共通化することができたと言えよう。また「具体的なシーンがあることで事業化を検討しやすくなる」「他人と議論する際に多様な考えが得られそうだ」といったコメントから、共通化された未来の世界観の中で発展的な議論につながることが期待できる。これらの効能は第5回で述べた「情報共有」と「情報進化」に該当するものであり、上述の未来洞察の課題の一つを解決し得ることを示している。

本プロジェクトのサマリ ~小説化することの意義~

 これまでの検討をまとめると、未来洞察で描いた未来を小説で表現することは、
・未来洞察で描いた未来の中でインパクトの大きな箇所を見いだし、その点に光を当てながら、ストーリーとして再構成することであり、
・その結果、読み手(未来洞察の議論に参加していない人々)と未来の世界観を共通化して(「情報共有」)して、さらなる議論の発展につなげる(「情報進化」)ことである、
と言える。

今後の発展の方向性

 さて、本プロジェクトの結びとして、今後の発展の方向性について高島先生と議論を交わしたので、その一部始終をお伝えしたい。

未来デザイン・ラボ
 改めて、本プロジェクトの検討結果をどのように感じておられますか?

高島氏
 SFプロトタイピングの潜在的な可能性がまだまだあることがわかって非常に有意義だったと思っています。
 今回の企画を始める前は、【SFプロトタイピングは虚構から現実への動き】であり、【ショートショートなどのSF創作は現実から虚構への動き】と考えていました。
 しかし今回みなさんと協働して、およそ2年にわたってSFプロトタイピングとショートショート作成をしてきた結果、虚構と現実を常に行き来すること、双方向に刺激を与えることこそが重要であると思うようになっています。
 近松門左衛門が「虚実皮膜」と言っています。これは虚構と現実のあいだの薄い皮膜にこそ芸の真実があるという主張であり、SFプロトタイピングやSF創作にも深く通じるもののように感じています。

未来デザイン・ラボ
 「虚構と現実」は興味深いですね。我々は未来を検討する際に「抽象と具体」を行き来します。強制発想の具体アイデアを機会領域として抽象化して、そこから具体的な戦略に落とし込むといったイメージです。「虚構と現実」「抽象と具体」の考え方は共通している部分が多々あるように感じます。その点においてもSF-Foresightのコラボレーションの余地はまだまだありそうですが、SF-Foresightの今後の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?

高島氏
 SFとコンサルティングの協働はまだまだ始まったばかりだと強く感じています。
 アメリカにおける「未来学」の方向かどうかはさておき、〈シンギュラリティ〉や〈SFプロトタイピング〉のような発想は、まさに虚構と現実のあいまから生まれたものであり、これからも研究する価値のある領域だと確信しています。
 今もSFプロトタイピングの依頼は途切れなく来ていて、ぼくもますます研究してまいります。

未来デザイン・ラボ
 同感です。我々もさらなる可能性について研究していきたいと考えておりますので、引き続き宜しくお願い致します。
 加えての質問になりますが、「今もSFプロトタイピングの依頼は途切れなく来ている」とのこと、企業はSF作家さんにどのようなことを期待しているのでしょうか?

高島氏
 まずは煮詰まった議論を進展させる、とがったアイデアを提案することが期待されているように感じます。
 あとSFは未来世界全体を構想するので、そのような作品を引用しつつ、広い視野を提供することもあります。

未来デザイン・ラボ
 なるほど。我々はスキャニングマテリアルと呼んでいる”社会の変化の兆しを示唆する情報”を提供しながらクライアントの視野を拡張しつつ、アイデアや機会領域の導出を支援しています。SF作家さんにも同様の効果を期待されているのですね。
 一方で、我々と異なる点として、SF作家さんの場合はアイデア出しや広い視野の起点が先端的な技術になると理解しています。先端的な技術からフィクションとして拡張する際、どのようなことを意識されていますか?

高島氏
 技術は社会的なものだということは、基本にあります。量子コンピュータにしろタイムマシンにしろ、それが小説の世界にあるとすれば、さまざまな影響が生じるはずです。その全体としての変化が面白ければ、小説としてのリアリティや強度を持ちながら、面白いストーリーとして展開していきます。このあたりの発想はSFプロトタイピングにも通じることだと思います。

未来デザイン・ラボ
 コンサルティングのプロジェクトでは、どうしても市場性や競争優位性の観点でアイデアや機会領域を評価してしまいがちです。もちろん、それらの要素は重要ですが、加えて、発案者も、推進者も、支援者も、利用者も、その他多くのステークホルダーがワクワクするような/共感できるような要素が必要になる。仲間を増やすための、面白いストーリーとしての小説化という位置づけにもなり得るということですね。
 最後になりますが、先日、高島先生が第1回「AIのべりすと文学賞」の最優秀賞を受賞されました。今後の執筆におけるAIとの向き合い方はどのように考えておられますか?

高島氏
 AIのべりすと文学賞受賞作は2021年から書いていたものです。2022年はイラスト生成AIがいくつも発表されて、AIへの向き合い方についてはこれからようやく本格化して、数年をかけて深まっていくものと考えています。
 AIの進化は極めて速いもので、とはいえ人間側の対応も非常に速く、一部の業界では──たとえば使うべきかどうかという水準の議論はすでに通過していて──AI使用は現状でも当然のものになっているようにも感じます。AIが完全に他のソフトやツールと同様の、単なる道具となっている状況です。
 一方で、AIは──もしかするとですが──道具を超えた、その名のとおりの知性そのものかもしれず、AIイコール道具といった結論を出すのは早計です。引き続き科学の最先端のひとつとして注視していきます。

未来デザイン・ラボ
 現状が道具としてのAIというのは同じ感覚です。例えば我々のプロジェクトでも機会領域を表現する際に画像生成AIを活用する例が出始めています。AIを使いこなして未来を表現する取り組みは今後も増えていきそうです。このあたりにもSF-Foresightのコラボレーションの可能性がありそうですね。

高島氏
 本企画は2021年ごろからスタートしていて、その頃と今では〈ベーシックインカム〉の議論が深まっているように思います。きっかけのひとつがコロナ関連の給付金であることは間違いありませんが、給付金自体はそれ以前もありましたし2023年現在ではエネルギー価格高騰をうけての給付金制度が始まっています。
 合わせて、2021年時点の我々の議論でベーシックインカムの財源候補として挙げていた「AI」も、特に2022年の画像生成AIと対話型AIサービスの登場で、一気に気軽に使われるようになりました。
 これは本企画の方向性が大きな意味で正しいことを証明していると言えると思います。
 ただ、このようなことが短期的なイベントなのか、長期的な傾向なのかは、もう少し観察していく必要があるでしょう。
 先日の打ち合わせで日本総研さんが十年十五年先を見据えてのコンサルティングをされているというお話をうかがいました。
 一方で、SF/フィクションの立場から言えば、未来を言い当てることができたかどうかは最優先ではなく、むしろ現実に追いつかれない未来をいかに面白く描くかが重要になってきます。
 SF/フィクションが志向する、現実と絶妙に離れた距離感こそが、SFプロトタイピングの本質と言えるでしょう。

以上
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