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第5回:「未来洞察の小説化」による効能とは?

高島雄哉 & SF-Foresightプロジェクト


 未来発想のワークショップに続いて、今度はごくごく自然に、小説を書こうということになった。
 コンサルティングの現場においては、多くの関係者のあいだで、新しいイメージを伝達し、共有する必要がある。つまりは当事者のコミュニケーションのために、企画書やコンセプト映像あるいはイラストなど、さまざまな手法が用いられていく。マンガが描かれることもある。それぞれのメディアに、固有のメディア特性があり、事業のテーマや計画段階によって適切なメディアが選ばれていく。
 では小説にはどのような特性があり、どのようなタイミングで書かれるものなのか。
 この問いに答えるためにも、そろそろ書き始めてみよう。

 まずは内容について。テーマはすでに出そろっている。興味があるものを選べばいい。その未来において何かが起きる。当然、テーマに即した何かだ。テーマから必然的に起きるトラブルを描いてもいいし、思いも寄らない側面を描いてもいい。
 小説/小説家にとって、もうひとつ重要なのは形式、文字数だ。今回のプロジェクトで、我々は2,000字前後の短編、掌編を選択した。
 当事者のなかにはほとんど小説を読まない人もいれば、自分で長編を書いている人もいる。とはいえ、2,000字であれば10分程度で読み終えることができるし、長編よりは書きやすく完成しやすいのは間違いない。短編の名手は世界中にいて、日本においては星新一がいる。書き始めるうえでの参考文献は、文庫で容易に入手できる。

 ということで、まずは次の2条件が執筆条件となった。
 ①テーマは〈未来洞察〉で得られた5つのいずれか。
 ②文字数は2,000字前後。

 参考文献としては星新一の文庫を、作品としては特に「おーいでてこーい」を提案した。
 この作品では、突如現れた穴に対する人々のさまざまなリアクションが描かれている。文字数も2,000字に近い。星新一の端正な文体は多くの人にとって読みやすく、その点でも本プロジェクトに適している。

 こうして書かれ始めた小説は、次回以降に公開されていくことになる。
 Wordで提出されたものに、コメントして返すという方法をとった。
 コメントの多くは、たとえば【セリフ終わりのカギカッコの直前に句点は不要】といった文章作法的なことが多くなった。
 内容面については【ここでもう少し説明しておくとオチがもっと明確に】というように、内容そのものというよりは、内容の伝え方についてのコメントが大半を占めることになった。
 このことは決して不思議ではない。
 テーマについてはワークショップで──未来洞察のスキームを通して──徹底的に論じたのだから。それゆえ書き手には、そのテーマに基づく世界観/未来観がかなり明確にイメージできているのだ。

 小説/小説家の立場で言えば、執筆にとりかかる前に、テーマを深堀りできるのは非常に有益なことだ。ストーリーや文章に集中できるし、テーマをさらに深く展開することもできる。
 ここから、本プロジェクトにおける小説執筆の必然性が見えてくる。

 小説を書き進めるうちに、作品世界が立ち上がり、〈作品内論理〉とでも呼ぶべきものが生まれる。その論理が正しく構築できていれば、小説はすらすらと、書き手の能力を超えて、初めの想定以上のオチにまで──ほとんど自動的に──展開してくれる。
 あえて強めに定義するならば、小説を書くとはその〈作品内論理〉を発見することに他ならない。
 そして、この〈論理〉はすでに書かれている文章を逆照射し、作品もテーマも、深く新しくする。

 すなわちコンサルティングにおいては、少なくとも以下の2つが小説化の効能として挙げられる。
  A.【情報共有】提案やテーマを小説化して、当事者間の情報共有を円滑化。
  B.【提案深化】一度小説化することで、問題点やさらなる可能性を明確化。

 この〈作品内論理〉はおよそすべての作品に潜在的にあるものなのだけれど、特にSFにおいては強く意識される。AとBの効能を意識しつつ、特に内容面について、3つめの条件を以下のように提案した。これはSF小説を書くときに重要なアドバイスでもある。

  ③新しい何か(今回はベーシック・インカムともうひとつ)を現実に入れるとき、その影響関係をなるべく広く考えて、整合性のある世界を立ち上げること。

 次回より、本ワークショップから生まれた各作品が公開されていく。
 ベーシック・インカムによってもたらされる未来とは何か。本ワークショップでその未来は正しく描けているのか。ぜひ確かめつつ楽しんでいただきたい。

以上
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