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保険外サービス活用推進に関する調査研究事業

2021年04月12日 福田隆士紀伊信之齊木大、濱田樹


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の背景・目的
 介護保険制度の創設から約20年が経ち、人口構成や家族構成、生活のあり方も変化しており、独居高齢者や高齢者のみ世帯の増加も顕著である。介護保険制度においては、介護が必要な状態となっても住み慣れた地域で自分らしく尊厳のある暮らしを維持できるよう、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの構築に取り組んできた。地域包括ケアシステムの構築を進めていく上では、介護保険サービス等の社会保障制度や公的なサービスだけではなく、介護保険外サービスの充実が期待されている。 高齢者のQOLの維持・向上を図り、尊厳ある生活を継続させるためには、公的なサービスだけではなく、個々が有する多様で幅広いニーズにも対応できる保険外サービスの活用の重要性がますます高まっていると考えられる。
 本事業は、これまでの保険外サービスに係る検討経緯等を踏まえ、保険外サービスのさらなる普及促進を目指すためのものである。関係者の保険外サービスの活用推進に資する取りまとめを行うため、介護保険サービスと保険外サービスの同時一体提供、指名料、時間指定料等のさらなるルールの明確化等、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせた提供に係る検討を行った。

2.調査方法・進め方
 本事業では、以下の内容を実施した。

(1)検討委員会の設置・運営
 調査研究を円滑かつ効果的なものとするため、有識者、実務者、市町村関係者等からなる検討委員会を設置・運営した。検討委員会では、調査研究の実施手法・進め方、各種検討における視点・要点、分析・検討の方向性、今後に向けた提言検討・取りまとめ等、各検討事項に関する内容の検討を行った。検討委員会は7回開催した。

(2)先行調査研究の整理
 これまでに実施されている保険外サービスに関する調査研究、介護保険サービスと保険外サービスの組み合わせ・ルールの明確化に関連する調査研究について、公開情報を基にレビューを実施し、対象範囲、主な検討結果等について再整理を実施した。

(3)さらなるルール明確化に向けた調査・検討
 介護保険サービスと保険外サービスの同時一体提供、訪問介護における指名料・時間指定料に関して、過去の調査研究の経緯・結果を踏まえて、さらなるルール明確化に向けた調査・検討を行った。検討においては、検討委員会での議論を中心とし、先行調査研究の内容等を考慮して論点を設定した上で、検討を進めた。
 また、利用者側のニーズの実情、事業者側の提供意向・提供可能性を把握する目的で、訪問介護事業所向けのアンケート調査を実施し、検討に活用した。

(4)ケアマネジャーの保険外サポートに関する調査・検討
 先行調査研究であまり焦点が当てられていないケアマネジャーが提供する保険外サービス・保険外サポートの実態を明らかにするために、ケアマネジャー・保険者向けのアンケート調査を実施した。 調査結果を踏まえて、ケアマネジャーの保険外対応のあり方、今後の方向性等について検討を行った。

(5)報告取りまとめ
 (2)~(5)の検討内容について報告書として取りまとめを行った。

3.調査・検討結果のまとめ

<調査・検討結果>

(1)同時一体提供、指名料・時間指定料に係るさらなるルールの明確化について
(留意すべき点)
●介護保険制度の趣旨に鑑み、公平性の確保の観点から、保険外サービスの提供によって、介護保険サービスの提供が制限されないようにすべきではないか。具体的には、収入や家族構成等によって利用に制約が生じることがないよう留意する必要がある。
●介護保険制度は共助の仕組みであり、介護保険サービスの安定供給が担保できるよう、介護従事者という人的資源の状況に留意して検討を進める必要がある。また、利用者個人のニーズに着目することに加え、共助の仕組みであることを踏まえ、被保険者、地域社会からの理解、納得が得られる仕組みとする必要がある。

(同時一体提供に係るルール明確化の方向性)
●本事業における調査結果から、利用者側のニーズおよび事業者の提供意向もある程度見込まれているが、いくつかの課題が指摘されており、現状で提供可とすることは困難である(回収された調査結果は、同時一体提供を含めた保険外に関心の高い事業所が多い可能性が想定される。その中で事業者の提供意向がある程度みられるということには、留意する必要がある)。
●本年度検討によって、対応・解消すべき課題は、より具体化・明確化された。状況・社会情勢の変化も踏まえながら、関係者から十分な理解が得られる解決策が検討・整理された時点で、さらに検討を進めることが望ましい。
●これまでに整理・明確化されているルールや、現状で対応可能な内容について、改めて整理、周知していくことも必要である。例えば、夫婦ともに要介護であれば、いずれかの訪問介護利用時に夫婦の食事を調理して差し支えないことや、要介護ではない家族の食事について、訪問介護の提供時に、訪問介護員が弁当を届けるといった対応も可能である。こうした対応について、整理・周知していくことも考えられる。
・今後さらに明確化し、解決策を整理する必要がある課題として、以下が整理された。
・護保険サービスと保険外サービスの時間やコストの区分のあり方
・具体的な運用ルール
・利用者への説明、同意取得

(指名料・時間指定料に係るルール明確化の方向性)
●指名料および時間指定料を利用者から徴収することについては、利用者側からのニーズがある程度みられる。しかし、すでに無償で一定の対応がなされていることや、人的資源の制約から事業所がすべてのニーズに対応することは難しいと考えられ、課題を解消できたとしても現時点で各事業所が実施することは難しい面が大きいと考えられる。そのため、現時点における検討の優先順位は高くないと言える。
●仮に可とする場合においても、具体的な条件を整理することが必要となる。また、条件を整理した場合においても公平性を担保することが難しく、実現を可とすることは適切とは言えないのではないかと考えられる。
●指名料、時間指定料の徴収を可とすることを検討するに際しては、少なくとも以下の課題を解消できる方策を検討、整理しておくことが前提となる。
 ・ケアマネジャー等の第三者によるモニタリング等の制度設計
・介護保険サービスの提供が安定的に実施されることを担保できる仕組みを策定していることを要件とする等の対応
・料金について、高額となりすぎないよう一定の指針を提示等の対応

(2)ケアマネジャーの保険外の対応・サポートについて
(調査から明らかにできた点)
●ケアマネジャーによる保険外サービス・サポートについて、ケアマネジャーは業務の一環と考えていないことが多い。それにもかかわらず、ケアマネジャーによって無償でサービス・サポートが提供されることが多い実情を明らかにすることができた。
●中でも救急車への同乗等の緊急対応は、ケアマネジャーの負担感が大きい。しかし、利用者・家族は通常業務の範囲内と考えていることが多いとみられ、大きな課題である可能性が指摘できる。また、保険者間で通常業務範囲内か否かの認識が統一されていない面があることが確認できた。
●保険外サービスに係る相談対応や保険外サービスの紹介等については、通常業務であるとの認識が多くなっている。

(検討を踏まえた方針・方向性)
【ケアマネジャーの業務に関する検討・整理が必要】
●ケアマネジャーによる保険外サービス提供や、ケアマネジャーが対応している業務における保険外サービスの活用を考える前提として、ケアマネジャーの業務範囲を明確にしていくことが必要である。
●ケアマネジャーはケアマネジメントが本来業務であり、ケアマネジメントにおける対象業務を明確にすることがまず必要となる。現在、ケアマネジャーが本来業務以外の対応をやむを得ず行っている実態があり、要因を整理した上で、方向性を考える必要がある。
●ケアマネジャーを、高齢者の生活全般を支える社会インフラとして捉えるという考え方も今後必要であり、こういった考えに沿って業務を整理していくべきではないか。

【ケアマネジャーの業務を整理する際の前提条件・整理の観点・留意点】
●業務範囲を明確にしていく際に、他の制度や民間サービスも考慮して検討を進めることが必要である。
●ケアマネジャーが支援すべき領域を定めた上で、必要な業務を考えていくことも必要となる。
●地域における資源の状況を考慮し、多様な仕組みを前提とした検討も必要である。
●利用者・家族の理解促進、保険者間の共通認識の醸成も必要となる。
●費用徴収について検討するためには、まずはケアマネジャーの業務範囲を明確にすることが必要である。ケアマネジャーが現在のところ無償で対応している業務を有償化するという議論を行っていくのではなく、まず業務範囲を整理するところから進める必要がある。

【保険外サービスの活用推進に向けて】
●保険外サービス促進の観点からは、ケアマネジャーの業務範囲として、日常生活支援にどこまで踏み込むべきかという検討も必要ではないか。これまでの業務よりも踏み込んだ内容を検討していくことが必要となると考えられ、フォーマル・インフォーマルを含めた支援について包括的に見ることができる社会インフラとして位置付けることも検討していくべきではないか。
●居宅介護支援事業所が代行業務等を実施できるようになり、公費あるいは自費がそれに対して投じられるのであれば、これまで保険外サービスが活用されていない利用者層での活用も増える可能性があるのではないか。
●保険外サービスを適切に推進していく上では、認知症の方に限らず、判断能力等に課題がある高齢者等について、的確にケアマネジメントを行うための第三者によるチェック機能の仕組みを作っていくことも必要となる。一人のケアマネジャーだけに依存するのではなく、透明性を確保できるような仕組みとしていくことが期待される。事業所の管理者やサービス担当者会議といった資源の活用も考慮して検討を進めてはどうか。
●介護保険制度やケアマネジャーの業務範囲に関する利用者・家族の理解促進も重要である。関連する内容について対象者への認知、意識醸成、行動変容を促す行動インサイトの考えが、保険外サービス促進のためにも必要と考えられる。

<今後の検討課題>

(1)同時一体提供に係るさらなるルールの明確化に向けた検討
 介護保険サービスと保険外サービスの同時一体提供に向けては、今後、以下の点についてより詳細に検討を行い、さらなるルールの明確化を進めることが必要である。
●介護保険サービスと保険外サービスの時間、コスト区分のあり方、料金設定の考え方
・提供可とした場合の運用ルール
・利用者説明、同意取得プロセス、手段
・介護人材不足の状況下での介護保険サービス安定供給を担保した上での提供方策

(2)ケアマネジャーの保険外の対応・サポートについて
 保険外サービスのさらなる活用推進に向けては、ケアマネジャーの本来業務およびケアマネジャーの役割のさらなる明確化等が必要であり、今後、以下が課題となるものと考える。
●ケアマネジャーの役割・業務範囲の明確化
●適切な理解促進、行動促進に向けた検討
●利用者の権利擁護、意思決定支援のさらなる推進
●地域内の資源のアセスメント、資源開発

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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