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【スマートインフラ】
街の世代交代を支える配電事業

2021年03月23日 瀧口信一郎


 昨年10月に菅首相が2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)を宣言した。しばらく経った頃、エネルギー政策を担当する責任者の1人が雑談の中で「カーボンニュートラル宣言で企業の方は元気になりましたね」と感想をもらした。これまで、安価なエネルギーの供給を優先し、コストのかかる気候変動対策に慎重だった部署の責任者から漏れた言葉としては、少し意外だった。東日本大震災以降、再生可能エネルギーの導入が拡大し続けたものの、2050年にどこまで脱炭素を目指すかについて、政策担当者や企業には迷いがあったように思う。菅首相の宣言はその迷いを吹き飛ばした。
 
 この宣言にはEUを中心とする持続可能な社会(サステナビリティ)の潮流も影響しているだろう。国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)は世界に大きな潮流を作りつつある。コロナ後の世界に向けてEUでは環境対策を進めるグリーンリカバリーが提唱され、日本は乗り遅れているとの論調もあった。国際社会で日本が脱炭素に向けて行動を取らない選択肢はかなり狭められていた。 
 
 しかし、このような政策が進んだ背景には、世代交代による構造変化があるのではないか。エネルギー政策を担当する責任者の大半は40代で、それ以降の世代は気候変動対策を推進する国際的枠組みの京都議定書が1997年に締結されて以降に働き始めており、再生可能エネルギー政策になじみ、心情的には脱石炭を含めエネルギー政策の転換を望む人が増えているように感じる。SDGsは社会課題を解決するための行動指針のため、一見、関係者は社会を良くするために行動しているだけに見えるが、結果として世代交代メカニズムが埋め込まれているように感じる。SDGsは今後の社会の基準となり、社会はそれを前提に組み立てられるだろう。将来を担う中学生や高校生はSDGsを学校で学び、自らの将来の夢を考える際にSDGsをそのよりどころにしている。論文や面接で将来やりたいことを見て選抜する大学のAO(総合型選抜)入試では、SDGsの考え方を取り入れる動きもあるようだ。頭が柔軟なうちに埋め込まれる考え方は、次世代の自然な行動指針となることは間違いない。

 日本総研では、脱炭素社会の持続可能な街のインフラ事業を考えるローカルグリッド研究会(※)を立ち上げた。2020年6月のエネルギー供給強靭化法の成立を機に、街の太陽光発電導入を最大化するため、稼働していない電気自動車の蓄電池に電気を貯める配電事業について、ビジネスモデルを具体化し政策提言を行うことを企図している。
 まだ電気自動車もほとんど見かけない日本でこの仕組みを実現するには時間がかかる。ただ、配電事業は街の骨格となるインフラを運営するもののため、長期で新たな仕組みを実現するには、次世代の街づくりに取り組むことが不可欠となる。高齢者に優しい街づくりは当然だが、子供が住み世代交代を進める街を目指すことが大切だと思い定めたい。
 他方で、次世代の街づくりは理想だけでは実現できない。若い世代は理想に向かう強さがあるが、コスト低減の方策や旧来の仕組みの利点を考えきれないこともある。街を変えていくにはより経験を積んだ人材の発想が必要でもある。物事が長く続いていくためには、コストなどの現実的な課題を直視し、それを乗り越えるビジネスモデルが必要だからだ。
 異なる世代が協力して持続可能な街に取り組む活動を拡大していきたい。

※日本総研ニュースリリース「地域密着型の配電事業の事業モデル検討と政策 提言を行う研究会を設立」(2021年2月1日)


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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