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【農業】
卸売市場のデジタル推進に向けて必要なこと

2020年01月15日 石田健太


 2020年は卸売市場にとって大きな転換点になろうとしている。2018年に改正された卸売市場法が施行される年だからである。周知の通り、生産者からの直接販売や市場外流通の広がりによって卸売市場を経由する割合は減少の一途をたどっている。国は卸売市場の機能である集荷・分荷、価格形成、代金決済等の調整機能は重要としたうえで、合理的理由のなくなっている規制を廃止することにより卸売市場流通の在り方を抜本的に見直すために本法の改正に踏み切った経緯となる。

 改正法では市場開設の際の行政手続きの変更や一部取引ルールが各市場の裁量に委ねられる等多岐にわたるが、最も大きな変革は市場整備にかかる国からの助成の在り方であろう。旧法では、卸売市場は老朽化対策や品質・機能の整備について一定額を国から支援されていた。しかし改正法では、流通の合理化に向けた機能の整備が消費者ならびに生産者に対する利益に寄与すると認定された卸売市場のみ助成が受けられることとなった。流通の合理化に向けた機能整備には卸売市場のデジタル活用が奨励されており、卸売市場法と同時改正された食品等流通合理化促進法には具体的な活用例まで明記されている。それにもかかわらず、筆者の耳に届く範囲ではこうしたデジタル活用に舵を切り始めた卸売市場の報は聞こえてこない。法律が改正されようとしているものの、旧法と変わらない機能整備に対する助成の申し込みになりそうだという声が挙がっている状況である。法律が変わっても状況に変化がないのであれば、市場経由率の改善などは当然見込むことが出来ない。卸売市場のデジタル推進はなぜ進まないのか、何が必要となるのか論考してみたい。

 卸売市場のデジタル推進を阻む理由としては、従来アナログな環境であるが故にデジタルを活用する発想や、またその人材に不足しているなど、いくつか挙げられるが、筆者は最も大きい理由としてデジタル導入にかかる利害の調整が困難であると推察している。卸売市場の開設者は市場内にて業務を行う幾多の卸売企業・仲卸企業の集合体で形成されている。そのため、いざデジタルなるものの導入を検討しようとなると、誰が得をし、誰が損をするのか、導入・運用にかかるコストは誰が負担するのか、などの合意形成が難しい点がデジタル推進に対する大きな阻害要因になっていると勘案する。こうした状況を打破するためには、強いリーダーシップが必要である。卸売市場として、どう活性化していくか、市場経由率を改善していくか、といった高いレイヤーの議論を重ねていく必要がある。そうすることによって、地域・社会に必要とされる卸売市場のビジョンを構築し、デジタルによる機能整備に踏み切ることが出来るであろう。また、デジタル推進を加速するにあたって重要な論点としては、デジタル化によって卸売市場で働く人々の利益に寄与するビジョンを立てられることと考える。デジタルによる流通合理化でそこに働く人材を削るだけでなく、新たに価値を創出するためにどういった役割を新たに与えるか、という点に着目しなければデジタル化は進まないであろう。

 生鮮卸売市場は長くアナログな商慣行が染み付いている業態ではあるが、デジタル活用をはじめとした合理化及び付加価値の向上こそが魅力のあるプラットフォームを目指すうえで欠かせない要素であり、今後の強化方針に加えられることを期待する。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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