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オピニオン

【シニア】
第9回 いま注目するギャップシニア向けサービス(1)「株式会社エムダブルエス日高」の地域福祉交流センター

2016年05月10日 岡元真希子


 ギャップシニアは、シニア向けの商品・サービスを開発している企業から「見えにくい」ということもあって、なかなかギャップシニアにフィットした商品やサービスが生まれにくい状況にあります。そんななかで、ギャップシニア向けのサービスを提供している事例を紹介します。

 群馬県高崎市にある、株式会社エムダブルエス日高は、介護保険外サービスにも力を入れている事業者のひとつです。人工透析とリハビリテーションに強みを持つ地域医療支援病院である日高病院を母体とする同社は、通所介護、訪問看護、訪問入浴、居宅介護支援などの介護保険サービスを提供する一方で、その経営資源を保険外サービスにも活用しています。

 その一つが、同社が高崎市内で運営する「地域福祉交流センター」です。こちらは、定員300人という大規模の通所介護・予防通所介護事業所で、1日平均250名ぐらいが利用しています。利用者の約半分が要介護者であり、約半分がギャップシニアです(※1)。ギャップシニアといっても、要支援1ないし2の認定を受けているため、介護保険給付としてサービスを利用していますが、通所介護のなかでリハビリテーションやレクリエーションを利用することによって元気になり、介護保険サービス給付の対象外である「自立」と認定されることも少なからずあるといいます。
 そのように「自立」と認定されたギャップシニア向けのサービスとして、通所介護事業所に、「シニアトレーニングジム」という自費のスポーツジムを併設しています。ガラス一枚を隔てて隣にあるこのスポーツジムは、55歳以上を対象としており、要支援・要介護から自立できるようになった人や、通所介護事業所を利用している高齢者の配偶者、また近隣のアクティブシニアなどが利用しています。また、同スポーツクラブでは、日高病院の人間ドック室の協力のもと、採血検査(腫瘍マーカー)を有料で実施したり、循環器内科医師による「血圧講座」を開催したりするなど、ギャップシニアが関心のあるテーマでの企画も行っています。

 また、地域福祉交流センターでのユニークなメニューとして「買い物リハビリ」があります。地元のスーパーの移動販売車が、センターの玄関前に横付けしてくれ、利用者は食品や日用品の買い物をすることができます。購入したものは帰る時間まで、リハビリの一貫で調理を行うための「調理実習室」の冷蔵庫に保管できるので、生鮮食料品も購入することができます。自分のための食品を購入するのはもちろんですが、家族に頼まれて買い物をして帰ってくることで、家族の中で会話が増え、役割ができるという利点もあるようです。
 同様に、「リハビリツアー」として、年に数回の日帰りバス旅行も提供しています。季節や自然を感じる旅や、文化・歴史を感じる旅など、テーマはさまざまですが、リハビリツアーを目標に、体力を鍛えるためのリハビリを頑張る意欲が湧いたり、ツアーで同行した仲間との交流が増えたりするなどの効果も大きいとのことです。

 買い物や日帰り旅行など、楽しみや目標を見つけることは、ギャップシニアにとっての張り合いが大きい要素です。これを支えているのが、「鍵のかかるロッカー」があることです。介護事業所の多くは、トラブル防止のため現金や貴重品を持ってこないように決めているところが多いようですが、地域福祉交流センターでは、鍵がかかるロッカーを設置することで、移動販売車で買い物をしたり、併設の喫茶店でモーニングセットを食べたりすることが可能になります。
 日本総研の「全国パネルデータ」によると、「今日が何月何日かわからないことがある」人の割合は、アクティブシニアでは15%ですが、ギャップシニアでは34%に上ります。しかし、9割以上のギャップシニアは、請求書の支払いや預貯金の出し入れが自分でできており、金銭管理に慎重になって、できることを代わりに家族がやってしまうなどしてギャップシニア自身の役割を奪ってしまうことは、かえって自立を損なうことにつながりかねません。
 エムダブルエス日高の事業展開は、保険外サービスの提供によって、ギャップシニアの社会的役割を引き出したり、意欲向上につなげたりする取り組みになっているといえるでしょう。

(※1)日本総研では、介護保険における要支援1、2ならびに、二次予防事業対象者を、「ギャップシニア」として人数を推計し、統計的な分析を行っています。

<バックナンバー>

「第1回 ギャップシニアとはどんな人か」
「第2回 ギャップシニア市場を創造する」
「第3回 ギャップシニア市場は公民連携で拓ける」
「第4回 ギャップシニアの日常生活」
「第5回 ギャップシニアの消費行動」
「第6回 ギャップシニアへのアプローチ」
「第7回 ギャップシニア向け商品開発のコツ~キーワードは「日常」と「洞察」」
「第8回 ギャップシニアのニーズが見えてきた」


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。