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日本総研ニュースレター 2009年8月

農業を“ブーム”で終わらせない
~農業の6次産業化によるアプローチ~

2009年08月03日 三輪泰史


1.地域再生における農業の役割
 地方部においては、農業は生産額・雇用創出の両面において未だ重要な産業である。また、近年は地域再生の中核としての期待から、「農業ブーム」現象さえ起きている。しかし、農業セクター単独での生産額は小規模であり、生産物を単純に都市部に移出させるだけでは経済効果も限られる。ブームを機に農業を高収益産業に転換させるには、加工、流通、販売、観光等の異業種と連携し、フードチェーンの地域経済への内製化を図る必要がある。つまり、農業生産で終わらない、「第一次+二次+三次産業」で組み合わせた農業の「6次産業化」である。

2.「農業+観光」を突破口に
 食の安全等の観点から国産農産物への関心が高まるなか、農業体験に対するニーズも急増し、各地の体験農園・市民農園は活況を呈している。
 ただし、農業体験の大半は日帰りにとどまる。地域の経済効果を高めるためには、地域内に宿泊させる引き止め策が欠かせない。温泉等の観光資源に頼らずに、地域に泊まる必然性を作り出す効果的な方策として、(1)地域特性を活かした食事・酒の提供、(2)体験農園で収穫した農産物を、翌朝までにジャム・ジュース等に加工・お土産として提供することで時間ギャップを創出、(3)農業体験においてある程度の労働負荷を与え、入浴⇒食事⇒宿泊という行動を誘引、等を行うべきだろう。

3.「農産物を売る」モデルから「農産物による地域とのつながりを売る」モデルへ
 残念ながら、伸び悩む体験農園・観光農園も存在する。主な苦戦要因は、(1)定期的な時間拘束に対する不満、(2)汚れ、におい等による娯楽としての快適性欠如、の2点である。課題の解消のため、例えば日本総研が主催する次世代農業コンソーシアムでは、都市部住民が「農業」「農産物」「田舎」に対して期待する要素をワンストップでサービス提供可能な場(農業再生拠点)の構築を目指している。
 また、農業体験による観光が目指すべきは、家族層や中高年層を主対象とした、余暇利用型の農業アミューズメントサービスである。例えば、シャワー室等の快適性を保つ施設を整備することで、洗練された自然型の娯楽へと脱皮し、客単価向上を図ることが可能と考えられる。また、体験農園で収穫した農産物をそのまま持ち帰るのは、重量、容量、品質保持の面で不便だが、拠点内に加工施設やレストランを併設し、自ら収穫した農産物を加工・調理することで、顧客満足度向上につながる。

4.直売機能の統合
 体験農園で自ら栽培できる農産物は種類・量・時期ともに限られている。ビジネスの幅を広げ、顧客満足度を高めるためにも、体験農園を通して地域のファンとなった顧客には、体験農園で収穫した種類以外の農産物も販売したい。体験農園周辺の優良農家の農産物をインターネット販売することで、地域内の波及効果を創造できる。地の農産物に加え、調理法等の文化を伝えることで地域のファンを育て、リピート率を押し上げる戦略も各地で成功を収めている。
 都市部の顧客に農産物を直接届けたくても、小規模な農家は自前の集出荷施設を持たない。そこで、体験農園に集出荷施設を併設すれば、インターネット販売のハブとなるばかりでなく、都市部のレストランやアンテナショップへの集出荷も可能となる。

5.6次産業化の地域戦略への織り込み
 地域特産物や農業体験に対するニーズは、普段農業に接する機会に乏しい都市部住民に集中している。彼らを顧客とするには、一般的に都市部から近過ぎず遠過ぎない1時間から1時間半程度の時間距離が目安となる。つまり、近郊自治体においては、農業の6次産業化はヒトとカネを呼び込める、地域再生の有望な選択肢といえる。
 6次産業化で最も重要なのは、核となる農業の競争性・魅力向上である。ありきたりな農業では、観光や加工と連携しても共倒れの危険性が高い。地域再生は農業再生から始まる。あくまで6次産業化は農業再生を地域再生につなげるための戦略であることを忘れてはならない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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