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企業のための生物多様性Archives/
国内事例

株式会社ツムラ様
http://www.tsumura.co.jp/

コーポレート・コミュニケーション室 歌川 博幸 氏 / 本多 正幸 氏 / 犬飼 律子 氏
生薬本部 生薬研究部 武田 修己 氏


人間社会が生物多様性の恩恵に与っている代表例のひとつとして医薬品が挙げられます。合成薬の約半数は自然由来のものであり、アメリカにおける遺伝資源由来の薬の売り上げは1997年時点で約1500億米ドルに上るとも言われています。生物多様性との関係の深さを指摘されている医薬品業界の中でも、原料と直接の関係を意識して取組みを進めているツムラのお話を伺いました。

Q.漢方薬の原料である生薬の調達について重点的に取組んでいることは何でしょうか?

A.生薬の調達には野生品の採取と栽培の二つの方法があります。野生品の採取については絶滅危惧種の保全に配慮しています。具体的には、計画的に種を保存しながら採取し野生品を育てることに配慮したり、中国では中国の研究機関、医薬品メーカーと協力し、現地の多様性を確保しながら採取できないか、共同研究を実施したりしています。野生品は栽培品より成分の面で優れていることがあり、栽培が難しいものもあります。しかし、今では多くの生薬で栽培化が進んでおり、野生品の採取はかなり少なくなってきました。希少な種を栽培化することで、種の保全に貢献することができています。
栽培の前段階では生薬の自生地の調査と種の同定を行ってきた実績もあります。植物研究雑誌という国際学術誌を発行しており、漢方薬の基本となる生薬の遺伝子の把握には長年取組んできました。種の保全のため、把握された原生種、原生地については場所が簡単に特定されてしまわないよう十分配慮しています。

Q.栽培については、海外の品種を日本に持ち込むことに伴う外来種の問題や、農薬の環境負荷の問題が周辺生態系への影響として考えられます。

A.例えば栽培の試験において、繁殖力が強いものだと雑草化してしまう危険があります。そこで、試験が終われば徹底的に抜き、さらに土中に根が残らないように耕運機で根ごと砕くという処置を行っています。そのほかにも、実験圃場の植物の花粉が移動しないように間隔を空け、花の時期には花を摘み取るなどして、異なる種が交配しないように注意しています。
生薬は医薬品原料であり、農薬は使用量が最低限になるように配慮しています。農薬の適正使用を確認するため、どういう農薬を使っているのか調査を行い、トレーサビリティの確立に努めています。また、農薬は近隣の生物に影響するため、農薬が飛散しないように注意し、使う農薬の種類、使い方を規定し、管理を行っています。農薬の適正使用を推進するため、中国の産地会社の栽培指導者を実際に日本に呼んで生産方法を見てもらうという取組みも行っています。こうした栽培指導者に対する教育は現地での生物多様性保全につながっていくでしょう。

生産過程では、食品のように廃棄物が多く出てくると思われますが、どういった対策を行っていますか?

生産過程で排出される廃棄物は全て堆肥化しています。ツムラの廃棄物リサイクルで作られる肥料は放線菌を多く含んでおり、連作障害のある土地に使用すると地力を回復できるという特徴があります。肥料を実際に使っていただいているイチゴの生産農家の方にお会いすると、本当にきれいなイチゴができており、喜んで使っていただいています。

御社では社会貢献活動として高知県で「協働の森作り事業」という植林を行っています。御社が植林を行っている理由を教えてください。

「協働の森づくり事業」には二つの観点で取組んでいます。一つ目は、地元の農事組合法人であるヒューマンライフ土佐や栽培地域に対する恩返しです。ツムラはヒューマンライフ土佐と20年以上にわたって生薬栽培を通したお付き合いを続けてきましたが、十分に恩返しをできていないと考えました。そこで、その地域の環境を守るために取組みを始めたということです。二つ目は、生薬が自然の恵みであり環境が崩れると栽培できないので、その対策を行うという観点です。栽培地の近くの森を保全することは栽培エリアでの環境保全につながります。また、生薬を作る過程で大量の水を使いますので、周辺の森林を整備することは水資源の保全にもつながります。
森作りにあたっては樹種にも配慮しています。高知県の「協働の森づくり事業」の植林は基本的に針葉樹を用いていましたが、本来の山は広葉樹だとわかりました。そこで、ここでの森作りには広葉樹を含めた20種の樹種で植林を行います。当社にとって、こうした森作りに関する取組みは今回が初めてでしたが、今後は日本の栽培拠点に同様の取組みを広げ、栽培拠点周辺の環境保全活動を行っていきたいと考えています。 ツムラにとって、森作りだけでなく、トレーサビリティの確立や生薬の栽培化などの取組みは、事業の継続のために必要なことなのです。

(2009年1月)


ツムラの特徴

安全・安心な原料生薬の安定確保
ツムラでは「生薬トレーサビリティ体制」の確立が製品の安全と安心、そして、原料の安定生産につながるとしています。原料のチェックについては抜き取りではなく全ての製品で行っており、こうしたトレーサビリティの流れの中に生物多様性の保全も組み込まれています。