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企業のための生物多様性Archives/
国内事例

株式会社リコー様
http://www.ricoh.co.jp/
http://www.ricoh.co.jp/ecology/

社会環境本部 環境コミュニケーション推進室 岸 和幸 氏 / 伏見 聡子 氏
全ての企業は生物多様性に関係があるとされています。では、企業は具体的に何をすることが求められているのでしょうか。例えば、原材料に近い商品を扱っている企業ならば本業の中で生物多様性に与える影響を減らすこともできるでしょう。しかし、それ以外の業界ではどうなのでしょうか。今回は、原材料に直接関係を持たない電気機器業界の中で取組みを進めているリコーのお話を伺いました。

Q.様々な環境問題の取組みがリコーでは行われています。その中でも、生物多様性に取組む理由は何でしょうか?

A.地球は長い歴史の中で様々な生き物を育み、この生き物達の相互のつながりが豊かな包容力の元となって、人類の広範かつ活発な活動を支えてきました。しかし近年の人類活動は、地球の包容力を超え、多くの生き物との共存はおろか、自分たちの存続さえも危うくしています。人類活動の影響により生物多様性の喪失が進むことは、生態系サービスが劣化し人類社会が成り立たなくなることであり、地球の回復力を支える生物多様性の保全がなければ企業の存続はない、ということに通じると思います。
私たちリコーグループは「企業は社会の一員として社会に貢献する立場にある」という認識に立ち、グローバルな視点で環境経営を推進すると共に、それぞれの国や地域の経済の活性化や人材育成に貢献してきました。今後も環境経営を深化させていく上で「環境負荷の低減」と「生物多様性の保全」は持続可能な社会を創っていくために欠かせない活動の両輪と位置づけています。

Q.生物多様性とのつながりをどこで感じていますか?

A.多くの企業に当てはまると思いますが、リコーは事業に関わるサプライチェーンにおいて様々な資源を利用しています。資源の調達を確実なものにしているという意味で、生態系サービスは経済活動に大きな利益をもたらしている重要なものですね。
リコーの事業分野は二次産業であり、直接資源を採掘・採集ということは行っていませんが、調達した原料の生物多様性への影響を確認し、トレーサビリティを行い、持続可能な利用に努めていくことができると思います。
最近欧米では企業の生物多様性の取組みは、本業の中で行うべきことと言われてきているようです。確かに、本業での直接関係にある生態系サービスを無視して、社会貢献だけを行うのではNGOなどからグリーンウォッシュと言われかねません。但し、本業での取り組みだけでは生物多様性に対するマイナス影響が低くなるだけであり、生物多様性を直接回復させる社会貢献での取組みも必要です。本業と社会貢献の両面で進めていくことが大事だと思いますね。

Q.生物多様性から利益を得ているという認識をお持ちなのでしょうか?

A.「生態系サービスがあるからこそ事業を長期的に行うことができる」と考えれば、これほど大きな利益はないのですよね。この認識はこれから社会に徐々に広まっていくことと期待しています。生態系サービスを可視化していければ、その大事さがよく分かり、こぞって生物多様性保全に取り組むのではないでしょうか。
また、生物多様性に配慮した製品が顧客に高く評価され選んで買ってもらえるようになれば、企業業績に直結します。保全の取組みが市場から評価されれば、SRIに優良企業として組み込まれ、企業価値が上がります。
現在起きている金融危機でも、健全な企業、例えばGEやコカコーラの経営は成り立っています。優良企業が成り立つのは市場から高い評価をもらっているということですが、今後、持続可能な社会の中で優良企業には生物多様性保全は行って当たり前ということになっていくのではないでしょうか。

Q.生物多様性は温暖化と同様地球規模の問題です。一方、温暖化と違って多くの企業が一斉に取組むまでは至っていません。先行して取組みを進めることに限界を感じることはありませんか?

A.最近になって、生物多様性と人間社会や経済活動とのつながりを表す言葉として「生態系サービス」が各所で使われるようになり、生物多様性との距離が少し近くなってきたかなと感じています。温暖化対策がここ何年間かで全ての企業のやるべき活動と認識されるようになりましたが、生物多様性も持続可能な社会の重要な鍵であることがこれから認識されていくことでしょう。
これから生物多様性に対する社員の意識を上げていくことが大事だと思っています国内の意識と比例しているように思えますが、今後、内部への意識啓発と、外部への取組みの輪の拡大をさらに進めていこうと考えています。内部に対しては、環境部署だけでなく、設計、製造、販売、海外、間接部門など「全員参加」で取組んでいけるようにし、企業、行政、NGOなど外部の方たちと連携して、生物多様性の理解を一緒に深め行動していく。取組みの輪が拡がれば、きっと持続可能な社会が創られていくことでしょうね。

Q.NGOとの取組みということで「森林生態系保全プロジェクト」がありますが、こちらの取組みはどういった取組みにすることを目指していますか?

A.私たちは、地球環境の回復力を支えている生物多様性の保全の具体的な活動として「森林生態系保全プロジェクト」を推進しています。世界の森林の現状を見た場合、まずは今ある原生林・天然林をどれだけ多く残せるかが重要です。その上で、減少している森林を回復していくことも大事なことです。絶滅の危機にある動植物が生息するのは大半が途上国にあり、プロジェクトを成功させるには現地コミュニティとの関係がとても重要であり、現在パートナーを組んでいるNGOの方たちはそのことをよく理解しています。どのプロジェクトにおいてもNGOと密にコミュニケーションをとり、長期目標とロードマップの作成、地域住民や行政を巻き込んだ役割分担を実現しています。
プロジェクトのゴールは、現地で持続可能な森林生態系保全の枠組みを作ることです。しかし、途上国の地域住民の自然環境に対する意識は、先進国の意識とは異なっているので、各プロジェクト毎に現地サイトの地域特性を配慮しながら、地域住民の参画による森林保全の両立と生活の安定の仕組みづくりを進めるようにしています。森林利用を社会学的な視点も含めての調査、現地とのコミュニケーションの重視、森林利用の代替手段による収入の安定を考えるなどして、「立ち上げ→、協働→、自立」の段階を一歩ずつ上げるようにして取組んでいます。

Q.NGOとの協働で重視していることは何でしょうか?

A.企業からNGOに求めているものは、「熱意」と「地域を巻き込む力」だと思います。企業側も生物多様性の保全に対する意思をしっかり持ち、NGOに丸投げしないようにすることも重要です。互いに良好なコミュニケーションをとって、きちんとPDCAを回していくことで好循環なものにしていくことができます。プロジェクト成果の明確化や理念だけでなく、途中の経過状況の把握も重要です。企業の中には、NGOとの協働を行う前に構えてしまうこともあると思いますが、プロジェクトを通して様々なやりとりを繰り返すうちにしっかりとした信頼関係が築けてくるものだと思います。

Q.生物多様性について、今後進めていきたいことはありますか?

A.社員を巻き込む仕掛けを考えていきたいと思っています。リコーの社員は国内だけで3万人以上、世界で8万人います。社員が変わることで、社外にも輪を広げ、日本や世界の変化のきっかけとなっていきたいと思います。自然の懐の深さを知り、その上に人間社会が成り立っているという気づきは、ライフサイクルを支えているという意味で、製造や環境の部署に限らず人事や総務といった部署も含めた全社で共有できるものでしょう。これをわからなければいけない、というようなレールは敷かず、個人がそれぞれで気づきをもてるような環境を作っていこうと考えています。

(2008年12月)


リコーの特徴

Three Ps Balance
リコーの環境保全の取り組みは、長期的な目標からバックキャスティング方式によって設定されており、目指すべき地球環境と社会との関係をThree Ps Balanceとして説明しています。
http://www.ricoh.co.jp/ecology/management/earth.html

森林生態系保全プロジェクト
リコーは、生態系の中でもとりわけ生物多様性が豊かな「森林生態系」に注目して、1999年度から環境NPOや地域とのパートナーシップを通した保全活動を実施しています。土地固有の生物種の生息域や住民生活を守ることを主眼として、外部からの支援がなくなっても持続的に保全され続ける枠組みを作るという明確なゴールを持って取組んでいます。(2008年現在世界8ヶ所で実施)
http://www.ricoh.co.jp/ecology/society/conservation.html