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企業のための生物多様性Archives/
国内事例

清水建設株式会社様
http://www.shimz.co.jp/

環境・エネルギーソリューション部 生態系グループ
グループ長 小田 信治 氏 / 小松 裕幸 氏氏


これまで建設業界はダムや道路の建設を通して生態系を破壊する存在として認識されてきたのではないでしょうか。実際に自然保護団体や地域住民の反対を受けた例も見受けられます。その一方で、現在、建設会社各社は環境関連の技術で鎬を削っています。近年増えつつある社会貢献活動の一環としての屋上緑化やビオトープといった事業、これらに使われる技術は建設業界の中で進化してきました。

建設業界の中でなにが変わってきているのか、自社の中に「生態系グループ」という部署を持つ清水建設にお話を伺いました。

Q.生物多様性と建設業の関係についてどのようにお考えでしょうか?

A.建設業界は最も生物多様性に近い産業だといえます。まず強調しておきたいことは、建設会社というものは請負だということ。顧客のニーズにこたえ、ダムの建設やリゾート開発を行ってきたのです。バブルまでの建設業界は一言で言って開発型だったと言えます。そして、開発する側として最前線で生物多様性と関わってきました。
しかし、今では顧客が開発をどんどん進めることを望まなくなっています。それどころか、工場にビオトープを作ったり、屋上緑化をやったり、緑で企業のイメージを高めようという動きがみられます。CO2は見えにくいけれど緑は見えやすいというところもあるのかもしれません。顧客にとって生態系は、開発計画の邪魔者から企業のイメージアップや社員のレクリエーションのための重点項目と変わってきていると感じています。

Q.「生態系グループ」とは御社の中でどのような位置づけにあるのでしょうか?

これまでの生態系に対する考え方として、開発の負の側面をいかに小さくするかということがありました。環境アセスメントはその典型でしょう。しかし、そういった生態系に対する守りの戦略だけではなく、攻めの戦略として位置づけているのが「生態系グループ」なのです。当グループは技術ソリューション本部 環境・エネルギーソリューション部にあり、設計段階でのビオトープや屋上緑化の提案から工事中における希少生物の保護対策、食品工場での防虫対策診断まで、幅広く生き物に係わる業務を行っています。
この部署で特徴的なこととして、ただ生態系の保全を考えるだけでなく、顧客にとっての生態系のリスクというものをきちんと考慮しているということがあります。本来生態系というものは人間にとってプラスの面ばかりではないのです。例えば食品工場や製薬工場などでは昆虫の混入リスクがあり、無計画な屋上緑化などはこうした生態系のリスクを増すことになります。どのような生態系のリスクがあるかは地域の調査・分析の過程で分かってくるもので、同時に地域の生物の保全も考えることができます。生態系の保全と生態系のリスク、どちらも顧客にとって考えなければいけないことですし、どちらかだけではいけないと考えています。

Q.具体的な技術として、屋上緑化やビオトープというもののニーズが高まってきたように思えますが、どのように考えていますか?

A.建物に関して、緑化技術のニーズは確かにあると感じています。例えば東京都などでは10年間で1,000haの緑を作るという計画を出しています。これだけの規模の緑化をしようとなると、緑化のやりやすい場所だけでなく、いろいろな場所を緑化できる技術のニーズが高まるでしょう。ただ、周囲の生態系に配慮した植生が重要であることは当社も認識しており、生態系の連続性を考慮したサービスを提供できるようにしています。
ビオトープは10年以上前に導入され始めた概念なのですが、今では工場や学校などで広く普及されるようになりました。しかし、ビオトープには人の手による維持管理が必要だということがあまり理解されていないのではないか、とも感じています。多くのビオトープはせっかく作っても放置されてしまっています。しかし、人の作ったビオトープの生物多様性を維持するためには人の手が必要なのです。人の住むそばに作る緑ということでは雑木林のような二次的自然と呼ばれるもののニーズが高い。こういった自然には、極相林と違って人の手が欠かせません。

Q.今後、建設業界は生物多様性にどのような姿勢で関わっていくのでしょうか?

A.私自身、開発の計画を担当していた時期がありました。その後、環境アセスメントを担当する機会があり、実際に調査を行って自分が自然や生態系のことを何も知らずに開発計画を行ってきたことに気づきました。もし計画を作っていたときに自然環境についての情報があれば、もっと違った計画ができたという思いがあります。生態系に配慮するためには、開発計画の早い段階で、環境調査を行う側と設計を行う側が情報を共有しながら計画を進めることが必要です。
土木では洪水など大自然の脅威への挑戦と克服が目標でした。立派なダムや護岸を作ることが社会の福祉に役立つことであり、土木の使命だと信じてやってきました。それが近年、オオタカ等の希少生物の問題にみられるように生態系配慮が強く求められ、また、社会資本整備縮小の中で、大きな方向転換を迫られています。建築では、都市のヒートアイランド緩和や生態系配慮から、建物に屋上緑化や壁面緑化が求められるようになってきています。生物多様性の保全が社会で認識されてきた結果だと思います。
建設業が培ってきた技術と経験は、今後、失われた自然を取り戻すための自然再生事業や都市の環境を改善するための都市再生事業等においてなくてはならないものです。生物多様性の保全を進めて行く上で、生物多様性に近い産業としてその役割を認識し、社会の要請に応えていくことが、建設業の使命だと思います。

(2007年11月)


清水建設の特徴

グリーンコード
建物の総合評価において、日本の公的な環境評価基準であるCASBEEに独自の評価項目を加え、「高性能で付加価値の高い建物」を客観的な指標で表しています。同社独自の評価項目は6つあり、その中のひとつに「生態系配慮」という項目があります。
http://www.shimz.co.jp/tokusyu/greencode/

環境関連表彰
屋上ビオトープの整備及びモニタリングによって、小動物の生息環境の創出等の効果を実証し、都市型屋上ビオトープの推進に貢献したとして、2005年に「みどりの日」自然環境功労者表彰環境大臣表彰を受賞している。
【持続可能性報告書】
http://www.shimz.co.jp/environment/data.html