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企業のための生物多様性Archives/
国内事例

コンサベーション・インターナショナル様
http://www.conservation.or.jp/

日本プログラム  代表 日比 保史 氏

企業が生物多様性の保全に取組む上で障壁となるのは、何をすればいいのか分からない、そもそも自社のビジネスが生物多様性とどのように関わっているのか分からない、ということがあります。こうした問題に対処する方法のひとつとしてNGOとの協働が挙げられていますが、NGOにはどのようなことが期待でき、企業は何を期待されているのでしょうか。

生物多様性の保全に取組む国際的なNGOで、企業との連携の歴史も長いコンサベーション・インターナショナルにお話を伺いました。

Q.コンサベーション・インターナショナルの活動について教えてください。

A.コンサベーション・インターナショナル(以下、CI)は、科学に軸足を置き、人間の福祉との共生を目指しつつ、政府や企業、コミュニティとのパートナーシップを通して、生物多様性の持続的な保全に取組む国際NGOです。特に力を入れているのは、ただ環境を守るということではなく、人間社会と自然の調和をめざして具体的な取組みを実践するということです。1987年にアメリカ・ワシントンDCに創立され、日本に事務所を開設したのは89年です。当時のNGOは、企業や政府と敵対するケースがほとんどでしたが、CIは設立当初から企業や政府と協力してやっていくことを掲げてきました。
企業と協働して行った活動としては、例えばカーボンオフセットは5,6年前から取組んでいますし、保全のためのお金の流れを作ることを目的として環境債務スワップというものにも87年に取組んだ実績があります。また、企業のサプライチェーンにおける生物多様性への影響緩和に協力したり、企業と共同で森林保全事業なども展開しています。

Q.保全活動するにあたって特に重点を置いている地域はありますか?

A.実際の活動はホットスポット戦略に則って行っています。その中でも、国際的なNGOということで、特に重点を置いているのは発展途上国における生物多様性の保全です。生物多様性ホットスポットは、地球規模でみた生物多様性が非常に豊かでありながら破壊の危機に瀕している地域で、特に途上国のホットスポットは、危機的な状況にあります。現在の途上国における生物多様性の危機は、グローバリゼーションの影響も大きく、日本は決して無関係とはいえない。たとえばフィリピンではこの100年で原生林が3分の1になっており、ここでは日本も大きく関わっています。

Q.では原材料調達で直接関わる産業だけが関わっているのでしょうか?

A.現在、CSRの中でサプライチェーン全体の責任が問われているということがあります。生態系サービスによって安定供給されている原材料や空気、水などに産業は深く関わっています。企業活動がどれくらい影響しているのかをCO2のように数値で分からないというところに難しさもありますが、ただ汚染物質をどれだけ減らしたということではなく、そうした活動にもかかわらず環境に影響を与えている状況を把握し、さらになにができるかということが求められているのです。また、原材料調達で直接関わる産業でなくても、生物多様性は生態系サービスの提供を通して、地球規模で経済や産業の基盤を支えているともいえ、全く無関係な産業や企業はないといえます。
CIでは環境負荷を削減するためにサプライチェーンの中でどのような問題があるかを複数企業で研究し、ガイドラインを作成するといったことなどもしています。また、最近日本企業の間で関心の高いCSR植林や植林CDMプロジェクトにおいても、ただ植林するだけではなく、地域生態系や地元コミュニティの持続可能性を十分考慮して行っています。

Q.CIで行っている植林について詳しく教えてください。

A.今のところ日本では社会貢献として生物多様性に関わっている企業が多く、CIに植林についてのお問い合わせもいただいています。ただ、企業活動の観点からは本来ならやらなくてもいいかもしれないことに取組むのですから、しっかりとした理由がないと長期的な活動にならないと感じています。生物多様性や地域コミュニティの貢献を考慮した植林となると、準備と植林後の管理に数年ずつかかります。そこを理解せずにただ数を植えることを目的としてしまうと単一種の植林になったり意味の無い地域での植林になったり、あるいは地元コミュニティの十分な理解や参画がなかったりしてしまいます。
また、特に日本企業は木を植えるという行為への関心が非常に高いのですが、一方で原生林の消失が世界的に続いている状況には、あまり関心を持ってもらえません。CIでは森林生態系を利用するコミュニティとともに、残された原生林をつなげ、コリドー(緑の回廊)を再生し保全していくための植林をしつつ、一部で換金作物を植え、守られた森林をCO2クレジットにするといった取組もしています。ただの植林ではなく森林再生・保全、そしてコミュニティの持続可能な開発につなげていこうということです。企業には、「植林さえすれば地球環境に貢献する」というまさに「木を見て森を見ず」的な考え方は見直していただき、より意味のある森林再生・保全に取組んでもらいたいと思います。

Q.日本の企業が生物多様性に関わる上でどういったことに注意すべきでしょうか?

A.まず問題を正確に理解することです。生物多様性は生き物だけの話ではなく産業社会全体に関わりが深いものです。サプライチェーンの中でどのような関係があるのか理解して評価する。その上で何をすべきか位置づけ、長期的な戦略を作るべきです。サプライチェーンの中で直接関わらない場合でも、地球規模の生物多様性から受ける多様な恩恵について理解しておく必要があります。会社の事業や産業の構造にあわせて、バランスをとって行うことの必要性を理解して実施すれば間違えることはないと思います。そうしたときに、生物多様性についての正確な理解などは社内だけでやることは難しいということがあり、だからこそNGOも含めた専門性を持つ団体、個人との協働が重要なのです。

(2007年11月)


コンサベーション・インターナショナルの特徴

生物多様性ホットスポットの特定
地球規模で生物多様性が高い一方、破壊の危険が高い地域を特定したもの。2004年の再評価を経て、現在世界中で34ヵ所が特定されている。日本もホットスポットのひとつである。
http://www.conservation.or.jp/Strategies/Hotspot.htm

企業との協働事例
ホットスポットや原生森林地域でのプログラムにおいて、環境保全のパートナーとして世界中の大手企業との協働事例があります。
http://www.conservation.or.jp/partners/CorporatePartners.htm