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【トピックス】
前年を上回る成長率となる2013年のアジア

2012年12月04日 向山英彦


2013年のアジア経済は内外需の持ち直しにより、2012年をやや上回る成長になるものと予想される。中国は8%台、インドは6%台の成長となろう。

1.2012年のアジア経済
韓国や台湾などでは内外需の減速により景気が悪化した一方、ASEAN諸国では内需の拡大に支えられて安定成長が続いている。中国では景気対策の実施に伴い持ち直しの動きがみられる。

(1)低下した成長率
アジア経済はリーマンショック後の景気の落ち込みから急回復した後、総じて安定成長を続けてきたが、2011年後半以降世界経済の減速に伴い景気が減速してきた。
減速が顕著なのはNIEsで、実質GDP 成長率がシンガポールで2010年の14.8%から2011年に4.9%、台湾で10.7%から4.0%、韓国で6.3%から3.6%へ低下した。2012年7~9月期の同成長率(前年同期比、以下同じ)は韓国1.6%、台湾1.0%、シンガポール0.3%にとどまった。
輸出依存度が高いため、世界経済の減速に伴い輸出の伸びが低下するとともに、設備投資が落ち込んだことによる。また台湾では中国・香港向けが全体の約4割、韓国では対中輸出依存度が25%程度を占めるため、中国の成長減速の影響を強く受けた。
輸出(通関ベース)の動きをみると、2011年秋口以降増勢が鈍化し、2012年に入ると、前年水準を下回るようになった(足元では持ち直し)。生産分業ネットワークがアジア域内に広がった結果、一国の輸出減少によりアジア域内貿易が減少し、それがまた各国の輸出を減少させた。
輸出と設備投資に加えて、韓国や台湾では民間消費の増勢が弱まったことも、景気の減速度合を強めた。韓国では家計債務の増加に伴う債務返済負担の増大や政府による債務抑制策の実施などが、台湾では実質賃金上昇率の低下、株価の低迷、雇用環境の悪化などが消費にマイナスに作用している。
他方、ASEAN諸国では輸出の落ち込みを内需がカバーすることにより、安定した成長を続けている。インドネシアでは2012年7~9月期に輸出が▲2.8%となったが、民間消費5.7%増、総固定資本形成10.0%増と堅調に推移し、実質GDP成長率は6.2%となった。マレーシアでも輸出が▲3.0%となったが、民間消費が8.5%増、総固定資本形成が22.7%増と著しく伸びたため、5.2%を記録した。
タイは洪水の影響により景気が一時的に落ち込んだ。その後ほぼ順調に回復してきたが、2012年7~9月期の実質GDP成長率は4~6月期の4.4%を下回る3.0%となった。消費が堅調に推移したほか、復興需要に支えられて投資も高い伸びとなったが、輸出の減速が響いた。
中国では投資の過熱抑制を目的に金融引き締め策を強化した影響に加えて、欧州(最大の輸出相手先)向け輸出が著しく減少したことにより、実質GDP成長率が1~3月期8.1%、4~6月期7.6%、7~9月期7.4%へ低下した。ただし景気減速への懸念が強まり、政府が景気対策に乗り出したため、9月、10月の主要月次統計は改善している。特に、GDPの5割を占める固定資産投資に底入れの兆しがみられる(詳細は「中国」を参照)。
またインドでも内外需の減速により、成長率が1~3月期、4~6月期に5%台と、近年では低い成長率となっている。内需の減速には、インフレの抑制を目的に、2011年に相次いで利上げが実施されたことが影響している。

(2)内需の増勢は二極化
前述したように、NIEsでは内外需がともに減速しているのに対して、ASEAN諸国では内需の拡大が成長を支えているのが特徴的である。
民間消費の動きをみると、マレーシアとインドネシアでは高い伸びが続いている。タイでは洪水の影響により、一時的に著しく落ち込んだものの、政府の景気対策(とくに自動車購入に対する減税)もあり、消費は回復基調にある。
消費が好調に推移している要因には、①インフレの抑制、②低金利の継続、③成長持続に伴う所得の増加などが指摘できる。所得の増加には一次産品価格が高止まりしている効果もある。現在、天然ゴムの生産上位国はインドネシア、タイ、マレーシアで、オイルパームに関してはインドネシアとマレーシアで世界全体の8割以上を占めている。インドネシアはほかに天然ガス、石炭などの鉱物資源にも恵まれている。
一次産品価格の上昇は農村部の所得を増加させて消費を拡大させているだけではなく、消費の拡大が耐久消費財の生産拡大と小売業の農村部への進出などにつながっている。
また、消費が拡大している一因に「中間層」の増加がある。従来の都市部に加えて、農村部の購買力が上昇したため、自動車や携帯電話を購入できる層が増加している。こうした動きはアジアのいたるところでみられる。
固定資本形成もASEAN諸国では比較的高い伸びが続いている。内外需の増加を背景に企業の設備投資が拡大しているほか、地域開発や国をまたぐ広域開発、輸送網の整備などが進められており、こうしたインフラ投資が固定資本形成の増加につながっている。中国とインドでは高い伸びが続いているものの、増勢は鈍化している(「中国」と「インド」を参照)。
NIEsをみると、台湾では輸出生産の鈍化の影響を受けて設備投資にブレーキがかかり、2011年7~9月期以降4期連続で固定資本形成は前年同期比マイナスとなっている。韓国でも2012年4~6月期、7~9月期と2期連続でマイナスとなった。

(3)金融は緩和
景気回復に伴う需要の拡大と一次産品価格の高騰により、多くの国で2009年半ば以降インフレが加速した。食料品や交通運賃などの上昇は都市部低所得層の生活に打撃を与えるため、2011年入り後、各国ではインフレ抑制が図られ、公共料金の据え置き、食糧の緊急輸入などが実施されたほか、政策金利が相次いで引き上げられた。
これらにより消費者物価上昇率は2011年半ば以降、一部を除き、総じて抑制傾向にある。その一方、景気が減速したため、同年秋口以降金融緩和の動きが広がっている。インドネシアでは景気減速に対する予防目的で、2011年10月、11月に続き、2012年2月に利下げが実施された。タイでは洪水の影響により落ち込んだ景気を回復させる目的で、2011年11月、2012年1月に利下げが行われた。その後、内需の刺激を図る目的で、10月に追加利下げが実施された。
インドと中国ではインフレへの警戒感の強さから春先まで預金準備率の引き下げにとどまっていたが、4月にインド、6月、7月に中国で利下げが実施された。景気減速への懸念が強まったことが背景にある。ただしインドではインフレ率が依然として高止まりしているため、追加利下げは見送られている。さらに韓国でもインフレの抑制と景気の悪化を受けて、7月、10月に利下げを実施した。

2.2013年のアジア経済
2013年は内外需の持ち直しにより、ほとんどの国で2012年を上回る成長率となる見通しである。中国は政府の景気対策に支えられて8.2%の成長になるものと予想される。

(1)2012年をやや上回る成長に
2013年の成長率が2012年を上回るのは、世界経済の緩やかな回復とくに中国の成長加速により、輸出の持ち直しが期待されることである。ただし、欧州の景気冷え込みが続くほか、新興国経済が以前ほどの高成長にならないため、やや勢いを欠く展開となろう。
内需に関しても、一部の国・地域を除き、総じて拡大していく可能性が高い。①所得の上昇と中間層の増加を背景に消費の拡大が続くこと、②アジア地域の経済統合(後述)と高成長への期待を背景に、国内外企業による投資が増加すること、③不足するインフラの整備を目的にしたプロジェクトが進展すること、④金融緩和や公共投資の増額など景気対策効果が表れること、などがその理由である。
韓国、台湾、香港などでは3%台、ASEAN諸国では4~6%台の成長となろう。中国は政府の景気対策や内陸部の成長加速、輸出の持ち直しなどに支えられて8.2%となるほか、インドは6.5%、ベトナムは5.3%の成長になるものと予想される。インドではインフレ率が高止まりし、ベトナムでは再び加速しているため、引き続き難しい政策運営が迫られる。
 
(2)2013年の注目点
2013年のアジアで注目したいのは以下の3点である。
第1は、韓国の新政権下での経済政策である。2012年12月19日に大統領選挙が実施される。各候補者は従来の財閥主導の成長が国民の生活向上に十分に寄与しなかった点を踏まえて、福祉の充実と「経済民主化」(財閥規制、大企業と中小企業の共生など)をアピールしているが、ポピュリズムにもとづいた政策や行き過ぎた「経済民主化」が実施されれば、経済の活力を損なう恐れがある。若年層の雇用創出と福祉の充実は喫緊の課題といえるが、経済成長がビジネスチャンスを作り出すと同時に、福祉を支える財源を生み出すことを考えれば、「雇用を伴う成長」が追求されるべきである。新たな成長モデルを築けるかが問われよう。
第2は、習近平政権下の中国の行方である。2012年11月の共産党大会において、王岐山副首相の中央規律検査委員会書記への転出や周小川中国人民銀行行長(中央銀行総裁)の中央委員からの退任などが決まった。これに伴い、2013年春の全国人民代表大会では重要経済閣僚の大幅な交代が確実視される。
円滑に引き継ぎを完了させ、政治体制を安定化させることが課題となろう。経済面では、景気の回復を図る一方、格差の是正、消費主導型の成長方式への転換、産業高度化など中長期的な課題解決に向けた政策の推進が課題となる。
第3は、アジア地域における経済統合に向けた動きである。アジアでは地域包括的経済連携(RCEP)の実現に向けた取り組みが始まった。ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの16カ国が参加する。GDPの合計が約20兆ドルと世界の3割、人口は34億人で世界の半分を占める。2013年に交渉を開始し、2015年末までに交渉を妥結させる計画である。
アジアでは貿易と投資を通じて、実体経済面における相互依存関係が形成されてきた。制度面ではこれまで、①ASEAN域内の経済統合(2015年に「経済共同体」の実現)、②ASEANと域外国(中国、韓国、日本、インドなど)との経済連携協定締結、③二国間の経済連携協定締結という形で進んできた。RCEPが実現すれば、アジア域内の貿易・投資の一層の拡大、サプライチェーンの深化などが期待される。実際、日本からASEAN向けの直接投資が2011年に著しく増加した。将来の経済統合への期待と中国リスクへの対応などが背景にあると考えられる。
こうした一方、経済統合に向けた課題も少なくない。一つは、域内の格差是正である。「貧困削減を伴う成長」をいかに実現するか、市場開放を段階的に進めながら、いかに産業を育成するのかなどは発展段階の遅れた国にとって大きな課題となる。インフラ整備、人材育成、制度設計などの分野で、発展の進んだ国からの支援が必要である。
もう一つは、日本、韓国、中国の連携である。アジアの経済統合がASEANを中心に進むなかで、日中韓3カ国間のFTA交渉の取り組みは最近まで進展がみられなかったが、韓国と中国のFTA交渉が2012年5月に開始され、3カ国間のFTA交渉が2013年より開始する予定である。政府間関係の悪化に加えて、農業や自動車などのセンシティブな分野で各国政府がどのような姿勢を示すのか、先行き不透明さが残る。しかし、2013年はいずれの国においても政権が変わるため、関係を再構築するスタートと位置づけられる。3カ国間のFTA交渉が進展すれば、アジア全体の経済統合に向けて大きな前進となろう。
日本政府には貿易、投資、人の移動の自由化を進めるとともに、域内格差の是正、金融、エネルギー・資源、環境などの分野で、アジア各国と重層的な協力関係を構築することが求められる。

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