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アジア・マンスリー 2010年12月号

【トピックス】
比較的高い成長となる2011年のアジア経済

2010年12月01日 調査部環太平洋戦略研究センター


2011年のアジア経済は先進国経済の成長率低下の影響を受けるものの、アジアを含む新興国の需要拡大に支えられて比較的高い成長になるものと予想される。中国とインドは8%台後半の成長となろう。

1.2010年のアジア経済
アジア経済は内外需の拡大に支えられて、2010年上期は極めて高い成長となった。足元で回復力が低下しているものの、上期の高成長により通年では近年にない高成長となる見込みである。

■高成長から安定成長へ
(1)上期は極めて高い成長に
実質GDP成長率(前年同期比、以下同じ)が中国、シンガポール、台湾では2010年1~3月期、4~6月期に二期連続で、タイとマレーシアでは1~3月期に2桁となった。韓国でも1~3月期8.1%、4~6月期7.2%の高成長を記録した。

極めて高い成長率になったのは前年同期の成長率が大幅なマイナスであったことが大きいものの、輸出の急回復が高成長をもたらしたといえる。韓国の1~9月における成長(前年同期比6.5%)への寄与度をみると、輸出が6.3%(輸入は▲7.0%)、総資本形成4.7%、民間消費2.4%となったように、これまでの回復は輸出に大きく依存したものである。

各国の輸出(通関ベース)の推移をみると、2010年1~3月期、4~6月期に軒並み前年同期比30%を超える高い伸びとなった(右下図)。この要因としては、①景気対策に支えられて先進国の景気が上向いたこと、②アジアを含む新興国で「中間層」の台頭を背景に消費の拡大が続いたこと(後述)、③アジア域内で貿易の自由化が進んでいること(中国とASEAN間およびASEAN域内における関税撤廃により、2010年1月に約19億人の人口を有する中国・ASEAN自由貿易圏が形成されたほか、ASEAN・インド間でも関税引き下げが開始された)、④中国で成長が加速したことなどである。中国は「世界の工場」としての役割に加え、近年では「世界の市場」としての役割も担い始めた。このため生産の拡大に伴い、アジア諸国から部品、原材料、機械などが、消費の拡大に伴い最終財や現地生産向け中間財の輸出が増加する。例えば、中国で「家電下郷プロジェクト」が実施されたことにより、韓国と台湾では中国で生産される薄型テレビやパソコン向けの液晶パネル、電子部品の輸出が急増した。

ただし、これまでの急回復の反動と世界経済の減速などを受けて、輸出の増勢は最近になり低下していることに注意したい。

高成長をもたらしたもう一つの原動力は内需の拡大である。固定資本形成に関してはまず、輸出の急速な持ち直しに伴う設備投資の回復がある。台湾では2008年、2009年に民間固定資本形成が前年比で2桁減となったこともあり、2010年1~3月期、4~6月期には30%を超える高い伸びとなった。つぎに、インフラ投資である。インドでは、物流網の整備を目的にした幹線道路の建設、港湾能力の拡充、各港湾と主要工業団地を結ぶ道路網の整備などが進められている。さらに消費の拡大に誘発された投資がある。インドネシアでは近年消費が急拡大しており、ショッピングセンターの建設、通信関係の設備投資、自動車メーカーによる増産投資などが相次いでいる。内需が底堅く推移しているため、同国では安定した成長が続いている。

消費の拡大も内需の拡大につながっている。アジアの自動車市場は近年、中国とインドを中心に急拡大しているが、ASEAN諸国でも順調に拡大ないし回復している。2010年1~9月の自動車販売台数はインドネシアで前年同期比(以下同じ)64.8%増、タイで51.8%増となり、中国の伸び率(36%増)を上回った。また、自動車買換え減税が2009年末に終了した韓国と台湾ではその反動効果が懸念されたが、最近まで比較的堅調に推移している。

こうした消費の拡大を支えている要因の第1は政策効果である。リーマンショック後、多くの国・地域において減税(所得税や付加価値税率の引き下げ、「エコカー減税」など)、公務員給与や最低賃金の引き上げなどの消費刺激策が講じられ、その一部は2010年も継続された。とくに中国では成長持続を目標に2010年にも消費刺激策が追加された(右中表)。
第2は金融緩和効果である。景気回復の進展により、2010年入り後、多くの国で「出口戦略」が採られ始め、利上げが実施されている。インドでは需要面からのインフレ圧力が強いこともあり、これまで政策金利が6回引き上げられた。ただし多くの国では依然として金融緩和基調が続いており、金利は低水準である。

第3は所得・雇用環境の改善である。韓国では1~9月の実質国内総所得(GDI)の伸び(前年同期比)が6.5%増となり、消費の拡大を支えた。台湾では失業率(季調済)が2009年9月の6.09%から2010年9月には5.08%へ低下しているほか、タイやマレーシアでは失業率が低下し、一部で人手不足が生じている(「タイ」、「マレーシア」を参照)。

第4は、物価の安定である。一部の国では足元においてインフレ圧力が強まっているが、総じて物価上昇は一定の範囲内に収まっている。インドネシアでは消費者物価上昇率が2008年に2桁となったが、2009年に入って以降1桁へ低下した。所得の増加と金利の低下などと相俟って、消費の拡大を支えている。

さらに、次にみるように、これまでの成長持続に伴い所得水準が上昇し、「中間層」が増加していることも消費の拡大を支えていると考えられる。

(2)アジアの成長を支える新興国と「中間層」の台頭
最近の輸出動向にみられる特徴の一つは、アジアとそれ以外の新興国向け輸出が高い伸びを続けていることである。このことは、アジア各国の成長がこれまで以上に、アジア域内ならびに新興国の需要に依存し始めていることを示唆している。

韓国の2000年代の輸出先構成をみると、欧米のシェアが低下する一方、アジアを含む新興国向けのシェアが上昇していること、さらに最近では中国以外の新興国のシェアが上昇していることがうかがえる(右上図)。これには、韓国企業が積極的に新興国の市場開拓を進めていることが関係している。興味深いことに同様の傾向は中国の輸出動向からも確認できる。韓国とは異なり、この10年間で欧米のシェアはさほど変化していないが、ASEAN諸国、BRI(ブラジル、ロシア、インド)、アフリカなど新興国向けのシェアが上昇している(右下図)。このように、アジアを含む新興国向けの輸出が拡大している背景には、成長の持続に伴い「中間層」が増加したことが考えられる。

ただし、「中間層」をどう定義するかは定まっていない。例えば、アジア開発銀行は「Key Indicators 2010」において、1日当たり支出額(2005年購買力平価基準)が2~20ドルという基準を用いて、2008年現在、ADB加盟の途上国総人口の56%に相当する19億人が、中国では8億1,700万人が「中間層」に含まれるとしている。この数字は明らかに多すぎる。基準を4ドル以上にすれば、中国の「中間層」の規模は3.7億人となる。他方、経済産業省の『通商白書(2009年版)』は、年間の世帯可処分所得5,000~35,000ドル未満という基準に従って、2008年現在、アジア全体で中間層は8.8億人(90年比6.2倍)に達したとみている。その内訳は、中国(4.4億人)、インド(2.1億人)、ASEAN5(1.9億人)、NIEs (0.4億人)である。『通商白書(2010年版)』では中間層は2000年の2.2億人から2010年には9.4億人へ拡大し、2020年に20億人(中国9.7億人、インド6.2億人、その他4.1億人)へ増加すると予測している。

「中間層」の増加と関連して、最近注目されるのは、中国内陸部の成長加速を受けて、内陸部への外資系企業の進出が増加していることである。スーパーや自動車販売店の進出が増加しているほか、内陸部に工場を建設する動きが拡大している。内陸部での①インフラ整備、②所得水準の上昇、③投資優遇措置に加えて、沿海部における賃金の急上昇が生産拠点の内陸部へのシフトを促している。とくに最近では、台湾系企業が相次いで四川省や重慶市などに工場を建設している(右上表)。生産コストの削減とともに、内陸部で拡大する需要を取り込む目的と考えられる。

2.2011年のアジア経済
■比較的高い成長となる2011年
2010年上期は高成長となったアジア経済であるが、足元では回復力が低下している。7~9月期の実質GDP成長率がシンガポールで前期比(以下同じ)マイナスに転じ、韓国では0.7%(4~6月期は1.4%)、台湾では0.02%(同0.48%)へ低下した。中国でも前年同期比9.6%へ低下した。

2011年は先進国経済の成長率低下(米国が1.9%、EU1.1%)の影響を受けるものの、アジアを含む新興国向け輸出が安定的に伸びること、消費が堅調に推移することにより、総じて比較的高い成長になるものと予想される。中国とインドは8%台後半の成長となろう。

NIEsでは、韓国と台湾が4%台の成長になるものと予想される。成長率が低下するのは輸出と固定資本形成の伸びが低下することによる。ただし、韓国と台湾にとって最大の輸出相手国である中国では8%台の成長が予想されること、新興国では耐久消費財に対する需要が引き続き拡大することなどにより、輸出の著しい減速は回避されるであろう。他方、消費は安定的な伸びが予想される。韓国では所得・雇用環境の改善ペースの低下と消費者物価の上昇の影響により、2010年を下回る伸びとなろうが、物価上昇は一時的であり、また金利は引き続き低水準で推移する可能性が高いため、3%台の伸びになるであろう。台湾でも2%台半ばの伸びを維持するものと予想される。

香港では内外需の増勢鈍化、とくに先進国経済の減速に伴って予想される中国の加工貿易の伸び悩みにより、2.4%の成長にとどまるであろう。

ASEANのタイ、マレーシア、フィリピンでは内外需の拡大が続くものの、2010年に高成長となった反動により4%台の成長になる見通しである。タイでは、輸出全体の増勢は低下するものの、近年主力輸出製品に成長したHDDや自動車などは堅調に伸びる可能性が高いほか、政治情勢不安定化により2010年に伸び悩んだ消費と観光収入の回復が期待される。輸出依存度の高いマレーシアでは先進国経済の減速の影響が懸念されるが、アジアを含む新興国向け輸出が安定的に伸びること、良好な所得・雇用環境に支えられて消費も堅調に推移することが考えられる。2011年から「第10次5カ年計画」が開始されることも成長にプラスに作用しよう。他方、インドネシアでは内需が引き続き拡大することにより、2010年とほぼ同じ6.0%、ベトナムでは輸出の伸びが加速すると期待されるため(「ベトナム」を参照)、2010年をやや上回る7.0%の成長になる見通しである。

インドでは内外需の拡大が続き、8.7%の成長になるものと予想される。これまで実施された利上げの効果と農業生産の改善によって、インフレの抑制が期待される。これが所得・雇用環境の改善と相俟って、消費の拡大を支えるであろう。また、インフラ投資が引き続き実施されるほか、外国からの直接投資も増加するなど、内需は安定的に伸びる可能性が高い。さらに輸出も一次産品や石油製品、自動車、エレクトロニクスなどを中心に増加するであろう。

中国では内需の拡大に支えられて、8.7%の成長になる見通しである。先進国経済の減速を受けて輸出の増勢は鈍化するが、内需は引き続き拡大していくと考えられる。①企業の設備投資が活発であること、②都市への人口移動を背景に不動産投資が引き続き拡大すること、③所得水準の上昇(「中間層」の増加)に支えられて消費が高い伸びを維持することがその理由である。消費刺激策の一部は2011年内に終了する予定であるが、消費の伸びが政府の予想を下回れば、消費刺激策の延長や新たな措置が追加される可能性が高い。

■今後のリスク要因
2011年は域内消費ならびに貿易が拡大するとともに、域内の経済統合に向けた動きが活発化していくことが考えられる。中国と台湾との間では、ECFA(Economic Cooperation Framework Agreement )にもとづき関税の引き下げが開始される。このように世界経済におけるアジアの存在感が一段と高まるものと予想されるなかで、以下のような動きやリスクに注意すべきである。

第1は、急激な資本流入による経済の不安定化である。米国の追加金融緩和に伴い大量の資本が流入すれば、①通貨の過度の変動、②インフレの加速、③不動産バブルなどをまねく恐れがある。韓国では外貨取引を一部規制したほか、インドネシアでは海外の短期資金の投資対象となった中銀債券3カ月物の発行を停止するなど、資本流入抑制策を講じている。
第2は、不動産関連リスクである。中国では不動産価格の高騰を受けて、不動産融資の抑制が強化されてきた。その成果が表れているが、上述した海外資金の大量流入は政策効果を弱める恐れがある。対照的に、韓国ではソウル特別市を中心に不動産市況の悪化が続いており、建設業の業績が悪化し、金融機関の不良債権が増加している。家計への影響は現在のところ限定的であるが、今後の金利上昇により家計収支が悪化する可能性がある。

第3は、タイの政治情勢不安定化のリスクである。当面、年末から4月までの農閑期にUDD(反独裁民主同盟)がどのような展開をみせるのか注視していく必要がある。

第4は、中国経済の構造転換に伴うリスクである。中国政府は消費主導型成長への転換を図る目的で最低賃金水準を引き上げているが、拙速に行えば、生産コストを増大させ経営を圧迫しかねないほか、労働者の権利要求を拡大させて政治の不安定化をまねく恐れもある。また、消費刺激策の安易な継続や拡充は、当該措置終了後の反動減効果を増幅するであろう。

アジアで事業を展開する日本企業にはこうしたリスクへの対応が求められよう。
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