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アジア・マンスリー 2022年8月号

観光産業の回復を目指すASEAN

2022年07月28日 松本充弘


ASEANは入国規制の緩和を進め、コロナ禍で途絶えていた観光客を取り戻しつつある。ASEANの観光産業は2023年半ばにかけて回復が進み、景気を下支えすると見込まれる。

■コロナ禍で打撃を受けたASEANの観光産業
2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、世界の観光産業に大きな影響を及ぼしたが、ASEANでの影響はそのなかでも深刻なものとなった。実際、World Travel & Tourism Council(WTTC)によれば、2020年の観光産業のGDP寄与額は、ASEANでは前年比▲52.7%と、世界平均(同▲49.1%)、北米(同▲42.2%)、欧州(同▲50.0%)などよりも悪化度合いが大きかったことが示されている。ASEANの観光産業のGDPに占める割合は11.8%(2019年時点)であり、世界平均の同10.4%を上回る。特に、フィリピン(22.5%)、タイ(20.3%)、マレーシア(11.7%)でその割合が高い。総雇用者に占める同産業の比率(フィリピン:22.7%、タイ:21.8%、マレーシア:15.1%)も同様に世界平均(10.6%)に比べて高く、雇用面でも大きなウエイトを占めている。

ASEANの観光産業はインバウンド需要への依存度が高いことが特徴である。観光支出における外国人観光客の支出割合(2019年)はASEAN5(インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム)で46.6%と世界平均の28.3%よりもかなり高い。国連世界観光機関(UNWTO)によれば、ASEAN5の国際観光収入は、コロナ禍での規制により2020年には2019年比▲80%、2021年には同▲95%まで落ち込み、観光収入の大幅減が景気悪化に直結した。

■入国制限緩和で外国人観光客を受け入れ
このように、ASEANにとって観光産業は非常に重要であり、各国政府は海外からの入国者数を早期に回復させ、2022年には2020年並みの水準に戻すことを目標としている。すでに各国では入国規制の緩和に向けた取り組みが進み、入国者数が増加傾向にある。最も速いペースで回復しているマレーシアでは、シンガポールからの旅行者が大きく増加している。マレーシアでは、シンガポールからの入国者が全体の4割(2019年)を占めているが、4月以降は6割にのぼっている。これは、隣国に対する入国規制の緩和を優先したことが奏功したものである。

マレーシアでは、4月にシンガポール以外についても入国制限が緩和され、ワクチン接種完了者には入国後の隔離が免除されているほか、陰性証明書の提示や入国時の検査も撤廃されている。タイでは、ワクチン接種完了者の入国後隔離を免除する制度が再開されたほか、陰性証明書の提示も不要となった。ベトナムでは3月に外国人旅行者の受け入れが再開され、陰性証明書の提示で入国時検査と入国後隔離が免除された。その後、陰性証明書の提示や健康状態に関する申告義務も廃止されている。インドネシアでは、ワクチン接種完了者の入国後隔離が免除されたほか、陰性証明書の提示も撤廃されている。フィリピンでも、すべての国のワクチン接種完了者を対象に入国後の隔離が免除されるなど、観光客の受け入れが再開されている。

7月15日時点で、ASEAN5への入国の際、ワクチン接種完了者は入国時検査や入国後隔離が不要である。さらに、タイ、マレーシア、ベトナムではワクチン接種未完了者も入国が可能となるなど、外国人観光客の受け入れに積極的である。

■2023年半ばにかけて観光産業が景気に寄与する見込み
推計によれば、入国者数がコロナ禍前の水準に戻る時期は、マレーシアでは2022年秋頃、インドネシアでは2023年初、タイとベトナムでは2023年央となる見込みである。基本的には、観光産業の回復が続くことで、今後のASEAN景気を下支えすると見込まれる。

もっとも、ゼロコロナ政策を堅持し、厳格な水際対策が実施されている中国からの入国者数は引き続き低調となる見通しである。ベトナム、タイ、インドネシアでは、5月の中国からの入国者はコロナ禍前(2019年5月)の▲98%の水準にとどまる。特に、コロナ禍前のベトナムとタイでは、中国からの入国者数が全体の約3割を占めていた。中国の厳格な水際対策が長期にわたる場合、観光産業の回復ペースは他のASEAN諸国に比べて鈍いものとなる可能性に注意する必要がある。
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