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地域再生のために自治体が取り組む課題と民間手法の有効活用 第1回 悪化する自治体財政

2007年10月01日 日吉淳


夕張市の財政破綻に象徴されるように、自治体の財政悪化に歯止めがかからない状況である。このまま進めば数多くの自治体が財政破綻する可能性も否定できない。そもそも、どこに問題があるのか、どうすれば問題が解決するのかなど、主席研究員の日吉淳に話を聞いた。


夕張市が財政破綻するなど、地方自治体の財政状況が悪くなっているようです。どうしてこのような状況になってしまったのでしょうか?

 バブル経済が崩壊して以降、国は経済対策として公共事業を増やしてきました。その事業費の一部が自治体の借金となり、起債の償還財源が財政の圧迫要因となっています。また大量に整備された公共施設は、運営やメンテナンスに多くの経費が発生するため、固定費として財政に重くのしかかってきています。その上、60~70年代の高度成長期に整備された施設は建て替えの時期を迎えており、自治体の財政難に追い討ちをかけています。
 加えて、この数年は団塊世代が大量に退職を迎えています。ほとんどの自治体は退職金を十分に積み立てていなかったため、退職手当債を発行して急場を凌いでいます。本来、起債は公共投資の便益を受益者負担として、将来の世代にも負担を平準化するための主旨のものですが、退職手当債は後年に負担を先送りしているだけの最たるものであり、市民にとって納得できるものではありません。
 さらに、土地開発公社など自治体の外郭団体や第3セクターは、不十分な情報公開のため表面化していない巨額な債務がある可能性があります。自治体の財政状況を明らかにするため、国は来年度から自治体単体の決算だけでなく外郭団体や第3セクターとの連結決算を導入することになりました。

自治体にも連結決算が導入されるのですね。

 連結決算を導入するにあたり、先進的な自治体ではすでに複式簿記を採用し、連結決算の導入に備え、財務諸表の整備に取り組んでいます。そうした中で見えてきたのは、現在の自治体の財務諸表は、借り方部分が非常に膨らんでいるということです。公共性の高い業務を実施する役割の自治体とは直接比較することはできませんが、利益確保を主目的にする民間企業では考えられないことです。
 というのも、今日まで自治体は自ら資産を保有し、それらを使ってサービスを提供する自前主義を採用していました。民間企業であれば固定資産税がかかりますが、自治体には資産保有にかかる税金がありません。そのため補助金がもらえれば、その後の維持管理費用のことをほとんど考えずに、学校を増やそう、公営住宅を造ろう、病院を建てよう、と資産過剰になっていったのです。そして、その資産の維持管理の費用が、財政を圧迫するという事態に陥ってしまったのです。
 また、自治体の一般会計には減価償却という概念がないため、将来的な建て替えなどに向けての資金留保がなされていないことも問題です。しかも新規建設時には国から補助金が出た施設も、補助金削減の流れを受けて、建て替えはすべて自治体の自己資金で賄わなければなりません。

資産過剰である点において、自治体はバブル崩壊後の企業に近い状況にあると思います。しかし、その当時の企業と違い、自治体の改革のスピードが上がっているとは思えません。

 自治体が切迫感を持てないのは、資産過剰のままでも資金調達が困難ではないからです。バブル崩壊後の民間企業は資産過剰であったため、ROA(Return on Assets:総資産利益率)が低下し、株価が低迷しました。そこで民間企業は市場の信用を獲得し、資金調達を容易に行うため、保有資産の整理を果敢に行いました。
 自治体も現在、資産過剰の点では当時の企業と変わりはありませんが、現行の仕組みにおいては自治体の資金調達手段である起債に国の信用補完がついており、資金調達に苦しむということはありません。つまり自治体の場合は、財政状況が良くても悪くても、資金調達コストは同じなのです。したがって自治体は財務諸表が悪くても気にすることはありませんでした。
 しかし起債に対する国の信用補完がいつまでも続くとは限りません。政府は現在、地域に税源を移譲し、地域の自立を促すという「三位一体改革」を進めています。この「三位一体改革」の結果、国庫支出金や地方交付税などが見直され、自治体の歳入が減り、自治体によっては発行する起債の信用力が低下するだろうと言われています。自治体も信用力を高める施策を視野にいれる必要がでてきたのです。


次回は、自治体の運営上、民間企業に何を学び、どのように変わっていくべきなのかについて聞いていく。
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