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コラム「研究員のココロ」

金融機関と持続可能性
~ UNEPFI2005グローバル・ラウンドテーブルより ~

2006年01月23日 村上芽


 環境に関わるビジネス誌「日経エコロジー」をお読みになっている方や、目にしたことがある、名前を聞いたことがある、という方は増えていることだろう。その2005年12月号で、同誌では初めての「金融」特集が組まれたように、金融機関と環境のかかわりがこれまでよりも多くの人から注目される時代になってきている。

 今回は、2005年10月25日から2日間にわたり、NYの国連本部で開催された「UNEPFI(国連環境計画金融イニシアティブ)2005グローバル・ラウンドテーブル」から読み取れる世界の注目点をご紹介したい。

 UNEPFIは、2003年11月の東京会議以来、2年ぶりの開催となり、延べ500人程度、日本からも金融機関等から20人程度が参加する規模となった。UNEPFIについてはこちらをご参照いただきたいが、1992年に設立されたUNEPと約180の世界中の銀行・保険・証券会社等のパートナーシップ組織である。参加金融機関は「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」に署名するが、2005年12月で日本からは16社が署名している(注1)。また、「Japan Group」としての活動も2005年9月に開始している。(詳細についてはこちらをご参照いただきたい。)

 2005年会議では、金融機関と持続可能性(サステイナビリティ)について、より具体的な行動や、それらを支える法的根拠などに関する情報発信が行われた。気候変動については、21世紀の世界が抱える最大のリスクの1つと認識され、それを考慮しておくことの重要性は金融機関にとっても「常識化」している印象を受けた。投融資を通して間接的に環境に与えるインパクトが金融機関にとっての大きなテーマであるが、リスクを評価し、それを加工することはいわば本業そのものであることから、気候変動をリスクと同時にビジネスチャンスとしても最大と捉えて研究・商品開発を進めている機関の発言が目立った。

 特にアセットマネジメント(注2)の世界においては、受託者責任(注3)に関するリーガル・レポートが公表された他、2006年3月から4月には「社会的責任投資に関する原則」(UNEPとUNグローバルコンパクトによる共同)がリリースされようとしているなど、環境や社会に配慮することがごく一部の限られた投資家だけのためのものではなく、幅広いものとして捉えられるようになってきている。リーガル・レポートでは、環境や社会面の考慮の度合いは運用機関において固有であるとしても、それらについてまったく考慮せずにいることは、受託者責任にもとるという考え方が、日本を含む9カ国の法制度の研究をもとに示されている。

 銀行を中心とした動きのなかで特に注目されるのは、複数の国際的な金融機関で、投資や融資を行っている顧客を産業セクター別に分析し、気候変動と関連政策が顧客に与える影響を定量評価しようと試みが進んでいる点である。環境への対応を課題とする取り組みは、大規模な発電所や資源開発を行うためのプロジェクトファイナンス分野が先行してきた(エクエーター原則の広がりなど)が、プロジェクトファイナンスに限らず、気候変動や持続可能性という観点が顧客を見つめ直す機会になっていると考えられている。金融機関の考える課題としては、長期的で安定的な政策の不在(特に2013年以降の枠組みについてはモントリオール会議前だったこともあり、懸念する声が大きかった)や、評価能力の不足、環境問題の複雑さ、プロジェクトファイナンス以外では資金使途を明確に出来ないこと、などが挙げられた。気候変動に関する政策は「Long, Loud and Legal」(長期的で、声高で、法的根拠があるもの)であるべき、とした欧州金融機関の発言が印象深かった。

 なお、金融機関と持続可能性を論じるにあたり、「ESGへの配慮」という用語が会議においてしばしば使われた。ESGとはEnvironmental, Social and Governanceをさす。環境、社会、そしてガバナンスに関する諸課題をどう評価するか、が金融機関の持続可能性を左右するという文脈で用いられている。日本では「金融機関のCSR」という表現が広まりつつあるが、CSRという表現そのものが直接使用されることはむしろ少なく、それはステークホルダーとの関係のあり方の部分なのではないか、という意見を聞いた。論じられている中身を見れば違いは大きくないようであるものの、目的と手段を使い分けるにあたり、こうした言葉遣いも認知されていくことと思われる。

 ここまで述べたように、ESGのなかでも特にE(環境)が大きなテーマであった。ただ、それがいわば「常識化」していると捉えれば、次はS(社会)であるように感じられた。2005年は、「国連マイクロファイナンス(注4)の1年」でもあったことから、UNEPFI2005でもマイクロファイナンスや小規模企業向けのファイナンスが1つの大きなテーマとして取り上げられた。実態としては、マイクロファイナンスと環境とが直結している事例は少ない(オランダのトリオドス銀行が最も活発なプレイヤーの1つである)が、こうした手法を通じて貧困をなくしつつビジネスを成り立たせようという動きは欧米では活発になっている。S(社会)が対象とする課題はE(環境)よりも更に広く、地域的な多様性も大きいことから、統一的な基準がすぐに出来るといったような段階にはないと思われるが、世界的な視点で金融サービスを考えるにあたっては避けては通れないテーマであろう。

 このほかにも、金融機関における「持続可能性報告書」のあり方に関する議論(「金融機関のための環境パフォーマンス・インディケーター」の案が示された)や、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(金融機関や機関投資家が結集して企業に気候変動への戦略や具体的な温室効果ガスの排出量の公表を求めるプロジェクト)に関する報告、欧州の排出権取引を中心としたカーボン・ファイナンスに関するセッションなど、幅広い内容が議論された2日間であった。日本からのスピーカーは、国際協力銀行、日本政策投資銀行、東京三菱銀行の3行からあり、参加者もNYで開催されたわりには多かったと感じるが、地域金融機関をはじめとする民間金融機関の取り組みにはもっとユニークな、世界が注目しておかしくない情報が多くうずもれているのではないかとも感じた。UNEPFIの次回開催は公表されていないが、さらに多くの日本の金融機関が署名し、多くの情報が発信されることを期待する。


【脚注】
(注1)
日本の署名参加機関(署名順):三井住友海上、損保ジャパン、ジェイアイ損害保険、東京海上日動、日興コーディアルグループ、日興アセットマネジメント、グッドバンカー、日本政策投資銀行、滋賀銀行、三井住友フィナンシャルグループ、日本興亜損保、住友信託銀行、国際協力銀行、東京三菱銀行、大和證券グループ、あいおい損保。(UNEPFIホームページより、2005年12月現在)

(注2)
アセットマネジメント:保有する資産の運用・管理を行うこと。

(注3)
受託者責任:他人の信頼を得て一定の任務を遂行する義務のこと。受託者は、受託者に信任を与えた者や受益者の利益を最優先しなければならないという忠実義務や、任務の遂行に際して相当の注意を払わなければならないという注意義務等を負う。(経済産業省、2004年度版通商白書より抜粋)

(注4)
マイクロファイナンス:低所得者向けの小規模金融サービスのこと。小額の融資、貯蓄、保険サービスを提供することで、貧困削減をめざす。バングラディシュのグラミン銀行が有名だが、アジア、中南米、アフリカ諸国に多数の事例がある。
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