2007年12月26日 |
2008年世界経済見通し ~ドル安リスクを抱えつつ、マネーが米クレジット商品から実物資産・アジアに向かうなか、米景気停滞と新興国高成長のデカップリングへ~ |
要 約 |
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1. | 2007年を回顧すると、米国をはじめとした先進国では、年明け以降順調な景気拡大が続いたが、米サブプライム住宅ローン問題に端を発する金融市場の混乱を受け、夏以降、一転して先行き不透明感が強まった。一方、同時期以降、a.原油・金などの実物資産、b.アジアを中心とした新興国株式、等の価格が急上昇し、ドル安が加速した。これは、それまで証券化商品をはじめとする米国の金融資産に向かっていた投資資金が実物資産や新興国に向かい始めたことを示唆。2007年に世界経済・市場を揺るがした「サブプライム・ショック」「商品市況高」の背景には、巨額の投資マネーの流出入があり、そうしたマネーの動きは、各国地域の実体経済の行方をも左右する大きなファクターに。 | |
2. | オイルマネーやアジアの外貨準備といった肥大化したグローバルマネーが、米国の住宅ローン債券などの金融商品から、原油などの実物資産やアジアを中心とした新興国に向かうなか、リスクマネーが流出する米国では景気停滞が続く一方、同マネーの流入する資源国や新興国では高成長が続く可能性。もっとも、こうした資金フローは、a.グロ-バルマネーの自己増殖、b.世界的なインフレ圧力の強まり、c.アジアでの資産バブル増長、d.世界的なドル離れの加速、など様々な問題点を抱えており、今後、様々な弊害が顕在化してくる可能性。 | |
3. | こうした構造を踏まえた上で、2008年の世界経済を展望する上でポイントとなる以下の3点について、個別に検討。 (イ)米住宅市場調整と米国経済の行方 (1)新築住宅在庫率(在庫/販売)が適正とみられる「4ヵ月強」の水準まで低下するためには、少なくとも2008年後半まで住宅投資の大幅減少が続く必要。同時期までは、住宅投資の減少が米国景気の下押し要因として作用し続けると見込み。 (2)中古在庫率の大幅上昇に伴い住宅価格も下落に転じている。中古在庫率は2008年央までは低下が見込めず、住宅価格も少なくとも同時期までは下落し続ける可能性。また、住宅投資/GDP比率や米家計の住宅資産/可処分所得比率をみる限り、住宅価格は依然としてかなり割高な状況にあり、住宅価格の下落が長期化する可能性。 (3)こうした住宅価格の下落は、逆資産効果等を通じて個人消費の下押しに作用。また、サブプライムローンの金利見直しに伴う金利負担増加も個人消費を下押す要因に。 (ロ)原油高の行方とその影響 (1)原油高の背景は、新興国の高成長を受けた原油需要の拡大。2008年平均の原油価格は少なくとも+10%程度の上昇圧力がかかるとみられ、投資資金の流入も加味すれば、年平均価格は90ドル程度まで上振れる可能性。 (2)原油高は、産油国への所得移転を通じて、先進国にはマイナスの影響。一方、産油国の高成長は、同国向け輸出拡大という形で原油消費国にプラス影響。両者を総合すると、原油価格10ドルの上昇につき、輸出依存の低い米国では▲0.3%成長が下押しされるが、産油国向け輸出比率の高いユーロ圏では▲0.1%の押し下げにとどまる見込み。 (3)原油高により増大するオイルマネーを呼び込めば、長期金利低下、株高などのプラス効果も期待可能。 (ハ)「デカップリング」の持続可能性 (1)近年、米国の世界経済押し上げ寄与は著しく低下し、最大の牽引役はBRICsを中心とした新興国に変化。2005年以降、米国での成長鈍化にもかかわらず、米国以外は高成長が続くなど、世界経済の米国依存度は急速に低下。 (2)世界各地域の地域別輸出比率も、米国向けは大きく低下、代わって、新興国、とりわけ中国向けが大幅に上昇。これは、域外向け輸出拠点が中国に集約されていることを示唆しているが、中国の輸出は、新興国向けが急拡大し、先進国経済との連動性も低下傾向。新興国の輸出・成長が、米国依存から脱却し始めるなか、米国で景気減速が生じても、新興国の高成長が維持される可能性は従来以上に上昇。
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4. | 各国経済の見通しは以下の通り イ)アメリカ:(1)住宅市場の調整、(2)それに伴う個人消費の停滞を受け、年央にかけて景気停滞色の強い状況が続く見通し。もっとも、新興国の高成長、ドル安持続を背景とした輸出の堅調が景気下支えとなり、景気後退は回避。年後半以降は、住宅市場の調整圧力が弱まるにつれ、徐々に持ち直しに向かうものの、個人消費の力強い拡大が期待薄ななか、潜在成長を下回る成長が続く見通し。
ロ)欧州:ユーロ圏では、米国の景気減速、ユーロ高を受けた輸出の増勢鈍化等から、景気拡大ペースの鈍化は避けられない見通し。もっとも、(1)雇用の改善傾向、(2)中東欧・ロシア向け輸出の好調持続、を背景に底堅さは維持され、2008年後半以降は、徐々に成長ペースが上向く見通し。英国では、(1)信用不安の再燃、(2)住宅価格下落を背景に、個人消費を中心に景気は減速基調を強める見通し。もっとも、良好な所得雇用環境が維持されるなか、景気の深刻な落ち込みは回避される見通し。 ハ)アジア:アメリカの景気減速と原油価格の高騰が景気下押し要因となるものの、安定的な成長を確保できる見通し。中国では、輸出の増勢鈍化は避けられないものの、政府が最低賃金の引き上げ等への取り組みを表明するなか、個人消費を中心に10%超の成長が維持される見通し。インドでも、IT関連サービスの輸出の好調持続、外国からの直接投資の増加を背景に、高成長が続く見通し。 |
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5. | 上記のシナリオに対するリスク要因としては、(1)ドル安加速、それに伴う商品市況高騰、世界的な長期金利上昇のリスク、(2)雇用の悪化や信用不安長期化による米国での景気後退リスク、(3)食料品やエネルギー価格の高騰によるインフレ高進のリスク、があり、これらに対する注意が必要。 | |
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※本資料は、内閣府記者クラブにて配布しております。 |