2007年08月02日 |
忍び寄る経済「デュアル化」の危機とその阻止に向けた戦略 ~参院選後の政策運営のあり方~ |
要旨 |
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1. | 日本経済は2007年に入り、景気の回復テンポに鈍化傾向。在庫が積み上がり気味となったITデバイス部門の一部で減産が行われたことのほか、米国景気が下振れしたことの影響も。また、設備投資の先行指標とされる機械受注に弱さがみられ、個人消費も弾みがついていく兆しはみえない。 さらに、中長期の視点でみたとき、ここにきて気になる現象。昨年頃には回復の広がりの兆しがみえた中小企業セクターで、再び停滞感が漂い始めている。企業部門の二極化傾向を放置することは、低所得層の拡大をもたらすこととなり、結局は社会の活力低下が経済活動の足枷になっていくことが懸念。本レポートでは、2007年度下期から2008年度にかけての景気のコースを展望するとともに、企業部門の二極化に焦点を当て、中長期の視点からわが国の経済・社会が活力を維持していくための条件を探る。 |
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2. | 世界経済全体を鳥瞰すれば、現在“資源高/CPI・金利安定下の世界的高成長”という構図。それはa.情報通信革命の進展→b.中国等「新興大国」の台頭→c.資源国の高成長―というプロセスを経て、「米国-中国-産油国」間での相互依存関係を根幹とする世界経済の成長循環メカニズムが形成されたことで実現。この成長循環メカニズムは、a)中国⇔米国の相互依存関係、b)中国の原油・資源需要とオイルマネーの米国への還流、という2つの連関が両輪に。 ここ最近の動きをみれば、a.先進諸国でインフレギャップが拡大する方向にあること、b.中国をはじめとした新興国の賃金が相当程度上昇してきたこと、などにより、物価・金利安定の構図は徐々に崩れる兆し。とはいえ、グローバル規模での競争の激しい耐久財分野では依然として世界的なデフレ圧力は根強いこと、アウトソーシング・オフショアリングの広がりからサービス分野にデフレ圧力がかかっていること、などを踏まえれば、インフレ・金利上昇局面への移行にはなお時間を要する見通し。 |
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3. | 国内景気の先行きについては、当面、a.米国景気減速と先行き不透明感残存の影響(輸出下押し作用および設備投資先送り)、b.一部産業の高水準の在庫率、c.税源移譲に伴う家計向け課税時期変更の影響を背景に、足取りの重さが残る見込み。もっとも、a.新興国・資源国向け輸出の好調持続、b.企業部門の潤沢なマネーストック、c.金属セクターやIT最終財など在庫率が過去最低水準にあるセクターも少なくないことを踏まえれば、景気の底堅さは維持。足許の一部分野での生産調整の動きが一巡すれば、秋口ごろからは回復傾向が明確化。
以上のもとで、2007年度の実質成長率は5年連続の2%台成長を達成。 2008年度については、上期は2007年度下期の景気回復の構図が続くものの、北京オリンピックを境に年度下期は、a.中国の投資需要を中心とした海外需要のスローダウン、b.設備投資効率の上昇ペース鈍化を受けた国内設備投資の弱含みが生じる懸念。この場合、景気の実勢も次第に弱まっていく展開が予想される。 |
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4. | 2002年に始まる今次回復局面では、中小企業セクターでの立ち遅れが窺われ、とりわけここ1~2年でその傾向が顕著に。グローバル化や高齢化といった経営環境の変化に対し、対応が進んだ企業は伸び、対応が遅れている企業は低迷しているということが、企業部門「デュアル化(二重構造化)」の基本的な構図。以上の構図が今後とも続くことになれば、グローバル化のダイナミズムを取り込むことで成長を持続できる「成長産業セクター」と、グローバル化の流れから取り残され業績低迷を余儀なくされる「停滞産業セクター」へと「デュアル化(二重構造化)」は一段と進行。 その場合、「成長産業セクター」での賃金増が限られ富の海外流出が続く一方、「停滞産業セクター」に属する低所得層が増えていく結果、家計活動が低迷して社会全体の活力が失われ、一段と国内低迷・海外シフトの流れに拍車がかかるいう、「産業部門デュアル化と所得分配デュアル化の悪循環」が生じる恐れ。 こうした悪循環を阻止するためには、企業規模・産業分野にかかわらず、グローバル化・高齢化という環境変化に対し全ての企業が主体的に対応していくことが必要であり、そのためには、人口減少で希少となる「人材」の能力の効率的な活用・育成を促すとともに、変化への適応が困難な人々をサポートし、再び労働市場に参入できるよう支援を行う「包括的な雇用システム改革(労働市場と社会保障の一体改革)」の実施がカギを握る。 景気回復が見込まれる2007~2008年度にこそ改革を断行すべきであり、“『生産性向上』誘導戦略”と“『ワークフェア』政策”の一体的実施を主軸に据えた改革プログラムを推進すべき。7/29の参院選結果は、これまで政府が前提としてきた「経済成長の持続が自ずと生活安定に繋がる」という考え方に対し、国民が見直しを迫った形。経済活性化と国民生活安定の両立を目指す改革プログラムを、与野党が協力して推進していくことこそ、今回の国民の審判に応える道。 | |
《目 次》 | ||
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