要旨 |
(イ) |
年金記録問題や地方財政の危機など深刻な事件が相次いで明るみに。わが国公的セクターは重篤な機能不全の恐れ。大規模な救済策無しに状況の改善が見込めないほど事態が悪化するまで長期にわたって問題が放置されてきた根因は利害関係者や第三者によるチェックやコントロールが効きにくいという制度的欠陥に起因。一方、他の先進各国ではそうした問題は総じて早期に排除。そもそも発生していない国も少なくないうえ、ITを活用した新たなスキーム形成に向けた取り組みが進行。本稿では、わが国と異質な主要各国の電子政府実現に向けた取り組みを概観し、今後の主な課題を整理。 |
(ロ) |
まず国際連合の2005年電子政府進捗度調査に依拠し、電子政府のサービスを比較すると、わが国は基礎的分野ではほぼ満足すべき水準に到達。一方、ユーザー利便性の高いサービスの提供や、国民・企業と政府、政府間の情報の遣り取りでは立ち遅れ。
さらに、同じく05年の国連調査により、電子的ルートを活用した国民参加をみると、上位25カ国中最下位グループ。本調査は、a.政策や計画など重要事項に関する十分な情報提供、b.国民が政策決定に参加するプロセス設定、c.意見表明に対するフィードバック、の3点から行われるが、いずれも米英のトップランナーから大きく劣後の模様。 |
(ハ) |
近年、情報公開や国民参加が広く活用され始めた背景には、ITが経済・社会に深く浸透し、利用が定着したという情勢変化。加えて、政府の役割が拡大した結果、政府活動に対する国民や企業の関心や直接的利害が増大したことが推進エンジンに。
かつて、国民参加は絵空事。しかし、技術革新の結果、ネット上でチェックや討議・検討の場を形成し、政治プロセスを進める、いわば擬似直接民主政が実現可能に。
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(ニ) |
国連調査は05年時点ですでに2年弱が経過。各国は現在どのような取り組みを進め、今後、何を目指しているのか。トップランナーの米英の動向を概観すると次の通り。
ⅰ)アメリカ
- 公的サービスを大括りに統合、分野ごとに専門サイトを立ち上げ、参加する政府機関を連邦各省庁から州政府、地方政府へと拡大する一方、標準化の推進や重複の排除によって、ユーザーの利便性向上とコスト圧縮を実現。現下の取り組みは今後、1~2年以内にほぼ完遂する見込み。いわばワンストップ・サービスが、個人や企業と政府間だけでなく、補助金の申請や交付など政府間手続きでも大きく進展。
- わが国では今日でも議論の俎上にすら上っていないITを戦略的に活用した公的セクター改革への取り組みがすでに始動。すなわち、90年代半ばから始まった電子政府化プロジェクトの当初段階から、組織や業務スキームの最適化に向けた取り組みが連綿と継続。いわゆるFEA(Federal Enterprise Architecture)プログラム。99年9月には全体的枠組みを示した“FEA Framework Version 1.1”が公表。
次いで、電子政府プロジェクトの導入期とされる第2期に入ると、まず01年2月に具体的な導入ガイドとして“A Practical Guide to FEA”が策定。02年12月には“The E-Government Act of 2002”が成立。一方、組織や業務スキームの最適化に向けた試行プロジェクトが推進され、問題点の抽出や打開策の策定が実施。
さらに、アメリカ政府が変革期と位置付ける第3期に入り、05年3月、地方政府も視野に入れた業務改革を提唱したアクションプランが策定。05~06年、2年間の基盤整備を経て、今後、公的サービスの抜本的変革を本格化させる計画。
ⅱ)イギリス
- ITを活用した公的サービスの見直しを起点に、業務スタイルや組織のあり方まで、公的セクターの改革を断行しようとする姿勢と成果はアメリカを上回る面も。
05年11月、ITを活用し公的セクターの改革を断行する方針を明示した報告書を、“Transformational Government ~ Enabled by Technology”と銘打って公表。05~06年を準備期間、07~11年を改革推進期間として実施予定。骨子は次の3点。
- ユーザー本位のサービス実現
- シェアード・サービスへのシフト
- プロフェッショナリズムの追求
- 07年1月、年次報告書を発表。準備期間ながら、シェアード・サービスで成果。
- ロンドン交通局は人員管理コストの3割削減に成功
- NHSは資金管理コストを34%削減、今後10年間の効果は2.2億ポンド以上
- 国防省でも成功、今後10年間にわたるコスト削減効果は合計で3億ポンド超
- 一方、政府の雇用者数は、それまでの増勢から一転して05年をピークに減少傾向。05年の586万人から06年に583万人、07年1~3月期には579万人へ。
- 改革終了後の11年以降、進むべき3つの方向性も提示。
- 政府の変化。硬直的組織から脱却、組織内外との柔軟な業務シェアリング進行
- ユーザー評価の変化。政府の自己変革能力への信頼と改革推進への期待が形成
- プレーヤーの役割変化。国と地方、公的・民間分野とのボーダーが不鮮明に
- その結果、国と地方政府の二分論、さらに公的セクターと民間セクターの二元論に基づく官民の役割分担など、国のあり方に関する枠組みに根本的見直しも。
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(ホ) |
翻ってみると、わが国の取り組みは緩慢。骨太の方針をみると、a.今後5年以内を目途に世界最先端の電子政府実現、b.利便性向上、の2つが目標とされるのにとどまり、政府改革の視点は欠落。一方、地方改革では今後3年以内の「新分権一括法案(仮称)」の国会提出が目標とされるなど、従来の枠組みに終始しており、新スキームを指向する姿勢は皆無。電子政府の実現は、単なる従来行政手続きの電子化ではなく、成長戦略の根幹。政治のリーダーシップ発揮とともに官民一体となった取り組みが切望。 |
≪ 目 次 ≫
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- はじめに
- 主要国の取り組み
(1) わが国と主要各国との違い
(2) アメリカ
(3) イギリス
- 今後の課題
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