コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

コロナ禍を契機とした資源循環システムの転換

2020年06月15日 梅津友朗


コロナ禍における基礎インフラ現場の奮闘
 新型コロナウイルス感染リスクが高い中で、感染者の治療を行う医療現場の奮闘の様子はメディアを通じて目にする機会が多い。医療現場の奮闘が無ければ、我々の生活が今以上に脅かされていたことは想像に難くない。一方で、目立たないながら医療現場と同様に奮闘を続けているのが、コロナ禍においても通常通りの稼働を続け、自粛生活を強いられた我々の生活を支えている廃棄物処理施設や上下水道施設等の基礎インフラの現場である。
 ここでは基礎インフラの代表として、廃棄物処理施設に着目する。今般の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、廃棄物の排出量は通常時よりも減少傾向にあるが、家庭からのごみ排出量の増加等により、廃棄物が排出されるタイミング、廃棄される内容が通常時と異なるパターンになっていると推察される。廃棄物処理の現場では、従業員の感染症対策に最大限の注意を払いながら、通常と異なる排出パターンへの対応を強いられることになるため、収集・運搬や処理施設の稼働を維持するための負担は大きくなっているものと考えられる。このような状況の中、廃棄物処理施設は「基礎インフラ=当然あるべきもの」としての機能を維持し続けている。

廃棄物処理現場における対策の現状
 現在、廃棄物処理施設では、新型コロナ対策として以下のように段階的な目標をもって対策を講じているものと考えられる。
 第一段階として、施設の稼働を停止させないためには、従来通りの人員確保を目標とする。運転の自動化と人員体制のスリム化が進む廃棄物処理施設では、人員数を減らして稼働することは容易ではない。そのため、安定稼働を継続するための人員確保を最優先事項として、現場での新型コロナウイルスの集団感染予防策に集中的に取り組むこととなる。
 第二段階として、施設の人員に新型コロナウイルス感染が確認された場合に、2次感染を防ぎつつ、主要施設を稼働させることを目標とする。感染者とその濃厚接触者は長期間にわたり勤務できなくなるため、施設の稼働範囲を限定して必要人員を削減せざるを得ない。稼働させる施設の優先順位を予め決めておいて人員配置するといった運用が必要となる。
 第三段階として、最低限の稼働もできない状況になった場合に、広域でのバックアップ機能を活用して廃棄物処理を継続することを目標とする。近隣自治体などがバックアップ先の候補となるため、自治体間の調整が必要となる。
 このような手探りの対策を実行しつつ、廃棄物処理施設の稼働をどうにか継続してきたというのが今日までの実態であるが、依然として完全には収束しない新型コロナウイルスの状況を鑑みると、廃棄物処理継続が困難となる施設が発生する可能性は残る。

資源循環システムをコントロールする必要性
 仮に、自分が住むエリアの廃棄物処理施設が新型コロナウイルスの影響で稼働停止したら、どのような事態が想定されるか。
 国内の多くの廃棄物処理施設は施設稼働率に余裕があるため、近隣エリアの施設がバックアップとして機能するエリアにおいては、すぐさま行き場のない廃棄物が発生するという事態にはならない。周辺のバックアップ能力が相対的に小さいエリアにおいても、令和2年5月1日付で環境省が発出した「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行及び 新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物の円滑な処理等について(通知)」に基づき、代替処理能力を拡大する方法を模索することとなり、バックアップが機能することは前提となるだろう。しかしながら、廃棄物の行き先がバックアップ施設に変わることで、排出できるタイミングや量に制約が生じる可能性が高い。
 さらに稼働停止する施設が増え、近隣エリアのバックアップ能力が不足することとなった場合、廃棄物の行き先が決まるまでエリア内に廃棄物を貯留する必要が生じる。自治体が確保できる廃棄物の仮置きスペースは排出量に比べて大きくないと推測されるため、その期間が長引けば、廃棄物の収集が止まることも起こり得る。廃棄物の収集が止まった時点で、廃棄物処理の基礎インフラとしての機能は麻痺し、人々の生活がいよいよ脅かされる事態となる。
 このように、施設側の対策には限界があるため、今後起こり得る新たな感染症を想定した、廃棄物処理継続のための抜本的な対策を検討する必要がある。その際には、施設側の対策に加えて、廃棄物を排出する側にも着目した対策が有効である。排出量と処理量のバランス、すなわち資源循環システム全体をいかにしてコントロールするかに焦点を当てることで、より柔軟な対応が可能になるものと考える。

資源循環システムの転換へ向けた対策
 今回の新型コロナを契機に、感染症に強い資源循環システムへ転換するため、以下の対策について検討することを提案する。

(1)広域エリアでの施設稼働の最小化
 施設稼働が停止するリスクを低減するための当面の措置としては、稼働させる必要がある施設を広域エリアの単位で絞り込むことが有効である。現在のごみ焼却施設の稼働率(国内の平均値は約5割)を踏まえると、広域エリア内でいくつかの施設が稼働停止してもごみ焼却能力が不足しないエリアが大部分であり、施設を絞り込むことは問題ない。感染症発生による緊急時には、広域エリア内の廃棄物処理施設を一括管理し、施設ごとの稼働の優先順位に従って最低限の施設を稼働させればよい。人員一人当たりの処理能力が高い施設を優先し処理を集約すれば、処理に関わる人員数を最小化し、稼働していない施設をバックアップとして待機させることが可能となる。 
 また、広域エリア内で廃棄物処理の流れを変えることも施設稼働の最小化に寄与する。例えば、リサイクル対象である廃プラスチックやペットボトル等を一時的に焼却することで、リサイクル施設の稼働を減らすことができる。環境負荷の増加や焼却施設側の処理費用の増加が懸念材料であるが、費用対効果の評価を行いながら、緊急度に応じて実施することは有効である。また、リサイクル施設と焼却施設が併設されている施設においては、リサイクル対象物を焼却に回すことで、施設全体で必要な人員数を削減することが可能である。
 このような対策については、実際に稼働停止する施設があった場合には協議が進むと想定されるものの、協議に時間が掛かることがネックとなる。適切な広域エリアを設定し、事前に検討を開始しておくことが必須となる。

(2)社会ストレージ活用による排出量コントロール
 現状の廃棄物収集システムでは、指定日に排出された廃棄物は全量収集され、焼却施設やリサイクル施設等の入り口にあるピット等の貯留設備に投入される。この貯留設備のストレージ容量(焼却施設で5~7日分以上が基準)が施設の稼働停止時の最大受け入れ可能量となる。施設の稼働が停止し、貯留設備のストレージ容量を超える廃棄物が搬入された時点で、施設側は受け入れ不可能となる。あるいは、感染症発生により貯留設備への受け入れ業務自体ができない状況になり、その時点で受け入れ不可能になる可能性もある。
 1つの施設で廃棄物の受け入れが不可能になると、近隣の施設へ輸送し、代替処理が行われる。前述した広域エリアでの一括処理が機能すれば、広域エリア内の全施設の貯留設備の合計容量が利用可能なストレージ容量と考えることができ、受け入れ停止のリスクは大幅に低減できる。広域エリアの設定は、廃棄物のストレージ能力の観点でも重要である。
 さらに、廃棄物を排出する側に存在する潜在的なストレージ(ここでは「社会ストレージ」という)を活用することで、広域エリアでのストレージ容量を増加させることができる。例えば、一般廃棄物の貯留に活用可能な社会ストレージには以下のようなものが存在する。
・家庭内のごみ箱およびごみを置けるスペース
・集合住宅の共有部のごみ集積所およびごみを置ける共有スペース
・排出事業者の敷地内のごみを置けるスペース
 衛生面に配慮しつつこれらの社会ストレージを活用することで、排出量を一定程度コントロールすることができ、施設側の貯留設備の負荷を低減することが可能となる。
 東日本大震災後、電力のデマンドコントロールが積極的に実施されるようになったが、その廃棄物版と言える取り組みである。個人・家庭単位では、電力需要逼迫時の節電要請のように「排出量低減要請」により協力を求めるだけでも、目に見える廃棄物であれば節電と同等以上の削減効果が期待できる。事業所単位では、事態収拾後に優先的に廃棄物を収集することを条件に、排出量の大きい事業者に対して個別に排出量低減要請を行う方法が考えられる。このように、廃棄物の分野でも緊急時の「排出量コントロール」を実施することで、感染症発生時の処理能力低下のリスクを大幅に低減することが可能となる。

資源循環システムの再構築
 上記2つの対策は、資源循環システムが向かうべき方向そのものを示すものである。施設稼働の最小化は、廃棄物処理の広域化を通じた効率化を促進し、排出量コントロールは、廃棄物排出側の意識改革を通じて排出量の削減を促す。現在、廃棄物処理現場が直面している状況への対応を単に緊急時の対応で終わらせることなく、長期的な視点で対策を検討する機会と捉えるべきである。コロナ禍を契機に、感染症発生時にも柔軟に機能する新しい資源循環システムの構築に向けて議論が進むことを期待したい。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ