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2007年05月31日

急がれるわが国法人税率の引き下げ ~主流は20%台~

要旨
(イ)  成長戦略の柱の一つが海外の成長力活用。投資残高倍増計画も明示。しかし、近年、各国で法人税率のさらなる引き下げが相次ぐなか、目標達成は可能か。とりわけ、欧州各国を中心に引き下げ競争が加速。欧州に焦点を絞り、過去数年および今後数年間に引き下げる国をグループ分けすると、次の通り。
  1. 30%弱はドイツやイギリス、スペインで数千万人の人口を擁する欧州主要国。スペインは35%を07年と08年、それぞれ2.5%ずつ引き下げて30%に。ドイツは08年に25%の連邦法人税率を15%へ引き下げ、地方税と併せた実効税率を現在の39.9%から29.9%に改定。イギリスも08年から30%から28%へ2%引き下げ。
  2. 25%前後は、オランダ、フィンランドやデンマークなど、中堅規模の国々。04年にポルトガルが27.5%、05年はフィンランドが26%、オーストリアは25%に。06年はチェコが24%。07年にはギリシャ25%、デンマーク25%、オランダ25.5%へ
  3. 20%以下は、いずれもEUへの04年新規加盟国と加盟候補国。04年にポーランドが19%、スロバキア19%に。05年は加盟前のルーマニアが16%へ、06年はトルコが20%に。07年はブルガリアが10%。09年にはエストニアが20%へ。
(ロ)  このところの動きに注目すると、04年以降、資本流出が深刻化した国で、近年、あるいは今後数年の間に法人税率が大幅引き下げ。GDP比でみると、最大のマイナスはオランダ(法人税率は07年、34.5%→25.5%)。次いでデンマーク。(07年、30%→25%)。第3位はドイツ(08年、連邦法人税率が25%→15%)。4位スウェーデン、5位カナダを飛んで、6位がスペイン(08年、35%→30%)。
(ハ)  90年代半ば以降、全体としてみれば先進国サイドで資本流出が強まったものの、日米独伊加の主要先進5カ国では深刻な資本流出は起きず、法人税率上位1~5位を独占。こうした経緯に即してみれば、法人税率が世界屈指の高さであっても、その引き下げを今後拙速に行う必要性は小さいとの見方も。しかし、上記の通り、ドイツでは資本流出が近年加速。わが国でも、近年、内外資本の流出傾向が増大。直接投資全体では、従来の▲3兆円規模の流出超から、05年▲4.7兆円、06年▲6.6兆円へ流出に拍車。
(ニ)  加えて、わが国でもM&Aが一段と拡がるなか、本年に入り外国企業主導型が盛り上がり、従来と異なる動き。外国企業が主導しても対日投資が増加する限り、メリットが期待できる筋合い。しかし、資本流出のリスクも。そうした事例としてしばしば引用されるのが大手スウェーデン企業の動き。事業拡大やグローバル化に伴い生産拠点の海外シフトにとどまらず、持ち株会社や統括組織を国外に移したり、海外有力企業との合併を機に本社を海外に移す動きが拡大。その背景には、有力金融市場へのアクセスの良さや有能な人材を容易に調達できることに加え、海外事業利益や個人所得に対する納税負担の軽さ、法人税率の安さなど、租税要因も重視された模様。
(ホ)  もっともドイツはEU拡大の影響が大きく、むしろアメリカを参考にすべきとの見方も。そのなかには、実効法人税率がわが国とほぼ同じで諸外国を上回る高さにあるものの、資本の流出入が均衡する一方、底堅い経済成長を持続している点に焦点を当て、それを一つの論拠に早急なわが国法人税率の引き下げに異論を唱える向きも。
(ヘ)  しかし、実効税率ではほぼ同水準でも、納税負担は日米で大きく異なる。GDP比でみると、アメリカの法人税負担はわが国の5割から8割。加えて、アメリカの実効税率はカリフォルニア州をベースに計算され、全米平均より上振れている可能性。各州法人税制をみると、法人所得税が存在しない州、単一税率を課す州、所得水準に応じて税率が変化する複数税率の州、と3タイプ。単一税率の州でもペンシルベニア州の9.99%からカンサス州の4%まで州によって様々。そこで税負担をGDP比で対比。それによると、カリフォルニア州の法人税負担は0.47%で全米上位6位。なお、雇用者数の増減との関係をみると、総じて法人税負担が軽い州で雇用者数が大きく増加、逆に重い州では雇用者数が伸び悩んだり、減少。近年、法人税率を引き下げた州は、最大がカンサス州で7.35%から4%、次いでコネチカット州が10.5%から7.5%など合計9州。いずれも雇用者数が頭打ちから減少。
(ト)  税率の高さあるいは納税負担の大きさで、今日、わが国の法人税制は世界各国のなかで突出。一方すでに内外企業の海外流出は増大の兆し。今後一層グローバル化が進行し、より良い事業環境を求めて国際的視点から最適立地を目指す動きの拡がりは不可避。そうしたなか、際立って高い法人税率は内外資本の流出傾向を加速させ、深刻なマイナス影響を及ぼす懸念大。わが国法人実効税率を少なくとも08年以降のドイツやイギリスを目処に30%弱の水準まで引き下げることは喫緊の課題。
(チ)  法人税収は大きな財源。そのため、大幅な法人税率の引き下げは深刻な歳入欠陥を随伴し非現実的との批判も。しかし、法人税率の先送りは中長期的な経済停滞を招来する懸念が大きく、近視眼的との謗りを免れず。法人税率の引き下げを当為としたうえで、さらなる歳出の切り込みや歳入面での工夫や制度改正など、新たな歳出歳入の一体改革にゼロベースで改めて取り組む姿勢が強く求められる。さらに地方税収での役割見直しの観点も必要。法人税収が地方税収に占めるシェアをみると、2割強のわが国に対して、諸外国では総じてシェアは小。なかにはイギリスやフランスをはじめ地方政府が法人税を徴収しない国も10カ国に及ぶ。各国では、地方税では地域間の税収格差を増幅する傾向が強いため、法人所得税を国税とするケースが支配的。税率引き下げにとどまらず、税体系全体にわたる抜本的改革の一環として、法人税制の見直しは焦眉の急。
レポート目次
   
  1. はじめに

  2. 引き下げ広がる各国法人税率

  3. 各国法人税率引き下げの経緯とわが国への示唆

  4. アメリカ法人税率の動向とわが国への示唆

  5. 今後の課題
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