要旨 |
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わが国の出生率が低下している原因として、有配偶率(結婚率)の低下を指摘可能。実際、既婚女性の一人当たり出生数は大きな変化がみられないのに対し、女性の有配偶率は大きく低下。したがって、少子化問題を考える際には、女性の有配偶率低下の理由を探ることがポイント。本レポートでは、有配偶率の低下の一因として「景気要因」に着目して分析。
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(2) |
個人の景況感を表す指標として就業状況(就業の有無)を取り上げ、就業状況と有配偶率の関係をみてみると、1.女性では就業状況が有配偶率に及ぼす影響は不明瞭なのに対し、2.男性では就業者の有配偶率は高く、非就業者の有配偶率は低いという違いが鮮明。ここから、男性では、就業の有無が結婚の意思決定に大きな影響を与えていると判断可能。そのため、バブル崩壊以降の景気低迷により就業環境が悪化した結果、男性の就業率が低下し、これが有配偶率と出生率を低下させたというルートが存在。
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(3) |
そこで、一定の前提を置いて、1990年以降の就業環境の悪化が出生率を押し下げたインパクトを試算すると、2005年時点で、年間出生数でみて約10万人、合計特殊出生率でみて0.12ポイント下押しされているとの結果。これは、男性の就業率低下が20~30歳代で顕著であるため、同年代の女性の有配偶率も低下したことが主な原因。就業環境の悪化がなければ、出生率の低下ペースはもっと緩やかにとどまっていた公算が大。
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したがって、就業率引き上げ政策は、景気対策としてだけでなく、少子化対策としても有効。とりわけ、労働需要の拡大策が不可欠。若年層を中心に就業率が依然として過去のピークを下回っている現状を踏まえれば、当面は潜在成長率を上回る成長を目指して金融・財政政策を運営していくことが重要。 |