要旨 |
1. |
本レポートでは、マネーフローの観点から、近年拡大している「世界的な経常収支不均衡」の背景を探り、米国経常収支赤字がどの程度まで拡大可能かを検証。同時に、その持続可能性について検討する。
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2. |
90年代後半以降、OECD加盟国においても経常収支の対名目GDP比率のバラツキが拡大するなど、世界的な経常収支不均衡が増大。同時に、粗投資率と粗貯蓄率の関係をみると、80年代までは投資が貯蓄に制約される傾向があったが、近年はその関係が希薄化しており、国際資本移動の自由化が世界的な不均衡拡大に作用している可能性。すなわち、国際資本移動の自由化が、成長機会の豊富な国には海外貯蓄の活用(経常赤字は拡大)、成長機会に乏しい国には余剰貯蓄の海外での活用(経常黒字拡大)を容易にしており、結果として対外不均衡拡大に作用。
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3. |
以上を踏まえると、米国の経常赤字拡大は、米国が海外余剰貯蓄を惹きつけるだけの高成長を続けてきたことが背景。資本自由化の影響を踏まえて、米国経常赤字の拡大可能な水準について検討すると、OECD加盟国のホームバイアス希薄化を受け、80年代において▲3%とされた米国の経常収支赤字・対名目GDP比率の許容限度は、足許▲5%強に拡大していると試算。今後、OECD加盟国でのホームバイアス完全解消、非OECD加盟国での資本の自由化進展により、同許容限度はさらに拡大する可能性も。 |
4. |
もっとも、そうした水準での経常赤字が無条件で持続可能とは言い切れない。OECD各国の経常収支・対名目GDP比率をみると、投資収益率(実質GDP成長率/実質資本ストック)が高い国ほど経常収支赤字比率が高く、逆に、投資収益率の低い国ほど経常収支黒字比率が高いという傾向。したがって、米国への高水準の資本流入が維持されるには、今後も米国が諸外国対比高い投資収益率を保持し続ける必要。しかしながら、足許の米国の成長パターンは、将来の収益率上昇につながる設備投資よりも、その時点で過剰消費により、高い成長が実現されてきたのが実態で、今後の継続的な資本流入には不安。 |
5. |
米国への資金流入は、設備投資対名目GDP比率と連動。したがって、米国への大量の資金流入が維持されるか否かは、高い投資収益率を維持しつつ、設備投資の増勢がどこまで持続可能かに依存。米国の資本ストック循環をみると、期待成長率の上方シフトがない限り、08年頃からは設備投資にストック調整圧力が強まり始める可能性。IT関連投資の増勢鈍化を受け、米国の労働生産性、潜在成長率の伸びが鈍化し始めるなか、過剰消費に牽引された成長から、IT関連など質の高い設備投資に牽引された成長パターンに転換し、潜在成長率の引き上げ、投資収益率の向上につなげることができるかどうかが、米国の経常赤字問題の行方を大きく左右しよう。 |