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2006年09月27日

「地域格差」は拡大しているか ~統計的実態と格差意識の乖離が示唆するもの~

要旨
1.  いわゆる格差問題についての議論が盛り上がるなか、とりわけ「地域格差」が焦点の一つとして浮上している。日本経済全体は息の長い景気拡大を続けているものの、「大都市圏好調・地方圏不振」の声は根強く、地域格差が「悪い方向に向かっている」という意識を持つ人が急増している。
2.  雇用・所得面での「地域間格差」について検討すると、有効求人倍率の動きでみれば、ここ数年格差が広がる傾向が窺われる。しかしながら、長期的にみれば、直近のバラツキは歴史的にはなお小さく、むしろ求人倍率の底上げ傾向がみられる。失業率の地域区分別の格差をみても、一方的な拡大傾向は認められない。
 所得面について、名目賃金の過去10年の動きを都道府県別にみる限り、格差が拡大する傾向ははっきりとは確認できない。また、近年、生活保護世帯をはじめとする貧困世帯が増加しているが、この面でも地域間格差の拡大は歴史的にはなお限定的にとどまっている。つまり、所得・雇用面での統計から見る限り、地域間格差はここ数年拡大の兆しがみえるものの、やや長い目で見れば格差拡大を必ずしも断定できない。
3.  このように、人々が感じているほど、統計的には地域間格差の拡大傾向を明確には認められない理由としては、所得水準の格差自体は拡大していなくとも、「所得が増えている地域」と「所得が減っている地域」へと二極化することで、格差拡大が強く意識されているという事情が指摘できる。
 もう一点、格差拡大が強く感じられる背景として、「地域内格差」の問題が指摘できる。すなわち、同じ都道府県内でも、中核都市部と周辺都市・町村との格差が拡大している可能性であり、「地域内格差」が「地域間格差」としてすりかえられて論じられているとの構図が想定される。
4.  雇用・所得面に比べ、2000年代に入ってから生産面(企業活動面)での地域間格差は拡大の方向性がより明確に認められる。こうした所得面・生産面での違いの背景には、労働分配率の引き下げに向けて人件費抑制スタンスが維持されてきたことの影響を指摘できる。今後、生産面での地域格差拡大が続けば、徐々に生産好調地域での賃金の上昇傾向が強まり、所得面でも地域間格差の拡大が明確化していく可能性がある。
 加えて、既に顕在化し始めている「地域内格差」は、人口増減率の違いにより発生している面が大きいと考えられるだけに、今後、人口減少の本格化に伴って一段と大きな問題になっていく可能性が指摘される。また、貧困世帯が雇用悪化の見込まれる地方で顕著に増加していくリスクもある。
5. 以上みてきたように、雇用・所得面での中央と地方の格差拡大は、これまでところなお限定的といえ、この面からみる限りは、小泉政権下で推進された「公共事業削減」や「三位一体改革」を“地方を切捨て”と断定し、「構造改革路線」を否定する論拠にすることには慎重であるべきであろう。
 その一方で、人口減少の進展やグローバルな産業再編の影響から、先行き、様々なレベルで地域格差の問題が明確化していく可能性があり、この問題が本格化するのはむしろ今後であるといえる。
 中央と地方の役割分担の議論はこれからが本番であるが、議論の前提として、これまでの構造改革路線に対する冷静な評価がまずは欠かせない。加えて、将来的な地域格差拡大の可能性を踏まえつつ、印象論を退け、地方主権とナショナルミニマムの関係等、基本的な考え方についての議論を深めたうえで、適切な対応策を講じるというスタンスが求められている。
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