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役員報酬制度の設計に際して(1)

2019年01月08日 綾高徳


 役員報酬制度の設計について、実際にコンサルティングに関わってきた経験から、いくつかの見解を提示していきたいと考えます。第1回となる今回は「役員報酬制度の設計における“世間比較”との向き合い方」について筆者の考えを述べます。

 役員報酬を決める基盤となる報酬方針(ポリシー)は、有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書にて開示することが求められています。その際、ただし書きとして「当社の役員報酬水準は、世間水準を参考に決めております」「役員報酬の調査データ等を踏まえて検証しています」という一文を記述する――つまり「世間比較を行っていますよ」と表明するのがスタンダードになりつつあります。
 コーポレートガバナンス・コードにおいても「(抜粋)客観性・透明性のある手続きに従い、報酬制度を設計(補充原則4-2①)」することが求められており、これが世間比較を欠かせないものにしていると言えます。

 では、いわゆる世間の水準が分かったとして、それに盲目的に追従するのが健全な世間比較なのでしょうか? 筆者はここに留意すべき点があると考えています。
 世間比較とはつまるところ(1)何の項目を、(2)いかなる集団と比較して、(3)その結果をどうみるか、に他なりません。まず、(1)と(2)を一般論として振り返った上で、(3)に対する筆者の考えを述べたいと思います。

(1)比較項目の選定
 役員の報酬水準や報酬項目間構成比率に関する妥当性は、ⅰ)内部公平性とⅱ)外部公平性について、世間との比較分析を行いながら検証していきます。
 主たる比較項目を一覧化すると以下のようになります。

比較項目



(2)比較集団の設定
 比較集団は①同じ産業分類に属する会社群(比較集団ⅰ)と、②経常利益等が同水準の会社群(比較集団ⅱ)、③投資対象として魅力のある銘柄からなるJPX400等の企業群(比較集団ⅲ)という3つの比較集団を設定した上で、それら比較集団と対比させて自社の報酬水準・報酬項目間構成比率がどのような状況にあるのかを見ます。これ以外にも、同じ地域に立地する企業群や、社長が気にかけている企業群などを考慮するケースがあります。
 どちらかと言えば①②は報酬水準の検証、③は報酬項目間構成比率の検証に向いています。

(3)世間比較の結果をどうみるか
 では、上記が判明したところで、このデータをどのように扱えばよいのでしょうか。筆者はこれまでの経験を通じて、現時点では“役員報酬制度設計の意思決定プロセスにおいて、世間比較を重く見過ぎること”が問題ではないかと考えています。世間比較は、自社の現状を認識するための一側面に過ぎません。世間比較にとらわれて、行うべき報酬施策が滞ってしまっては本末転倒です。
 現在の日本の役員報酬制度改革は緒についたばかりです。自社なりの役員報酬制度を目指して、設計に取り組んでいる会社はまだまだ限定的です。むしろ多くの企業ではコーポレートガバナンス・コードへの対応として、役員報酬制度改革がディフェンシブに展開される傾向にあります。つまり、より良い企業になるために新たな改革に挑戦するのではなく、外部から責められないように最低限のことを行っておけばよいというスタンスです。時には、フォロワーで良しとして、様子見を決め込んでいる業界や企業をみかけることもあります(人事政策は元来、保守的なポジションを取ることがセオリーとされてきましたので、理解できなくはないのですが)。
 そのような中で世間比較の結果を重く見過ぎて素直にこれに倣えば、比較集団自体の役員報酬制度改革が発展途上である現在の状況を考慮すると、制度改革のあるべき方向性をミスリードしてしまう恐れがあります。
 世間比較した結果はあくまで1つの事実として冷静に距離をとって、それと向き合う姿勢が役員報酬制度の設計主体には求められると考えます。

 もちろん、ダイレクトにその結果を制度設計に活用できないからといって世間比較を軽んじて良いと言っている訳ではありません。比較分析を経ることのプロセス的意義と、それを経たことで見えてくる世間および自社に関する冷静な現状認識は、これから制度設計を進めていくうえで貴重な示唆を得ることにつながります。
 世間比較との差はあって当然のことで、中央値に近づけるという安易な意思決定は避けるべきでしょう。重要な点は、世間比較との差を報酬委員会等で、その背景を踏まえてきちんと説明できることにあると考えます。

最後に
 本考察では「役員報酬制度の設計における“世間比較”との向き合い方」について、1つの事実として冷静に距離をとってそれと向き合う姿勢の重要性を提起しました。このテーマは、後の回で述べますが、社外取締役への株式報酬の適用に関する議論や、グループとしての役員報酬制度における日本本社社長と海外関係会社CEOの報酬水準に関する議論等にも関係します。前者を例に取ると、社外取締役に基本報酬だけでなく例えば会社業績と数式で連動しないプレーンな株式報酬の適用を望んでいる企業はコンサルティングの現場感として少なくありません。社外取締役の役割に第3者として取締役会の意思決定をチェック(監督)することのみならず、中期的企業価値の向上に関する助言が含まれているとすれば、プレーンな株式報酬の適用はインセンティブの相反に当たらないと考えられるのですが、世間比較を重く見過ぎることで、まだ世間で広まっていない施策が受け入れられ難くなります。
 役員報酬制度の設計において、より一層の客観的な視点が求められている中で、あらためて世間比較との向き合い方が問われていると考えます。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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