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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第7回) 〜MaaSの可能性〜

2018年09月25日 井上岳一


 2000年代のスマホの普及によって、ライドシェア、カーシェア、バイクシェア(自転車シェア)などの新しいモビリティサービスが勃興した。これらの新しい交通手段と既存の公共交通を組み合わせて、ドアツードアでのシームレスな移動を実現するプラットフォームが2010年代になってから登場し始めた。それらは検索だけでなく、予約や決済も含めて、ワンストップでニーズを満たすことができるようになっている点で、既存の乗換案内サービスとは一線を画すものだった。
 このマルチモーダル型の統合モビリティプラットフォームがMaaS(Mobility as a Service)と呼ばれるようになったのは、2014年のことだ。ITSロードマップ国際会議で、MaaS(Mobility as a Service)のコンセプトが提唱されたことを契機とする。翌2015年には、欧州でMaaSを普及するための団体MaaS Allianceが設立され、2016年にはヘルシンキでMaaSオペレーターとなるMaaS Globalが設立された。

 MaaS GlobalのCEO、Sampo Hietanen氏は、MaaS普及の目的は、マイカー不要の社会をつくることにあると言う。自動車メーカーにとっては悩ましいが、サービス化の流れが止められないならば、その流れに棹をさし、かつ、プラットフォームのポジションをとりに行くのが戦略の定石だろう。昨年、トヨタファイナンスとデンソーは相次いでMaaS Globalに出資したが、それは、今年1月にモビリティサービスのプラットフォーマーとなることを宣言したトヨタの戦略と呼応する。

 既に東京や大阪のような大都市都心部では、公共交通が高度に発達し、マイカー不要の暮らしが実現している。末端のラストマイルまで考えればまだまだ改善の余地はあるし、2020年のオリンピック・パラリンピック開催時のことを考えると、MaaSのソリューションが必要となる場面もある。だが、MaaSが本当の意味で大きなインパクトをもたらすのは、マイカー依存度の高い地方都市である。

 都心に比べるとずっと生活費が安いと言われる地方の暮らしにおいて、唯一かさむのが、クルマの維持費である。一家に1台どころか、一人1台の暮らしは、いかに駐車場のコストが安いといえども、負担は大きい。国交省の調査によると、クルマ社会と言われる地方部でも、毎日のクルマの利用時間はせいぜい1時間だ。人の活動時間を18時間とすれば、1日のうち、せいぜい6%でしかクルマは使われていないことになる。それだけ稼働率が低いものなのに、維持費は高い。保険代、車検代、タイヤ代など含めれば、月数万円にもなる。
 MaaS GlobalのHietanen氏は、欧州の交通費は平均して一人当たり300ユーロ/月、そのうち240ユーロはクルマの維持費なのに、当のクルマの利用率は4%に過ぎない事実を引き合いに出し、たった4%しか稼働しないものに240ユーロも使うのはやめようと呼びかける。確かに、ほとんど稼働していないクルマに使われる240ユーロは、無駄遣い以外の何者でもない。おまけに、それは自動車会社を潤すかもしれないが、地域経済には大して裨益しない。マイカーは、国富には寄与するが、地域経済にとっては資金の流出源だ。
 
 一方、既存の公共交通事業者は地場の資本がほとんどだ。これら地場の事業者が中心になって地域版MaaSを展開すれば、自動車メーカーが吸い上げていた地域のお金を地域で回せるようになる。すなわち、MaaSは、地域内での資金循環を生む手段となり得るのである。おまけに、マイカーが減れば、渋滞がなくなり、駐車場も不要になるから、クルマ中心となってしまった都市の姿を人間中心に取り戻すこともできる。

 MaaSには、地方の経済と風景を変える力がある。そこにMaaSの可能性がある。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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